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第2章『新たな召喚獣、新たな世界/ファイントの章』
第56話 「(俺、殺されるかもしれないし)」
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「……出来ましたっ!!」
雑居ビルの一室で、1人の少女がそう大きな声をあげる。
待ってましたとばかりに、俺は扉を開けて部屋の中へと入る。
「速かったな。およそ1時間くらいか」
「『ボク』のスキルはおおよそ完成系を頭の中に浮かべています。後はそれに合わせて鍛冶仕事をするだけなので、今回は少し遅かったくらいですよ」
そう言いながらも、少女----『ベンチャーちゃん』こと花弁千夜葉の表情は、達成感に満ちていた。
今、俺は依頼にあった品を彼女、『ベンチャーちゃん』に渡して、ステータスを隠すためのアイテムを作って貰っていた。
ファイントによってダンジョン《雪山の騎士城》が消えた事は、真っ先に市役所とかに報告しておくべきことだとは思うが、俺は報告せずにこの『アイテム制作ベンチャー企業』の彼女のところに来ていた。
「(まぁ、どう説明して良いのか、信じてもらえるとも思ってないから)」
なにせ、『誰も見た事のないダンジョンコアを発見した』っていうだけでも大事なのに、『そのダンジョンコアを破壊して、ダンジョンを消滅させました!!』なんて言ったら、担当者の方、倒れちゃうんじゃないかな……。
あるいは、ただの妄想話の1つとして片づけられるか、なにかしらの研究機関に入れられちゃうんじゃないだろうか。
「(うん、言わなくて良いな!)」
どう考えても、悪い方向にしか行かない以上、黙っているのが正解な気がする。
うん、そうに違いない。
「今、持ってきますので、座ってお待ちください」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
俺はそう言って、彼女が勧めてくれた席へと座る。
奥へ入って行った『ベンチャーちゃん』は、俺が依頼したのをこちらへと持ってこようとしているみたいだが、少々準備に手間取っているみたいである。
なんて言うか、色々と机の上に物が散乱している様子を見ると、片付けからはじめようとしているみたいだ。
「そう言えば……昨日ニュースで見て『ボク』、びっくりしたニュースがあったんですけど。
冒険者が別の職業に変更になったという話なんですが、あれってマジでしょうかね?」
片付けている間を紛らわせる話題の1つとでもしようとしているんだろうか、『ベンチャーちゃん』はそう話題を振ってきた。
「あー、まぁちゃんと市役所でも確認してあるっぽいですよ」
『ベンチャーちゃん』から話を振られた、冒険者の職業変更事件。
それは最近、テレビのニュースの1つとして、報道された、結構大きい事件である。
なんでも、とある【戦士】の女冒険者が、いつものようにダンジョンに潜ろうとすると、謎の声が聞こえたんだそうだ。
「我は神なり。汝、【着ぐるみ】の職業として生きる覚悟はあるか?」という。
なにかのプロモーションだと思った女冒険者は、素直に「はい」と答えた。
【戦士】だった女冒険者の職業が、【着ぐるみ】なる別の職業へと変わったのである。
他にも何人か声を聞いた冒険者が居るらしく、返事に応じた冒険者は全員が【着ぐるみ】という、今まで聞いたことのない職業に変えられたんだそうだ。
「けっこう、市役所でも戸惑って対応してましたよ。いきなり声に頷いたと思ったら、装備が全部モフモフの着ぐるみになっていて、と」
「へぇ~、あれって本当のニュースだったんですね。『ボク』、ダンジョンに潜れないので市役所に行く機会がほとんどなくて」
まぁ、『ベンチャーちゃん』は、ダンジョンに潜れない冒険者だもんなぁ……。
冒険者になってなかったら、市役所なんてそんなに頻繁に訪れる場所でもないし、当然かぁ。
「まぁ、『ボク』にもその神の啓示とやらが聞いてみたいですけどね」
と、『ベンチャーちゃん』は小さな声で、溜め息交じりにそう言っていた。
