俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

文字の大きさ
77 / 354
第2章『新たな召喚獣、新たな世界/ファイントの章』

第76話 今日から君はラブホちゃん

しおりを挟む
 無事、俺は佐鳥愛理の魔の手から、ファイントを助け出すことに成功した。
 《サリエリのアジト》と言う名のダンジョンはファイントの手によって、消滅させて、ドロップアイテムも全部回収しておいたし、これで事件解決と言って良いだろう。

 しかも、ファイントも《悪の天使》という称号を得てレベルⅢに、ついで(?)に吸血鬼ココアも《悪の手先》という称号になってレベルⅢに----先に進化させてレベルⅢとなっていた雪ん子も合わせて、これで俺だけのレベルアップ召喚獣は3体とも、レベルⅢになったという事だろう。

「----で、なにも覚えてないのか」
えぇ・・覚えてないです・・・・・・・♪」

 《サリエリのアジト》を出た俺は、もう当然の事のようにダンジョン外でも着いて来ているファイントに尋ねるも、彼女は覚えてないと答えた。
 明らかにファイントがレベルⅢになった原因は、佐鳥愛理がなにかしたのだと思う。
 だからこそ、ファイントに何があったのか思い出そうと思ったのだが、彼女は覚えてないと言う。

 ファイントの事だから、白を切っている可能性も高そうだが……。

「ご主人、私は敵に攫われてたんですよ? そんな魔王に攫われていたヒロインにかける言葉が、【なにか覚えてないか?】だったら、私もダークサイドに落ちちゃいますよ~?
 良いんですかぁ、こーんな可愛い女の子召喚獣を、闇堕ちヒロインにする性癖フェチなんです?」
「いや、誰がそんな特殊性癖か」

 いや、同じようにレベルⅢ----つまりは、人間の悪意を受けて《悪の手先》吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世に変質した彼女は、覚えていると言っていたから。
 ----彼女が《悪の手先》へと、ダークサイドへと落ちるきっかけ。

 佐鳥愛理を追うために足止めを任された、《清浄剣ムタクキセ》ソードダンサー達3体を倒し、戦いを終えて。
 少しばかり休憩のために、吸血鬼ココアがゆっくりしていた時の事。

 吸血鬼ココアの前に、1人の悪意が現れたのだ。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「おー、なんか負けてんじゃん。《文明》ちゃんご自慢のソードダンサー部隊」

 気だるげな声と共に吸血鬼ココアの前に現れたのは、金髪エルフ耳の少女。
 修道女服シスター服を着崩し、まるで羽織るかのように着ており、左袖には【甘言】と書かれた腕章をつけていた。

「で、倒したのは君なのかい? そこの吸血鬼ちゃん?」

 と、金髪シスターの少女は、クルクルとガンホルダーから金色の拳銃を取り出し、吸血鬼ココアに銃口を向けていた。

「妾に用かのう? 金髪エルフ殿?」
「えー、うちはエルフじゃないんですけど? このエルフ耳、ただのアクセサリーなんですけど?」

 ぽんっと、自分の長いエルフ耳を取り外す彼女。
 どうやら本当に、アクセサリーのようである。

「それに、うちには一応、【甘言のシーヴィー】という名前があったりするんですけれども? 今日は、パーティーメンバーの【文明のサトエリ】ちゃんの様子を確認しに来たんですが?」
「【甘言】……【文明】、じゃと?」
「サトエリちゃん……佐鳥愛理ちゃんは、うち達3人・・パーティーの仲間だって言うか? と言うか、今時ダンジョンソロ攻略なんて流行らんって言うか?」

 その辺りの会話から、吸血鬼ココアはこの相手の素性を理解した。

 この金髪シスターは、主が追っている佐鳥愛理のパーティー仲間だと。
 つまりは、佐鳥愛理の居場所を知っている可能性が高い。

「(ちょうど良いじゃろう。佐鳥愛理が逃げる可能性がある以上、ここで主のためにこの金髪シスターを捕まえておくべきではなかろうか?)」

 吸血鬼ココアにとって、パーティーとは助け合う仲間----つまりは家族。
 自分が出来る事はして、自分が出来ない事は相手にしてもらう。
 弱点が多い吸血鬼であるココアだからこそ心に常に念じている、哲学である。

