処女壊体-the making of a saint-

柘榴

文字の大きさ
23 / 125
第3章 切断の刑

第23話 茜の罠

しおりを挟む
 それから、更に二日が経過した。茜にはあれから流動食はおろか、水すら与えていない。

 だが、茜はそれでも僕に助けを請わず、ただ虚ろな目で虚空を見つめたままだった。

「……」
 言葉も発せず、泣きも喚きもしない。それ程の力すら最早、茜には残っていなかったのだ。
 もう、身体はとっくに限界を迎えていた筈だった。しかし、茜は最後に残った意地で僕の助けを拒み続けた。つまらない、無駄な事だというのに。
「茜、もういいだろう。これ以上、意地を張っても無駄だと思い知ったはずだ。何も変わらない……何も変えられないんだ」
 茜自身も、既に無駄な抵抗だと分かっているはずだ。このつまらない意地は、自身の苦しみと不幸を増長させているだけなのだと。
 だが、それでも茜は僕を頼ろうとはしなかった。
「黙っていないで、いい加減に口を開け。そして、口にしろ。分かるだろう? 僕の望む言葉が」
 茜の髪を掴み、僕は強い口調で言う。しかし、茜は目の焦点すら合わせない。
「……」
 人間は弱い生き物だ。いくら強い気持ちを持っていても、身体の限界、苦痛には抗えない。
 生身の身体を持つ茜も、例外ではない。やがては僕を求めなければ生きる事すらできない。

「……みず……」
 しかしその時、とうとうしゃがれ切った声で茜が僕に懇願した。
 あの茜が、僕を頼ったのだ。僕に弱みを見せ、助けを求めてきたのだ。
「欲しいか? 冷たい水で、喉を潤したいか?」
 茜の頰を撫でながら意地悪く問う。
「お、ね……がぃ……」
 それに対し、限界を超えた茜は必死に僕へ懇願する。大嫌いな筈の、僕へ。
 僕の広角は自然に吊り上がった。
「ああ、仕方がない。君は一人じゃ何も出来ない出来損ないだ。だから、僕がいなければ生きる事すら出来ない、違うか?」
 それに対し、僕は更に畳み掛ける。
 そして、僕は茜の言葉を待つ。
「いき……れ、ません」
「だろう? ならば、理解しろ。茜、君は……僕の所有物。生かすも殺すも……僕の気まぐれだという事を」
 僕の言葉に、茜は壊れた人間の様に何度も首を縦に振る。
 いくら意地を張ろうが、人間などこんなものだ。苦痛に弱く、常に快楽を求める。

「はや……く……お、ね」
 最早、茜は餌を求める低俗な家畜と同様だった。数日前までは僕を口汚く罵っていた気丈な女が、この様だ。
 そして、人間など所詮その程度のくだらない生き物だと改めて確信する。だからこそ、僕の手で茜をただの人間から更に高尚な存在へと昇華させなければならないとも強く思う。
「ふん、卑しい女だ。だが、そんな君も僕は愛し、生かそう」
「……あり、が……とぅ……」
 僕の言葉に、茜は薄っすらと笑みを浮かべた。あの茜が、僕に対してだ。そのか事実を体感するだけで僕は限りなく大きな興奮を覚える。
 それと同時に、人間の低俗さも思い知る。
 人間など、手段を選ばなければこうも簡単に支配できるのだ。なんて下らない、弱い存在だろう。

「今、冷蔵庫から持ってきてやる。だから……大人しく待っているんだ、いいね?」
 人間など、所詮は低俗で単純な生き物なのだ。
 だから、そんなものは簡単に支配できる、従える事ができるとも思い込んでいたのだ。

 ……この時までは。

 ……そして、僕はこの時、気付いていなかったのだ。

 茜の芯は、まだ壊れてなどいなかったという事を。

 そして、既に茜の罠に僕はまんまと嵌められているという事にも。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...