「モノ作りも楽しいですが、やっぱりダンジョンっていうのに憧れちゃいますからねぇ……。そのために、『ボク』は冒険者になったんですから。
まさか、市役所で登録したら、こんな命題のせいで、入れなくなるとは思ってませんでしたが」
「アハハッ!」と、なんだか無理して笑っている『ベンチャーちゃん』。
彼女の苦しみを、俺は理解することが出来ない。
俺ははずれ職業である【召喚士】になってしまった時、かなり落ち込んだ。
けれども、『ベンチャーちゃん』の場合は、そもそも入ることが出来ないと通達されたんだから、落ち込みっぷりは俺の比じゃないだろう。
「……はぁ~、やめやめっ! 出来ない事は考えない! それが『ボク』のポリシーです!」
と、無理やり立ち直った彼女は、俺の前にある机に1つのアイテムを置いた。
「こちら、ご依頼品から作成いたしましたアイテム----その名も、『男装令嬢の胸当て』でございます」
彼女が机の上に置いたのは、雪ん子に似合いそうな、真っ白の胸当てであった。
胸当ての真ん中には赤い薔薇の紋様が描かれており、デザインから見ても普通に良さそうな代物だった。
===== ===== =====
【男装令嬢の胸当て】 装備アイテム
高貴な令嬢が、自らの身分と性別を隠して、活動するために作られた胸当て。アイテムに付けられた魔術的な効果によって、自分の正体を偽ることが出来る
装備することで、【装備者のステータス情報の一部を隠す】、【胸のサイズを男並み(絶壁にする)】の2つの効果を発揮する
===== ===== =====
問題があるとすれば、この装備アイテムを渡した瞬間に、雪ん子に殺されても文句は言えないってことだろうか?
なにせ、「お前、今日から貧乳決定な!」なんてことを、女性に言うのと同義なことを、雪ん子に言って渡さなければならないんだから。
「(もしかしたら、俺、殺されるかもしれないし)」
年頃の娘にブラジャーを渡す父親の気分だよ、まったく……。
「どうやら、その顔は……『ボク』の作った物は、『冴島渉さん』のご要望通りではなかったみたい、ですね」
「端的に言えば、そうかも、です」
流石にこれを、雪ん子には渡せないだろう。
無言で付けるか、ファイントがケラケラと笑っている姿が、想像できる。
「……そうですか。では、作り直しますね」
「あぁ、じゃあちょっと外で待って----」
もう一度、部屋の外へと出て、待ってようと思った時だった。
『ベンチャーちゃん』の瞳が、真剣な目つきでハンマーを振り上げていた。
「----大丈夫ですよ、『冴島渉さん』。1回です、1回で終わりますので」
そう言って、彼女はハンマーを1回、本当に1回だけ、『男装令嬢の胸当て』を叩いた。
ハンマーが胸当てに当たると、そこから、まるで蛍の光のような淡い緑色の光の球がふわふわと浮かんで、胸当てが粘土のようにぐにゃにゃと変形していく。
それはまるで、おとぎ話のような光景で。
「出来ました、こちらならいかがでしょうか?」
出来上がったのは、ペンダント。
胸当てから綺麗な鎖付きのペンダントとなって、俺の前に現れていた。
===== ===== =====
【王家のペンダント】 装備アイテム
王族の人間の証明として手渡されるペンダント。普段は周囲の人々からその高貴さを隠すため、そして有事の際は中に入っている物で王族である事を証明するためと、状況に応じて使い分けが出来る一品
装備することで、【装備者のステータスの一部を隠す】、【秘密の通路を見つけやすくなる】、【王としてのカリスマのため、装備者と同種族を率いる際にプラス効果がある】の3つの効果を発揮します
===== ===== =====
それは、本当に素敵なペンダントだった。
「(これだったら、雪ん子も普通に装備してくれるだろう)」
それに、2つ目と3つ目の効果も素晴らしい。
特に3つ目なんて、【召喚士】の俺との相性もぴったりじゃないだろうか。
「良かった、喜んでいただけたようで」
と、『ベンチャーちゃん』はホッとしたような表情で、こちらを見ていた。
「やっぱり、『ボク』が作った物で、依頼者が喜んでくださる姿を見ると、幸福に感じますね。ダンジョンには潜れませんが」
