鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

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第16話 簪

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「咲は……咲は、結局のところ半端者だったのかな。半端者には……幸せになる権利も無いの?」
 惨めな咲の死体を眺めながら、私は池田に問いました。  
 咲は弱かったから死んだ。それは分かっていても、他の人間と同じように割り切る事が出来ませんでした。心などとっくに殺したはずなのに。
「ふん、確かに儂は何事も極めろと言った。けどな、世の中はお前や儂の様に強い器を持った人間ばかりやない。物事を極めるにはそれに見合った器が必要や。やないと、器の中身が満ちる前に割れてまう。あの娘みたいにな」
 咲にあの時、男の嘔吐物を全て飲み込むだけの覚悟と執念があれば、死なずに済んだのです。それが出来ない半端者だったから、咲は死んだのだと、私は思い知りました。
 私は……こうはなりたくない。こんな半端な覚悟で、惨めな死に方なんて御免だと、強く感じました。
「……私はこんな死に方絶対に御免。それに、私はそれに耐えるだけの器を持っている。そうでしょ?」
「あまり図に乗るもんやない。いくら器が丈夫やろが気抜いたらすぐにでもヒビが入り、やがて割れる。ええか、悪を極めるんやったら常に悪でおる覚悟を持て。感情に支配されるようなったら、お前の器はすぐにでも割れる」
 珍しく池田の言葉に重みを感じました。感情など、足元を掬われる材料にしかならない。だから、殺しておくべきなのです。

 でなければ、咲のような死に方しかできないのだと、私は咲に教えてもらったのです。

 そして、咲を解体する当日になりました。
 別段、緊張やら特別な感情はありませんでしたが、少し……胸が痛むような、そんな感覚があったのも事実です。

「なにィ?」
「この子は私一人で解体させて、と言ったの池田さん」
 解体の準備を進める池田に、私はそう言いました。
「なんや急に。まさか、情が湧いたっちゅうんか。けど、それで効率悪くなったら元も子もないやろ。お前、この娘バラッバラに出来るんかい」
「情を挟んで半端な事はしないわ。肉片たりとも残さない。だから……最後くらい、綺麗に私の手で弔ってやりたいだけの事。化けて出て来られても……困るし」
 それは、咲の人生の終止符を私が打つことで、咲を忘れるためでもありました。そして、それと同時にもう一度……心を殺し、感情を殺し、悪に徹するという覚悟の表れでもあったのです。
「ふん、まぁ……好きにせい。けど、それは儂の『お楽しみ』が済んでからやがな」
 池田は気味の悪い笑みを浮かべ、衣類を脱ぎ始めました。
 『お楽しみ』とは、『死姦』のことです。これも池田が戦時中に死体を犯した経験から芽生えた趣向で、女をバラす前には必ずと言っていいほど行われていた恒例行事でした。
「……好きにして」
「何だ、止めへんのか。お前が妹みたいに可愛がっとた娘の死体、これから犯すいうとるんやぞ?」
「半端者の末路に口出しはしない……終わったら、呼んで」
 けれど、咲だからと言ってそれを止めようとも思いませんでした。
 ここでそれを止めて、半端者の末路に口を出してしまえば……私の『悪』への覚悟は鈍ったでしょう。

 その覚悟が揺らがぬように、私は咲の骸が池田に犯される様を、瞬きもせず目に焼き付けていました。
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