鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

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第11話 試練

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 そして、まず『完璧な悪』を目指すにあたり池田から一つの試練が与えられました。
 今思い出しても吐き気がこみ上げてきます。池田に怯えていたにしろ、あんな残酷な所業を成した私は……少なからず池田と同じような『鬼畜の血』が流れていたのかもしれません。
 
 解体が終わる頃には既に夕暮れ時でした。池田は腹が減ったと言いながら台所に向かいました。私はとても食事をする気力も余裕もありませんでしたが、池田に強引に付き合わされます。
 そして、私は調理を命じられました。それだけならどれだけ良かったでしょう。
 問題は、その『食材』でした。

 台所に、無造作に置かれた『和の頭部』。目を見開き、苦悶の表情を浮かべたまま死に至ったことがその死に顔から容易に想像できました。首元には絞められたような跡があったので、恐らく泥酔したところを池田が絞殺し……その後、死体は解体されたのです。
 そして、池田はあろうことかその頭部の髪を鷲掴みにし、トンカチを荒々しく、狂ったように叩きつけます。血と骨が飛び散り、辺りが汚れていきます。
 私はただ、茫然とその様子を眺めていたのを覚えています。

 気付いた時には、私は池田に包丁を握らされていました。どうやら私は立ったまま失神していたようで、その間に池田は和の頭蓋を叩き割り終えたようでした。
 そして、目の前に置かれた和の頭蓋の割れ目から、濡れた脳味噌が見えたのです。
「それ、頭から取り出すんや。もう頭蓋は割ってあるから膜を包丁で剥がすだけで簡単に引き抜ける」
 池田の与えた試練とは、『人食』でした。同じ屋根の下で、暮らしてきた人間を食らい、人間としての心を殺す事が池田の与えた試練だったのです。
「……和の死に顔を見ろ、目を背けるんやない。そして何も感じるな。心を殺して、ただ作業に集中するんや」
 目を瞑りながら脳味噌を引き抜こうとする私に、池田は怒鳴ります。
 人を殺し、頭を割り、脳味噌を引き抜くことに関し、何の躊躇いも躊躇も持たない残虐性。それが池田の描く『完璧な悪』への第一歩だったのです。
 余計な感情はいつか己の身を亡ぼす、それが池田の悪についての持論でした。
 そして、私は口元から嘔吐物を垂れ流しながらも和の脳味噌を取り出す事が出来ました。手先には『ぬめり』が残っていて、とても気持ちが悪かったです。
「おお、頭空っぽやと思ってたのに……案外中身詰まっとるやないか。こりゃ、楽しみや」
 笑えない冗談を言いながら、池田は『鍋』の準備を始めました。
 そう、地獄はまだこれからだったのです。この脳味噌を、自分の腹に納めなければなりません。
「何を……するつもり? もう、嫌……」
 子供の様に泣き崩れる私。しかし、それに池田は見向きもしませんでした。
「何って……食い物粗末にしたら罰当たんで? こんな美味いとこ、便所に捨てんのもったいないで。ほれ、今日はお前の相棒就任祝いや! 食え。目を背けず、無心で味わうんや。豚や魚を食うのにお前は涙流して悲しむんか? 違うやろ、食え。美味い美味い言いながら食え。家族の脳味噌を」
 そして私は鍋にした和の脳味噌を味わされました。私は無心で脳味噌の断片を胃に押し込み続け、『美味しい』と壊れたように連呼していました。
 
 池田は戦時中、空腹に耐えられず戦地で仲間の死肉を食したことから『人食』に目覚めたと言います。そして、慣れてしまえば人間も豚も変わらないと、そう語っていました。

 その通りだと思います。
私がまさにそうでした。人間を解体し、その脳味噌を食うなどという『鬼畜の所業』を経験してしまえば、大半の悪事に対しての感覚が麻痺し、心は死に絶え、私は悪に『慣れて』しまったのです。

 こうして私は、正式に池田の『相棒』として認められたのです。
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