2 / 125
第1章 妄執の刑
第2話 純潔の聖処女
しおりを挟む
彼女……『吹山 茜』を初めて見たのは大学のある講義の中だった。本来、医学部である僕と体育学部の彼女が講義で一緒になる事はほぼ無いのだが、たまたま全学部共通の必修授業の中で彼女を見つけた。
彼女は病的に美しかった。陸上部で鍛え上げられた彫刻のような肉体に勉学も優秀。その上、色恋沙汰には一切の興味がないと噂の……まさに穢れを知らない、純潔の聖処女。一目見たとき、僕の脳内に電撃が走った。彼女は『芸術』だ、と。
それと同時に僕の中で芽生えたのだ、この美しき『芸術』を彼女の美しさを理解する僕自身の手で保全しなければならないという責任感が。
それから僕は完全に彼女の虜になった。彼女の事は調べられるだけ調べたし、僕自身も彼女を手に入れる為にはどうすべきかを考えた。彼女の全てを分析し、住所などの個人情報から趣味やお気に入りの店が何処かも全て把握した。準備は万全だった。
そして、準備を整えた僕は彼女……茜に自らの想いを告白をする事にした。
講義後、部活に向かおうとする茜を呼び止め、校舎裏へと呼び込んだ。そして、僕は彼女に思いを伝えた。緊張など微塵も無かった。何故なら、彼女と僕は結ばれる運命にあるのだとこの時点で既に確信していたからだ。
だが、それに対し、茜は驚いていた。まぁ、最初は無理もないだろう。何故なら僕と茜が面と向かって話すのはそれが初めてだったからだ。僕は茜を知っていても、茜は僕の事を知らなかったのだ。
「ごめん、なさい……まず、私たち話すのも初めてですよね? というか、何処かでお会いしました……?」
「僕はずっと君を見ていたよ。君が気付いていなかっただけで、ずっとね」
茜は何故か困ったような、引きつった顔をしていた。彼女の事を知り尽くし、尽くそうとしているこの僕からの申し出を、何故か茜は喜ぼうとはしなかったのだ。
「君の事は何でも知っている。君にとって、僕以上の存在はいない。僕にとっても、君以上の存在はいない、つまり、僕達は互いに求め合っている。優秀な君なら分かるだろう?」
僕は僕の知り得る茜の全ての情報を次々と羅列していった。住所、趣味、バイト先、出身高校……彼女の事で知らない事など既に無かった。つまり、それが僕の茜への愛の重さを示している。これだけ茜の事を知り、愛を持つ男が僕以外にいるだろうか、いや、いるはずがない。
だから……僕は茜にとって一番の男のはずであり、結ばれるべきだった。
けれど、僕の話を聞けば聞くほど茜の表情は徐々に曇って行くばかりだった。
それどころか茜の表情は更に変化し、僕に対して畏怖と嫌悪感を示す表情に変化していったのだ。
「……とにかく、お付き合いはできません。部活があるので、もう失礼してもいいでしょうか」
「待ってくれ……君は僕と一緒にいるべきなんだ、どうして分からない? 君は他の馬鹿とは違うはずだ……茜!」
茜は逃げるように僕の目の前から去ろうとする。
気が動転しているのか、恥ずかしがっているのか、茜の態度は素直では無かった。しかし、茜自身も分かっているはずなのだ、茜の全てを知る僕と一緒になる事が彼女にとっても幸せである事を。
僕は茜の白く細い腕を強引に掴み、そのまま押し倒した。
「離して! いやぁ! 誰か! 誰か助けて!」
茜には恋愛、交際経験が無いと聞いていた。だから、異性から告白を受けて羞恥心を持つのも分かる。素直になれないのも分かる。だが、ここで茜の返答を有耶無耶にするわけにはいかない。だからこそ、茜には可哀想だが強引な手段に出たのだ。
「茜……っ、恥ずかしがる必要はないよ。僕は君の全てを知っている。君の本当の気持ちも……だから、だから、隠す必要はないんだ……っ、僕が!」
強引に迫れば、茜も素直になると思っていた。だが、僕が茜を押さえつける力を強めれば強めるほど、茜からの抵抗は激しくなる。
「……はな、して!」
茜が悲鳴に近い声で叫ぶと同時に、僕の頬に鈍い感触が叩きこまれた。
それは茜の拳だった。茜の必死の抵抗で僕はあっけなく吹き飛び、そのまま校舎の壁に叩きつけられる。
女に殴られるのは慣れていた。だが、この瞬間が一番痛かった事を覚えている。
「いい加減にして……私は、あなたなんか……」
茜の言葉を最後まで聞き取れなかった。
だが、とてつもなく心に痛みを伴った事を覚えている。きっと、茜は僕を否定したのだ。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけた野次馬たちに拘束され、僕は無理矢理に茜から引き離される。
その最中、僕は無意識の内に涙を流していた。野次馬たちが僕を口汚く罵ろうが、僕にとっては取るに足らない些細な事だ。
けれど、拘束される僕を見る茜の目。不快感を露にし、怯えきった彼女の目と僕の目が合った時、僕は耐えがたい苦痛に苛まれた。
不本意とはいえ、彼女を傷付けてしまった。その責任を一身に感じ、僕は自身に対する怒りとで涙を流したのだ。
「ごめん、ごめんね……茜。けれど、きっと君も分かってくれるはずだ。君は、僕と……」
そして、怒りと同時に茜という存在を何としてでも保全しなければならないという責任感は、より一層……僕の中で強まった。
優秀な彼女の事だから、言葉だけでも十分に僕の事を理解してもらえると思っていた。けれど、彼女は残念ながら、僕が思うほど頭が良くないのかもしれない。