「あぁ、そうだ」と、彼女はペンダントの横に、さらにモノを置いていく。
「こちら、追加依頼の方のモノになります。
こちらの方も合わせて、ご確認くださいませ」
雑居ビルの一室で、1人の少女がそう大きな声をあげる。
待ってましたとばかりに、俺は扉を開けて部屋の中へと入る。
「速かったな。およそ1時間くらいか」
「『ボク』のスキルはおおよそ完成系を頭の中に浮かべています。後はそれに合わせて鍛冶仕事をするだけなので、今回は少し遅かったくらいですよ」
そう言いながらも、少女----『ベンチャーちゃん』こと花弁千夜葉の表情は、達成感に満ちていた。
今、俺は依頼にあった品を彼女、『ベンチャーちゃん』に渡して、ステータスを隠すためのアイテムを作って貰っていた。
ファイントによってダンジョン《雪山の騎士城》が消えた事は、真っ先に市役所とかに報告しておくべきことだとは思うが、俺は報告せずにこの『アイテム制作ベンチャー企業』の彼女のところに来ていた。
「(まぁ、どう説明して良いのか、信じてもらえるとも思ってないから)」
なにせ、『誰も見た事のないダンジョンコアを発見した』っていうだけでも大事なのに、『そのダンジョンコアを破壊して、ダンジョンを消滅させました!!』なんて言ったら、担当者の方、倒れちゃうんじゃないかな……。
あるいは、ただの妄想話の1つとして片づけられるか、なにかしらの研究機関に入れられちゃうんじゃないだろうか。
「(うん、言わなくて良いな!)」
どう考えても、悪い方向にしか行かない以上、黙っているのが正解な気がする。
うん、そうに違いない。
「今、持ってきますので、座ってお待ちください」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
俺はそう言って、彼女が勧めてくれた席へと座る。
奥へ入って行った『ベンチャーちゃん』は、俺が依頼したのをこちらへと持ってこようとしているみたいだが、少々準備に手間取っているみたいである。
なんて言うか、色々と机の上に物が散乱している様子を見ると、片付けからはじめようとしているみたいだ。
「そう言えば……昨日ニュースで見て『ボク』、びっくりしたニュースがあったんですけど。
冒険者が別の職業に変更になったという話なんですが、あれってマジでしょうかね?」
片付けている間を紛らわせる話題の1つとでもしようとしているんだろうか、『ベンチャーちゃん』はそう話題を振ってきた。
「あー、まぁちゃんと市役所でも確認してあるっぽいですよ」
『ベンチャーちゃん』から話を振られた、冒険者の職業変更事件。
それは最近、テレビのニュースの1つとして、報道された、結構大きい事件である。
なんでも、とある【戦士】の女冒険者が、いつものようにダンジョンに潜ろうとすると、謎の声が聞こえたんだそうだ。
「我は神なり。汝、【着ぐるみ】の職業として生きる覚悟はあるか?」という。
なにかのプロモーションだと思った女冒険者は、素直に「はい」と答えた。
【戦士】だった女冒険者の職業が、【着ぐるみ】なる別の職業へと変わったのである。
他にも何人か声を聞いた冒険者が居るらしく、返事に応じた冒険者は全員が【着ぐるみ】という、今まで聞いたことのない職業に変えられたんだそうだ。
「けっこう、市役所でも戸惑って対応してましたよ。いきなり声に頷いたと思ったら、装備が全部モフモフの着ぐるみになっていて、と」
「へぇ~、あれって本当のニュースだったんですね。『ボク』、ダンジョンに潜れないので市役所に行く機会がほとんどなくて」
まぁ、『ベンチャーちゃん』は、ダンジョンに潜れない冒険者だもんなぁ……。
冒険者になってなかったら、市役所なんてそんなに頻繁に訪れる場所でもないし、当然かぁ。
「まぁ、『ボク』にもその神の啓示とやらが聞いてみたいですけどね」
と、『ベンチャーちゃん』は小さな声で、溜め息交じりにそう言っていた。
「モノ作りも楽しいですが、やっぱりダンジョンっていうのに憧れちゃいますからねぇ……。そのために、『ボク』は冒険者になったんですから。
まさか、市役所で登録したら、こんな命題のせいで、入れなくなるとは思ってませんでしたが」
