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第62話 (ライルハート目線)

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 隣にいる兄貴の兄貴の顔からは、血の気が引いている。
 兄貴は戦場を経験したことのある戦士でもあるにも関わらずだ。
 そのたいどが何より雄弁に、バールセルトの殺気の濃さを物語っている。
 ふと、俺はバールセルトについての逸話を思い出す。

かつて侯爵家を筆頭に貴族が反乱を起こそうとした際、他の貴族が集う前に僅かな手勢でその侯爵家を滅ぼした。
 隣国に攻められた際、一直線に王都を陥落させた。
 今その国が三つに別れているのも、その時のことが原因。

 バールセルトの殺気を前に、俺はその逸話が嘘ではないことを思い知らされることになる。
 次の瞬間、バールセルトはお伽話に出てくる竜のような獰猛な笑みを浮かべて口を開いた。

 「やる気なら、殺しあっても俺は構わない。今この場で殺し合うか?」

 まるで、父親が子供を遊ぼうと誘うような調子で、バールセルトは俺に殺し合いを提案してきた。
 それは明らかに常軌を逸した発言で、だが俺はバールセルトが本気であることを理解していた。

 何せ、一度俺はバールセルトにそう言われたことがあるのだから。

 貴族に唆され、反乱の旗頭に立たされかけた時。
 そうなってもなお、俺を利用して反乱分子を炙り出すことしか考えていないバールセルトを、俺は問い詰めた。
 国が乱れかねないこの時に、何を考えていたのかと。

 答え次第では、俺はバールセルトを殺すことさえ頭に入れていた。
 だが、そんな俺をバールセルトは嘲笑った。

 肉親一人殺せないやつが、王になれると思っているのかと。

 バールセルトは本気で、俺との殺し合いにこの国を巻き込む気だった。
 例え自分が負けようが、最終的にこの国を大きく変えられるならば、この国のためならば、どれだけの命を使っても構わない。
 バールセルトはそう考え、行動に起こす男なのだ。

 それを知るからこそ、俺はバールセルトが今回も本気で俺と殺し合おうとしていることを理解していた。
 俺が勝とうが、バールセルトが勝とうがその結果、この国は大きな改革が行われる。
 それならば、なんの問題もないとバールセルトは考えているのだろう。

 今までの俺には、そのバールセルトと潰し合うとする程の覚悟がなかった。
 アイリス達という守りたい存在がいたからこそ。

 だが、今は別だった。

 俺はこちらに笑いかけてくるバールセルトに応えるように笑った。

「いやですよ、父上。貴方と戦って勝てるなんて、俺が思っているわけないじゃないですか」

「そんな言葉で逃げられると思っているのか」

「いいえ。だから俺は、あんたが絶対に嫌なやり方をさせてもらうよ」

 バールセルトの顔に、動揺が浮かんだのはその時だった。
 今までと違う俺に、バールセルトが初めて焦燥を浮かべるのがわかる。
 それに心地よさを感じ、俺は顔に浮かべる笑みをさらに深くした。

 今まで、俺には全てを巻き込んでバールセルトと潰し合う覚悟も、そうまでして守りたいものもなかった。

 しかし、今は違う。
 俺には今、どうしても守りたい存在があって、そのために力を尽くすと決めた。
 だったら、もう何も悩む必要なんてない。

 この場にいなくてなお、心の支えとなってくれるアイリスの存在に心の中感謝を伝えながら、俺は口を開いた。

 「殺し合いになるなら──俺はお前じゃなく、この国を狙ってやる」


 ◇◇◇

 更新不安定で申し訳ありません!
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