鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

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第17話 疑心

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 咲が死んでからも、それからも私と池田は金儲けのためにあらゆる悪事をこなしてきました。
  
 けれど、それと同時に私の中では拭い切れない不安と恐怖が常に湧き出ていたのです。
 それは、自分が知らぬ間に私自身も咲のように半端者として淘汰されてしまうのではないかという事です。
 咲の死から、私の中では少しでも気を抜けば咲と同じような末路……いいえ、もっと酷い末路を辿るのではないかという不安に駆られ続けていたのです。 
 
 それを拭うため、私はより一層派手に悪事を働きました。けれど、どれだけ人を騙し、殺して、バラして、金を得てもその不安は消えるどころか、まだ足りないのではないかと更に疑心暗鬼に陥りました。

「おい、恵子……最近、派手に動き過ぎや。儂の知らんとこでも鷲尾さんから色々引き受けてるらしいやないか。バレたら元も子もあらへんぞ」
「……今月はまだやくざ者二人だけしかバラしてないよ。まだ足りないくらい」
「阿保ッ! 儂らは人殺してバラすのが目的やない! あくまで人のやらんことして金儲けるためや! 解体はその証拠隠滅の手段の一つにしか過ぎんのや! ……もしどこかで足着いたら全てお終いや。目的見失ってんちゃうぞ」
 私の中では、とっくに悪事を働き、自己満足に浸る事が悪事の目的になっていました。私にしかできないことを繰り返し、空虚な器に常に何かを注ぎ続けるための手段になっていたのです。
 しかし、池田はあくまで殺しや解体を金を稼ぐ手段としか捉えていませんでした。『完璧な悪』を目指せと言うのも、半端な殺しや証拠隠滅は身を亡ぼすという意味合いの戒めだったのでしょうが、私にとってその言葉は既に呪縛となっていたのです。
 同じ悪事に手を染め、『完璧な悪』を目指す者でありながら、私と池田の間には徐々に認識のズレが生じ始めていたのです。

 その後も池田との認識のズレは一向に解消されることは無く、相変わらず私は半端者へと堕落することへの恐怖に苛まれていました。
 そして、私は自身の悩みの種を取り除く方法を試みようとします。
「私は心を殺しきれていない。なぜなら、心に拠り所があるから。いつも、一緒にいてくれる人がいるから」
 私は、無意識のうちに心地よい心の拠り所を作っていたのです。
それは、数多くの人間を殺し、死体を解体し、それで得た金を食って成長を続ける……人の骸を餌に成長を続ける『城』である『池田昭和建設』と、そしてその城の主である……『池田 雄一』の存在です。
既に『池田昭和建設』は私にとっての家であり、『池田 雄一』は相棒ではなく血縁より濃いつながりを持った家族だったのです。

 いりません。私にとって安らげる場所、人……全て消さなければ、私の心はまた温もりを持ってしまい、『完璧な悪』でなくなってしまうと、そう考えたのです。
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