 今、この場でやるべきことは、主の邪魔をする相手を足止めする事。
 そして、佐鳥愛理の情報を得る事。

 そう思えば、この金髪シスター……【甘言のシーヴィー】と名乗る彼女を捕まえるのは、正しい事だろう。

「----良いじゃろう。この吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世が、お相手を務めるのじゃ!!」

 吸血鬼らしく誇りを胸に抱き、ココアはそう言ったのだ。


「そうですか、ならばあなたの事は【ラブホちゃん】と呼ぶことにしましょう」


「----は?」

 背中がゾクゾクっと、気持ち悪い物体で撫でられる感覚がした。

 ココアは聞き間違いだと思った。
 だが、自分の心が----どこまでも重く圧し掛かってくる悪意の波が、その言葉を聞き間違いだと否定させてくれなかった。

「(今、こいつは妾の事をなんと言った? ラブホ、ちゃん、じゃと?)」
「うん? 聞こえてない系? 普通に、あなたの事を呼んだんだけど、ラブホちゃん?」

 どうやら、間違いではなかったみたいである。
 この金髪シスターは、誇り高い自分の事を、"ラブホちゃん"などと呼んだのだ。

 あろうことか、あんな低俗な性行為をするための施設なんかを、あだ名なんかとして。

「だって、ミドルネームの"ガールハント"って、うちん家の近くにあったラブホの名前じゃん? なんか特徴的な名前だったから、憶えてんだよねー。
 だから、狐吸血鬼な君のことは、今日からラブホちゃんって呼ぶよ。よろしくね、ラブホちゃん」
「お、お主っ----!!」

 それは、ココアが今までに聞いた事ないくらい、悪意に満ちた悪口だった。
 軽く冗談のように話しているみたいだが、底抜けの悪意に満ちた言葉であった。

 恐らくは彼女の言葉こそが、彼女の武器だ。
 あんな見せかけだけの金色の銃なんかより、人の心にずかずかと悪意をぶち込むこの悪口こそが、彼女の武器なのだ。

「(妾の仲間には悪属性の力を得た2人----雪ん子とファイントがおるが、コイツの言葉からも同じ気配を感じるのう)」

 -----ただし、別格の悪意。
 量も、そして質も、この金髪シスターが何気なく言った言葉の方が遥かに上。

 例えるなら、悪意の坩堝るつぼ
 悪意を集約して生まれた女。

「戦う気かい? ならば、覚悟して挑むと良かろう。
 うちは、ダンジョンが蔓延るこの世界で、"最強の【召喚士】"だからね」



 そして、ココアは負けた。
 たったレベルⅠの召喚獣2体-----金髪シスターが召喚した、レイスとドラゴンエッグに。

「じゃあ、最後にうちからラブホちゃんにプレゼントをあげよう」

 そう言って、彼女は倒れるココアの右目を、"ぐいっと引きちぎった"。

「~~~~!!」
「ファッションって、廃り流行りが激しい文化じゃないですか」

 なんでいきなりファッションの話になるのか、右目を抉られて、熱を感じるココアには理解できなかった。いや、理解したくなかった。
 その最中に、もう片方の左目を、"ぐいっと引きちぎっていた"から。

「~~~~!!」
「だから、うちはあと4年後くらいに来ることを見越しているんですよね」


「----目玉の代わりに、ボタンが主流となるファッションを」


 そう言って、目がボタン・・・・・という、ココアが気付きながらも触れたくなかった要素を持つシーヴィーは、

 抉って空となった、ココアの両目跡に、ボタンを縫い付ける。




「はい、可愛い♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

地獄に落ちた僕らは生きる意味を知った。

姫がかり
ファンタジー
死んだはずの僕は、 “地獄”で目を覚ました。 傷だらけの少女を背負って、この世界を歩き続ける。 ここには“死すら許されない苦しみ”がある。 それでも、守りたい命がある。 これは、生きる意味を失った僕らが、 もう一度“生きよう”とする物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...