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第8話
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「そう、貴女の侍女であったマーサリン・サルバートこそが、今回の事件の主犯です!」
宰相は戸惑うマレリアへとそうさも悩ましげに告げた。
「マレリア様、貴女のことを聖マリフィナ王国の人間全てが歓迎しておりました。けれども、貴女の人気を妬んだマーサリンが貴女への不遇な対応を押し付けたのです!」
マーサリンを語るどんどんと宰相はヒートアップしていく。
……けれども、もちろんのことだが決してマーサリンがマレリアを冷遇する状況をもたらした訳ではななかった。
だったらなぜ、宰相はマーサリンに責任を押し付けようとしたのか、それはマレリアの侍女であったマーサリンに責任を押し付けてしまおうという考えからだった。
マーサリンも決して爵位は高くはないが貴族で、聖マリフィナ王国の選民思想に侵されている人間の一人である。
だからこそ、マレリアの侍女になった時マーサリンがマレリアに嫌がらせをしただろうことは想像に難くないのだ。
今、宰相ですらマーサリンの動向を把握できていない。
けれどもそれは、早々にマーサリンが仕事を放棄したからだと宰相は判断していた。
つまり、どれだけ責任をなすりつけても彼女がその冤罪を晴らすことは出来ないのだ。
だったら、マレリアがマーサリンに対して抱いている怒りを煽って彼女だけを断罪すれば全て丸く収まると宰相は判断していたのだ。
「マーサリン、あの女は社交界でも有名な酷い女でした。……マーサリンを止めることができず、本当に申し訳ない……」
そして宰相はマレリアが信じやすいようにとさらに言葉を付けたして頭を下げる。
その声音はさも申し訳なさそうな響きを有していた。
けれども、頭を下げた宰相の唇は大きく弧を描いていた。
宰相は自分で自分の機転を褒め称える。
マーサリンが社交界で酷く言われていたのは決して嘘ではない、とはいえそこまで大きな噂ではなかった。
しかし、宰相は敢えてマーサリンを悪者にしていた。
それは全て、マレリアの同情を買うため。
仕方がないとマレリアが判断するように仕向けるため。
そしてそれはまさに咄嗟の判断だったが、これで全ての罪はマーサリンが背負うことになったと、そう宰相は笑う。
恐らくサルバート家は責任を取って処刑されるかもしれないが、自分の宰相という地位は守られたと。
「……忌々しい愚図が」
「………え」
……しかし、その宰相の興奮は次の瞬間彼に投げかけられた殺気によって一瞬のうちに冷めることとなった。
響いた声、それはマレリアではない女性の声だった。
けれども、その声の主はマレリアに劣らないほどの殺気を有していたのだ。
「っ!」
そして次の瞬間、恐る恐る何事かと顔を上げた宰相は目の前に立つ人間の姿を見て言葉を失った。
「保身しか考えていない屑が、私の忠誠を愚弄するか!」
ーーー 何故なら、そこには黒い衣服に身を包んだ、マーサリンの姿があったのだから。
マーサリン、彼女は聖マリフィナ王国の貴族の模範的な存在だった。
何も考えず金を消費し、平民を見下し、その行為でで自分が偉いかんちがいしているような人種。
「以前の私を馬鹿にするのは事実であるからどうこう言うつもりはない、が主への忠誠を嘲られて許せるほど私の心は広くないぞ」
けれども、今宰相を睨むマーサリンは歴戦の戦士とでもいうべき迫力を兼ね備えていた。
ーーーー いや、一体何があったんだよ!
と、次の瞬間、広場にいる聖マリフィナ王国の人間全員の心が合わさることとなった……
宰相は戸惑うマレリアへとそうさも悩ましげに告げた。
「マレリア様、貴女のことを聖マリフィナ王国の人間全てが歓迎しておりました。けれども、貴女の人気を妬んだマーサリンが貴女への不遇な対応を押し付けたのです!」
マーサリンを語るどんどんと宰相はヒートアップしていく。
……けれども、もちろんのことだが決してマーサリンがマレリアを冷遇する状況をもたらした訳ではななかった。
だったらなぜ、宰相はマーサリンに責任を押し付けようとしたのか、それはマレリアの侍女であったマーサリンに責任を押し付けてしまおうという考えからだった。
マーサリンも決して爵位は高くはないが貴族で、聖マリフィナ王国の選民思想に侵されている人間の一人である。
だからこそ、マレリアの侍女になった時マーサリンがマレリアに嫌がらせをしただろうことは想像に難くないのだ。
今、宰相ですらマーサリンの動向を把握できていない。
けれどもそれは、早々にマーサリンが仕事を放棄したからだと宰相は判断していた。
つまり、どれだけ責任をなすりつけても彼女がその冤罪を晴らすことは出来ないのだ。
だったら、マレリアがマーサリンに対して抱いている怒りを煽って彼女だけを断罪すれば全て丸く収まると宰相は判断していたのだ。
「マーサリン、あの女は社交界でも有名な酷い女でした。……マーサリンを止めることができず、本当に申し訳ない……」
そして宰相はマレリアが信じやすいようにとさらに言葉を付けたして頭を下げる。
その声音はさも申し訳なさそうな響きを有していた。
けれども、頭を下げた宰相の唇は大きく弧を描いていた。
宰相は自分で自分の機転を褒め称える。
マーサリンが社交界で酷く言われていたのは決して嘘ではない、とはいえそこまで大きな噂ではなかった。
しかし、宰相は敢えてマーサリンを悪者にしていた。
それは全て、マレリアの同情を買うため。
仕方がないとマレリアが判断するように仕向けるため。
そしてそれはまさに咄嗟の判断だったが、これで全ての罪はマーサリンが背負うことになったと、そう宰相は笑う。
恐らくサルバート家は責任を取って処刑されるかもしれないが、自分の宰相という地位は守られたと。
「……忌々しい愚図が」
「………え」
……しかし、その宰相の興奮は次の瞬間彼に投げかけられた殺気によって一瞬のうちに冷めることとなった。
響いた声、それはマレリアではない女性の声だった。
けれども、その声の主はマレリアに劣らないほどの殺気を有していたのだ。
「っ!」
そして次の瞬間、恐る恐る何事かと顔を上げた宰相は目の前に立つ人間の姿を見て言葉を失った。
「保身しか考えていない屑が、私の忠誠を愚弄するか!」
ーーー 何故なら、そこには黒い衣服に身を包んだ、マーサリンの姿があったのだから。
マーサリン、彼女は聖マリフィナ王国の貴族の模範的な存在だった。
何も考えず金を消費し、平民を見下し、その行為でで自分が偉いかんちがいしているような人種。
「以前の私を馬鹿にするのは事実であるからどうこう言うつもりはない、が主への忠誠を嘲られて許せるほど私の心は広くないぞ」
けれども、今宰相を睨むマーサリンは歴戦の戦士とでもいうべき迫力を兼ね備えていた。
ーーーー いや、一体何があったんだよ!
と、次の瞬間、広場にいる聖マリフィナ王国の人間全員の心が合わさることとなった……
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