「アハハッ!」と、なんだか無理して笑っている『ベンチャーちゃん』。
彼女の苦しみを、俺は理解することが出来ない。
俺ははずれ職業である【召喚士】になってしまった時、かなり落ち込んだ。
けれども、『ベンチャーちゃん』の場合は、そもそも入ることが出来ないと通達されたんだから、落ち込みっぷりは俺の比じゃないだろう。
「……はぁ~、やめやめっ! 出来ない事は考えない! それが『ボク』のポリシーです!」
と、無理やり立ち直った彼女は、俺の前にある机に1つのアイテムを置いた。
「こちら、ご依頼品から作成いたしましたアイテム----その名も、『男装令嬢の胸当て』でございます」
彼女が机の上に置いたのは、雪ん子に似合いそうな、真っ白の胸当てであった。
胸当ての真ん中には赤い薔薇の紋様が描かれており、デザインから見ても普通に良さそうな代物だった。
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【男装令嬢の胸当て】 装備アイテム
高貴な令嬢が、自らの身分と性別を隠して、活動するために作られた胸当て。アイテムに付けられた魔術的な効果によって、自分の正体を偽ることが出来る
装備することで、【装備者のステータス情報の一部を隠す】、【胸のサイズを男並み(絶壁にする)】の2つの効果を発揮する
===== ===== =====
問題があるとすれば、この装備アイテムを渡した瞬間に、雪ん子に殺されても文句は言えないってことだろうか?
なにせ、「お前、今日から貧乳決定な!」なんてことを、女性に言うのと同義なことを、雪ん子に言って渡さなければならないんだから。
「(もしかしたら、俺、殺されるかもしれないし)」
年頃の娘にブラジャーを渡す父親の気分だよ、まったく……。
「どうやら、その顔は……『ボク』の作った物は、『冴島渉さん』のご要望通りではなかったみたい、ですね」
「端的に言えば、そうかも、です」
流石にこれを、雪ん子には渡せないだろう。
無言で付けるか、ファイントがケラケラと笑っている姿が、想像できる。
「……そうですか。では、作り直しますね」
「あぁ、じゃあちょっと外で待って----」
もう一度、部屋の外へと出て、待ってようと思った時だった。
『ベンチャーちゃん』の瞳が、真剣な目つきでハンマーを振り上げていた。
「----大丈夫ですよ、『冴島渉さん』。1回です、1回で終わりますので」
そう言って、彼女はハンマーを1回、本当に1回だけ、『男装令嬢の胸当て』を叩いた。
ハンマーが胸当てに当たると、そこから、まるで蛍の光のような淡い緑色の光の球がふわふわと浮かんで、胸当てが粘土のようにぐにゃにゃと変形していく。
それはまるで、おとぎ話のような光景で。
「出来ました、こちらならいかがでしょうか?」
出来上がったのは、ペンダント。
胸当てから綺麗な鎖付きのペンダントとなって、俺の前に現れていた。
===== ===== =====
【王家のペンダント】 装備アイテム
王族の人間の証明として手渡されるペンダント。普段は周囲の人々からその高貴さを隠すため、そして有事の際は中に入っている物で王族である事を証明するためと、状況に応じて使い分けが出来る一品
装備することで、【装備者のステータスの一部を隠す】、【秘密の通路を見つけやすくなる】、【王としてのカリスマのため、装備者と同種族を率いる際にプラス効果がある】の3つの効果を発揮します
===== ===== =====
それは、本当に素敵なペンダントだった。
「(これだったら、雪ん子も普通に装備してくれるだろう)」
それに、2つ目と3つ目の効果も素晴らしい。
特に3つ目なんて、【召喚士】の俺との相性もぴったりじゃないだろうか。
「良かった、喜んでいただけたようで」
と、『ベンチャーちゃん』はホッとしたような表情で、こちらを見ていた。
「やっぱり、『ボク』が作った物で、依頼者が喜んでくださる姿を見ると、幸福に感じますね。ダンジョンには潜れませんが」
「あぁ、そうだ」と、彼女はペンダントの横に、さらにモノを置いていく。
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