だから、仕方がない。心苦しい、今日のように手荒な真似になってしまう事は避けられない。そんな手段でしか君を保全できない僕の無力さを、彼女を許してくれるだろうか。
彼女は病的に美しかった。陸上部で鍛え上げられた彫刻のような肉体に勉学も優秀。その上、色恋沙汰には一切の興味がないと噂の……まさに穢れを知らない、純潔の聖処女。一目見たとき、僕の脳内に電撃が走った。彼女は『芸術』だ、と。
それと同時に僕の中で芽生えたのだ、この美しき『芸術』を彼女の美しさを理解する僕自身の手で保全しなければならないという責任感が。
それから僕は完全に彼女の虜になった。彼女の事は調べられるだけ調べたし、僕自身も彼女を手に入れる為にはどうすべきかを考えた。彼女の全てを分析し、住所などの個人情報から趣味やお気に入りの店が何処かも全て把握した。準備は万全だった。
そして、準備を整えた僕は彼女……茜に自らの想いを告白をする事にした。
講義後、部活に向かおうとする茜を呼び止め、校舎裏へと呼び込んだ。そして、僕は彼女に思いを伝えた。緊張など微塵も無かった。何故なら、彼女と僕は結ばれる運命にあるのだとこの時点で既に確信していたからだ。
だが、それに対し、茜は驚いていた。まぁ、最初は無理もないだろう。何故なら僕と茜が面と向かって話すのはそれが初めてだったからだ。僕は茜を知っていても、茜は僕の事を知らなかったのだ。
「ごめん、なさい……まず、私たち話すのも初めてですよね? というか、何処かでお会いしました……?」
「僕はずっと君を見ていたよ。君が気付いていなかっただけで、ずっとね」
茜は何故か困ったような、引きつった顔をしていた。彼女の事を知り尽くし、尽くそうとしているこの僕からの申し出を、何故か茜は喜ぼうとはしなかったのだ。
「君の事は何でも知っている。君にとって、僕以上の存在はいない。僕にとっても、君以上の存在はいない、つまり、僕達は互いに求め合っている。優秀な君なら分かるだろう?」
僕は僕の知り得る茜の全ての情報を次々と羅列していった。住所、趣味、バイト先、出身高校……彼女の事で知らない事など既に無かった。つまり、それが僕の茜への愛の重さを示している。これだけ茜の事を知り、愛を持つ男が僕以外にいるだろうか、いや、いるはずがない。
だから……僕は茜にとって一番の男のはずであり、結ばれるべきだった。
けれど、僕の話を聞けば聞くほど茜の表情は徐々に曇って行くばかりだった。
それどころか茜の表情は更に変化し、僕に対して畏怖と嫌悪感を示す表情に変化していったのだ。
「……とにかく、お付き合いはできません。部活があるので、もう失礼してもいいでしょうか」
「待ってくれ……君は僕と一緒にいるべきなんだ、どうして分からない? 君は他の馬鹿とは違うはずだ……茜!」
茜は逃げるように僕の目の前から去ろうとする。
気が動転しているのか、恥ずかしがっているのか、茜の態度は素直では無かった。しかし、茜自身も分かっているはずなのだ、茜の全てを知る僕と一緒になる事が彼女にとっても幸せである事を。
僕は茜の白く細い腕を強引に掴み、そのまま押し倒した。
「離して! いやぁ! 誰か! 誰か助けて!」
茜には恋愛、交際経験が無いと聞いていた。だから、異性から告白を受けて羞恥心を持つのも分かる。素直になれないのも分かる。だが、ここで茜の返答を有耶無耶にするわけにはいかない。だからこそ、茜には可哀想だが強引な手段に出たのだ。
「茜……っ、恥ずかしがる必要はないよ。僕は君の全てを知っている。君の本当の気持ちも……だから、だから、隠す必要はないんだ……っ、僕が!」
強引に迫れば、茜も素直になると思っていた。だが、僕が茜を押さえつける力を強めれば強めるほど、茜からの抵抗は激しくなる。
「……はな、して!」
茜が悲鳴に近い声で叫ぶと同時に、僕の頬に鈍い感触が叩きこまれた。
それは茜の拳だった。茜の必死の抵抗で僕はあっけなく吹き飛び、そのまま校舎の壁に叩きつけられる。
女に殴られるのは慣れていた。だが、この瞬間が一番痛かった事を覚えている。
「いい加減にして……私は、あなたなんか……」
茜の言葉を最後まで聞き取れなかった。
だが、とてつもなく心に痛みを伴った事を覚えている。きっと、茜は僕を否定したのだ。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけた野次馬たちに拘束され、僕は無理矢理に茜から引き離される。
その最中、僕は無意識の内に涙を流していた。野次馬たちが僕を口汚く罵ろうが、僕にとっては取るに足らない些細な事だ。
けれど、拘束される僕を見る茜の目。不快感を露にし、怯えきった彼女の目と僕の目が合った時、僕は耐えがたい苦痛に苛まれた。
不本意とはいえ、彼女を傷付けてしまった。その責任を一身に感じ、僕は自身に対する怒りとで涙を流したのだ。
「ごめん、ごめんね……茜。けれど、きっと君も分かってくれるはずだ。君は、僕と……」
そして、怒りと同時に茜という存在を何としてでも保全しなければならないという責任感は、より一層……僕の中で強まった。
優秀な彼女の事だから、言葉だけでも十分に僕の事を理解してもらえると思っていた。けれど、彼女は残念ながら、僕が思うほど頭が良くないのかもしれない。
だから、仕方がない。心苦しい、今日のように手荒な真似になってしまう事は避けられない。そんな手段でしか君を保全できない僕の無力さを、彼女を許してくれるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる