御託はいいのでさっさと離縁してください旦那様

影茸

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第9話

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 「……てへ」

 マーサリンの変貌に慄く広場の中、マレリアは人知れず何かを誤魔化すような作り笑いを顔に浮かべていた……

 「……まさかあんな変貌を遂げるなんて思いもしないし、私は悪くないですわ」

 そしてマレリアは誰かが聞けば、そんなわけあるか!と突っ込みそうな言い訳を作り何度も頷く。

 「うん、全ては私の元にマーサリンを寄越した聖マリフィナの責任ですわね」

 ……あまりにも雑な責任転嫁だった。
 けれども、そのマレリアの呟きを広場の人間はマーサリンに注目していたため気付かず、よって咎められる人間は誰もいなかった。

 そして、マーサリンの変貌の責任の所在に関して自己完結した瞬間、マレリアの纏う雰囲気が変わった。

 「っ!」

 そのマレリアの変貌に広場にいる全員が言葉を失う。
 その時、聖マリフィナ王国の人間はようやく悟る。
 マーサリンとマレリアが同格と思っていたのはどうしようもない間違いであったことを。

 ーーー そう、マレリアは別格、いや、まさに化け物と呼ぶべき能力を有していたことを。

 「ねぇ宰相、貴方私の部下に向かってやけに言いたい放題言ってくれましたわね」

 「ひ、ひぃっ!」

 そして宰相に、表向きだけはにこやかに笑いかけるマレリアの姿に聖マリフィナ王国の人間は後悔を抱く。

 ……目の前の化け物を他国の人間と嘲り、不用意に貶めようとした過去の自分を。

 「覚悟は良いですわね」

 そして断罪が始まる。






 ◇◆◇






 「ち、違うのです!私は決して嘘など言っておりません!」

 マレリアの様子が変わった瞬間、宰相はこの場にいる誰よりも早くあることを理解した。
 それはマレリアの危険性。
 絶対に彼女には勝てないという力の差を。

 「マーサリンは本当に社交界での評判は最悪でした!彼女は貴女を裏切っているのです!」

 「貴様!」

 そして次の瞬間、宰相は地面に這い蹲り言葉を重ねた。
 マーサリンが侮辱されたと判断したのか怒声をあげる。
 けれども、マレリアのものとは比べものにならないと判断した宰相はマーサリンを無視する。

 「マレリア様、どうか正しき判断を。全てはマーサリンの独断でございます!」

 全てはマーサリンの責任だと言葉を重ねる宰相は決してやけになったのではなかった。
 唯一マレリアの怒りから逃れる方法が嘘をつき続けることだとそう判断したからこその行動だった。
 マーサリンの様子を見る限り彼女はマレリアにべったりだった。
 それを見ればマレリアとマーサリンがかなり打ち解けていることがわかる。
 それを考えれば、マレリアがどっちを信じるかなんて決まりきっている。
 だが、宰相は考える。

 だったら、宰相たる自分が這い蹲り懇願するように告げた言葉ならどうか。

 たしかにマーサリンとマレリアはある程度打ち解けている。
 けれどもマーサリンが社交界で嫌われものだったのは本当のことだ。
 そしてそんなマーサリンがことの主犯だと、宰相たる自分が頭を下げ、這い蹲って叫んでいるのだ。

 そんなもの、どちらを信じるか考えるまでもない。

 宰相はそう判断して下げた顔に隠しきれない笑みを浮かべる。
 マーサリンには悪いが、聖マリフィナ王国のため犠牲になってもらおうなんて考えながら。


 「はぁ……」


 「………え?」


 ……けれども、次の瞬間マレリアの口から漏れたのは隠しきれない呆れが込められた嘆息だった。
 思いもよらないその反応に宰相は驚愕を顔に浮かべその顔をあげる。
 そして次の瞬間、マレリアは宰相へと侮蔑の視線を向けながら口を開いた。


 「何故、こんなことを言い出したのか分かりませんが、一つ大切な前提のお話をしましょう。


 ーーー 私が貴方を信じられる訳があると思います?」
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