38 / 75
第37話
しおりを挟む
お父様は、熱に浮かされたような目のまま、語り始める。
「確かに以前は、他の貴族達の妨害で失敗した。同派閥内の貴族が遥かに減った今、成功率は遥かに低いかもしれない」
そう淡々と、お父様は自分の計画が成功する確率が低いことを語る。
けれど、その表情から熱が消えることはない。
そんな異常な状態のまま、私を見据えお父様は告げた。
「──だから私は最後の手段を使うことにした」
「……っ!」
異常なその様子に、思わず息を呑んだ私に、お父様はそう告げた。
私の様子など一切気にせず、お父様は一方的に続ける。
「アイリス、仕方ないと分かってくれるな。何せ、これはお前のせいでもあるのだから。お前がアリミナの誘惑した令息達を勘当させ、将来を見越し私が派閥を強化しようとしたのを阻んだのだから」
「なっ!?」
その瞬間、私は驚きのあまり声をあげていた。
今までアリミナが勝手に暴走していたと思っていた令息達の誘惑は、お父様が糸を引いていたこと。
それは今まで私が予想もしていなかったことだ。
……だが、次期当主の令息を誘惑しただけで、自身の派閥が強化できると考えるお父様の浅い考えが、何より信じられなかった。
当たり前だが、次期当主は未来の当主であれ、その家の権限全てを握っているわけではない。
将来的にも何も、ただ次期当主から外されておしまいだ。
そもそも私が仲裁に行っていなければ、公爵家は敵だらけになっていただろう。
「何を考えているのですか!そんなことできる訳がないでしょう!」
「黙れ!そんな詭弁を私が聞くと思うな!」
それ故に咄嗟に私は声を上げたが、それがお父様に伝わることはなかった。
苛立ちを露に私を睨みつけ──けれどすぐに、その顔に笑みを浮かべ吐き捨てる。
「……まあ、お前の煩い小言ももう聞くことはないと思うとせいせいするがな」
お父様の言う、最終手段が想像よりも遥かに悪いものだと私が理解したのはその時だった。
不気味なお父様の表情に、思わず後ずさる。
「おっと、じっとしていてくれないかい?」
……そして私は、私を連れてきた男に掴まれることになった。
思わず肩を震わせた私に、お父様が告げる。
「逃げようとは考えるなよ、アイリス。その男は数千人、いや、数万人に一人しか持ちえない魔法を扱える人間だ。お前程度に振り払えはしない」
お父様の言う最終手段。
それにこの男が関わっていると私が理解したのは、その時だった。
知らず知らずの間に、私はその男に対して身構える。
けれど、そんな私に対し男の顔には嘲りが浮かんだだけ。
そんな私達を見て、お父様は告げる。
「お前が第二王子に傾倒していることも知っている。だが、今回ばかりは諦めろ。今さら、お前にできることはない」
そのお父様の言葉には、自身の計画に対する自信が溢れていた。
そう、私には何をしようが覆ないと。
……それは紛れもない事実だった。
私程度では、今からどう動こうが無駄だろう。
私は数多く優秀な友人を持っており、有力視されがちだが、その実能力は高くもない。
冷静さを欠き、アリミナの暴走だと勘違いしてしまい、お父様の計画に気づけなかった時点で、私にはどうすることもできないのだ。
「ふ、ふふ、うふふふ」
それを理解した上で、私は笑った。
お腹を押さえ、私はさも堪えきれないと言った様子で笑う。
自分に敵意を持つ屈強な男達に囲まれた、孤立無援の状態で。
「……な、何がおかしい!」
突然笑いだした私に、お父様が怒声をあげるが、その声に含まれた動揺を隠せはしない。
私は驚愕の隠せないお父様の目を真っ直ぐと見据え、告げる。
「その程度で本当に、王位争奪戦に参加するおつもりなのですか、お父様?」
背後に立つ傭兵を無視し、私はゆっくりと歩き出す。
後ろではなく、前。
お父様の方へと。
「──自分の派閥を潰したのが、他の貴族という程度しか知らない癖に」
「アイリス、お前は一体何を言っている……」
私を睨むお父様の目は、言外に何かを知っているのかと問いかけている。
しかし、それを無視し私は告げる。
「宣言しますわ。お父様の野望は成功しない。公爵家は潰されて終わるでしょう」
「っ!黙れ!おい、アイリスを牢に連れて行け!」
不快感を隠そうともせず、そう吐き捨てたお父様の言葉に従い、傭兵達が私を囲む。
それ故に、私が小さく呟いた言葉は、誰の耳にも入ることはなかった。
「ライルハート様によって」
もし、言葉が聞こえたとしてもお父様は信じないだろうと思いながら、それでも私はそう確信していた。
ライルハート様は、お父様程度にはどうすることもできない存在だと。
だから大丈夫だと、私は自分の胸の痛みを無視し、小さく呟く。
「ライルハート様……私など気にせず、公爵家を潰してくださいね」
──そして私は、公爵家と共に滅びることを決意した。
◇◇◇
更新、遅れてしまい申し訳ありません……
