処女壊体-the making of a saint-

柘榴

文字の大きさ
13 / 125
第2章 縫合の刑

第13話 痛覚と支配

しおりを挟む
「ぐっ……うっ……ッ」
吐瀉物に加え容赦なく注ぎ込まれる流動食。茜の頰は大きく膨らみ、暴発寸前にまで膨張していた。縫われた口の隙間から汚物が徐々に漏れ出し、微量を排出していたが、流動食の供給量にまるで追いついていない。
「ぎ……ィ、あ……ッ」
 窒息寸前の茜の顔から血の気が引いていき、真っ青になっていくのが分かった。このままでは自身の吐瀉物で窒息死するかもしれない。
 ある程度、茜へ苦痛を与え、茜に僕への恐怖と畏怖を刷り込んだら僕もさっさと助けてやるつもりだった。本来はそれが目的で、これは単なる手段なのだから。

 だが、そんな僕の心配は杞憂に終わる。

「……何をしている、茜」
 僕が気付いてから数秒、僅かの時間だった。
 なんと苦しみの果て、茜は自らの唇に縫い込まれたワイヤーを、残された腕力を振り絞り力任せに引きちぎったのだ。
 ガレージ内に夥しい量の真紅の血が飛び散る。そして、血溜まりの中には桜色の唇だった肉片が引き裂かれ、無残にも転がっていた。

「はァ……ッ、ごほッ……」
 吐瀉物を全て吐き出し、十分な酸素を得た茜は激しく咳き込んでいる。
 口元は、真っ赤な口紅を塗りたくったように血で濡れていた。
 手の拘束を解いてやったのが間違えだった、と僕は頭を抱える。

「……馬鹿な真似を……そうまでして僕の愛を受け入れる事を拒否するか……君は予想以上に物分かりが悪いな」
 茜の愚かな行為に、僕は怒りを露わにする。まさか茜がここまでするとは予測していなかった。
 僕の愛を黙って受け入れれば、こんな痛みも傷も負うことはなかった。すぐに唇からワイヤー抜糸してやり、傷口も残らぬよう綺麗に処置してやるつもりだった。
 なのに、なのに……茜は僕の愛を受け入れる事を拒否した。
 そうまでして、僕の愛を侮蔑したいのか。僕の中では怒りと憎悪が渦巻く。

「何故、何故僕の愛を否定する? そうまでして……」
「……こんな事で、女心を……気持ちを思い通りにできると思った? 舐めないで、女を……私を」
 茜は不敵に笑い、僕を睨み付けた。
 これには正直驚いた。ここまでの痛み、苦痛を与えれば女などすぐに言いなりの奴隷になると思っていた。心も身体も僕の思いのままだと思っていた。
 けれど、茜は違う。違うのだと思い知らされた。
 僕は茜を誘拐してから、初めて彼女に主導権を持っていかれる程に驚愕し、焦りを感じずにはいられなかった。
「まぁ、いい。君のその内に秘めた気丈さも嫌いじゃない……君のその強がりがいつまで続くかも、楽しみだしね」
 しかし、これはこれで楽しめる。僕の想像を超える事が、これからも何度もあるのではないかという期待が膨らむ。
 
 茜があそこまでするなんて。
 少し痛めつければ、茜が黙って服従する事を前提にしていた僕は、内心では正直、驚愕以上に関心を示していた。
「……まだ何かする気? 言っておくけど。身体の自由は奪えても、心までは絶対にあんたなんかに奪わせない……絶対に……ッ」
 こうなると別のアプローチが必要になる。だが痛み以外で、彼女をどう支配する? 今までの人生、他人との接触にことごとく失敗してきた僕には、痛みと苦痛を与える事以外に、茜を支配する術が分からなかった。
 分からない、分からない、分からない。他者を支配する為の手段が。

「茜、君はどうして分からない? 僕は別に君を痛めつけ苦しめたい訳じゃない。君がただ、僕を認めて愛してくれればこんな真似もせずに済む。何故、痛みと苦しみの中でも……」
 何も分からなかった。彼女を支配する手段も、彼女が僕を否定する意味も。
「……絶対に、あんたみたいな卑怯者になんて屈しない。なんの努力もせず、結果だけを得ようとする屑になんて……ッ」
 言葉で茜と理解し合えないのは既に明白。僕の心の全てを吐露しても、彼女が僕を理解する事は無いだろう。
 けれど、僕を睨み付ける茜を前に、僕は情けないがそれしかできなかった。

「茜、これ以上僕を否定するのなら僕も更なる痛みを与えなければならない。それは本意ではないし、君の美の保全そのものにも影響する……良い加減、理解してくれ、頼む……」
 再教育の過程では痛みは必要だ。だが、それは目的では無い。
 僕の本来の目的は茜という美の象徴の永久の保全。身も心も僕が保全し、僕が管理するはずだった。
 僕はこんなにも君の事を考えているのに、何故分からない? そんな思いから、僕の手は自然に茜の頰へと伸びていた。
 しかし、それを察知した茜は僕の指に獣の様に噛み付き、否定する。

「くっ……」
「触らないで! あんた……最低よ……こんな真似までしておいて、何を理解しろって言うの!? イかれてる!」
 再度、茜は僕を否定した。僕を。
 他者から否定される事には慣れている。だが、信じていた、愛していた者に真っ向から否定される痛みには、慣れる事は無いのだろう。

 あの時のように。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...