鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

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第7話 警告

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 そんな狂い始めた日常の最中、愚かな私は最後の警告を見落としました。今思えば、その夜が地獄から逃れられる最後の機会だったのかもしれません。 
 
 あの夜逃げ出していれば、私の人生は大きく変わっていた事でしょう。だが、そうはなりませんでした。
 私が池田の厄介になり始めて二月ほどでしたか、とある晩、私の布団の前に和が無言で立ち尽くしていた事がありました。
「ゥ……」
「わっ! な、なに……」
 暗い寝室の中、うめき声を懸命に上げ続ける和はこれ以上ないくらいに不気味で、恐ろしかったことを覚えています。
 なにやら、ぶつぶつと小声で何かを繰り返し唱えている様子でした。
「……エ……」
「……何なの、一体。こっちは朝から晩まで事務作業で寝不足なの、勘弁してよ……」
 不気味さ以上に苛立ちを覚えた私は、和に苛立った態度で接しました。
 それは私自身も一月以上、休みも無く激務に追われていたため精神的にも疲弊し、精神的に追い詰められていたからでしょう。
 私たち二人は、着実に肉体的にも、精神的にも追い詰められ始めていたんだと思います。それは、私たちの正常な判断を鈍らせる要因ともなっていました。
「……ヵ、エレ、かえ……れ」
「はぁ……? 何……何なの」
「か……え、れ」
 和は『帰れ』と呻いていました。何度も耳を傾けましたが、答えは変わりませんでした。
「何なの……いい加減にして、あなた……新入りの私が気に食わないの? それとも、私が池田さんに優遇されてるから嫉妬してるの? 付き合いきれない!」
 私の苛立ちは最高潮に達し、和を突き飛ばしました。和はガリガリにやせ細っていたので簡単に畳に転がりましたが、私は構いません。
 このとき、私は和の言葉の本当の意味を理解できていませんでした。当時は単に私への嫌がらせ程度にしか考えていなかったのです。
 これが、この地獄から抜け出すための最後の警告だったとも知らずに。
「あのね……あなたに言うのは酷かもしれないけど、私とあなたでは能力が違うの。扱いが変わるのは当たり前なの……悲しいけど、これが世間なの」
 池田に気に入られていた当時の私は、自分を優秀な人間だと勘違いしていたんだと思います。忙しいのも、必要とされている証拠だと、現実逃避していました。
 こうして私は、和の最後の警告さえ無視したのです。和が与えてくれた、最後の警告を。
 きっと彼は、私を逃がそうとしたのでしょう。何故なら彼は、池田の正体をいち早く感じ取っていたからでしょう。
「分かったら、部屋戻って。明日も早いんだから寝かせて」
 そして、和はトボトボと部屋から出て行きました。
これが、私の記憶に残る和との最初で最後の会話らしい会話でした。
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