「確かに以前は、他の貴族達の妨害で失敗した。同派閥内の貴族が遥かに減った今、成功率は遥かに低いかもしれない」
そう淡々と、お父様は自分の計画が成功する確率が低いことを語る。
けれど、その表情から熱が消えることはない。
そんな異常な状態のまま、私を見据えお父様は告げた。
「──だから私は最後の手段を使うことにした」
「……っ!」
異常なその様子に、思わず息を呑んだ私に、お父様はそう告げた。
私の様子など一切気にせず、お父様は一方的に続ける。
「アイリス、仕方ないと分かってくれるな。何せ、これはお前のせいでもあるのだから。お前がアリミナの誘惑した令息達を勘当させ、将来を見越し私が派閥を強化しようとしたのを阻んだのだから」
「なっ!?」
その瞬間、私は驚きのあまり声をあげていた。
今までアリミナが勝手に暴走していたと思っていた令息達の誘惑は、お父様が糸を引いていたこと。
それは今まで私が予想もしていなかったことだ。
……だが、次期当主の令息を誘惑しただけで、自身の派閥が強化できると考えるお父様の浅い考えが、何より信じられなかった。
当たり前だが、次期当主は未来の当主であれ、その家の権限全てを握っているわけではない。
将来的にも何も、ただ次期当主から外されておしまいだ。
そもそも私が仲裁に行っていなければ、公爵家は敵だらけになっていただろう。
「何を考えているのですか!そんなことできる訳がないでしょう!」
「黙れ!そんな詭弁を私が聞くと思うな!」
それ故に咄嗟に私は声を上げたが、それがお父様に伝わることはなかった。
苛立ちを露に私を睨みつけ──けれどすぐに、その顔に笑みを浮かべ吐き捨てる。
「……まあ、お前の煩い小言ももう聞くことはないと思うとせいせいするがな」
お父様の言う、最終手段が想像よりも遥かに悪いものだと私が理解したのはその時だった。
不気味なお父様の表情に、思わず後ずさる。
「おっと、じっとしていてくれないかい?」
……そして私は、私を連れてきた男に掴まれることになった。
思わず肩を震わせた私に、お父様が告げる。
「逃げようとは考えるなよ、アイリス。その男は数千人、いや、数万人に一人しか持ちえない魔法を扱える人間だ。お前程度に振り払えはしない」
お父様の言う最終手段。
それにこの男が関わっていると私が理解したのは、その時だった。
知らず知らずの間に、私はその男に対して身構える。
けれど、そんな私に対し男の顔には嘲りが浮かんだだけ。
そんな私達を見て、お父様は告げる。
「お前が第二王子に傾倒していることも知っている。だが、今回ばかりは諦めろ。今さら、お前にできることはない」
そのお父様の言葉には、自身の計画に対する自信が溢れていた。
そう、私には何をしようが覆ないと。
……それは紛れもない事実だった。
私程度では、今からどう動こうが無駄だろう。
私は数多く優秀な友人を持っており、有力視されがちだが、その実能力は高くもない。
冷静さを欠き、アリミナの暴走だと勘違いしてしまい、お父様の計画に気づけなかった時点で、私にはどうすることもできないのだ。
「ふ、ふふ、うふふふ」
それを理解した上で、私は笑った。
お腹を押さえ、私はさも堪えきれないと言った様子で笑う。
自分に敵意を持つ屈強な男達に囲まれた、孤立無援の状態で。
「……な、何がおかしい!」
突然笑いだした私に、お父様が怒声をあげるが、その声に含まれた動揺を隠せはしない。
私は驚愕の隠せないお父様の目を真っ直ぐと見据え、告げる。
「その程度で本当に、王位争奪戦に参加するおつもりなのですか、お父様?」
背後に立つ傭兵を無視し、私はゆっくりと歩き出す。
後ろではなく、前。
お父様の方へと。
「──自分の派閥を潰したのが、他の貴族という程度しか知らない癖に」
「アイリス、お前は一体何を言っている……」
私を睨むお父様の目は、言外に何かを知っているのかと問いかけている。
しかし、それを無視し私は告げる。
「宣言しますわ。お父様の野望は成功しない。公爵家は潰されて終わるでしょう」
「っ!黙れ!おい、アイリスを牢に連れて行け!」
不快感を隠そうともせず、そう吐き捨てたお父様の言葉に従い、傭兵達が私を囲む。
それ故に、私が小さく呟いた言葉は、誰の耳にも入ることはなかった。
「ライルハート様によって」
もし、言葉が聞こえたとしてもお父様は信じないだろうと思いながら、それでも私はそう確信していた。
ライルハート様は、お父様程度にはどうすることもできない存在だと。
だから大丈夫だと、私は自分の胸の痛みを無視し、小さく呟く。
「ライルハート様……私など気にせず、公爵家を潰してくださいね」
──そして私は、公爵家と共に滅びることを決意した。
◇◇◇
更新、遅れてしまい申し訳ありません……
21
あなたにおすすめの小説
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる