60 / 75
第62話 (ライルハート目線)
しおりを挟む
隣にいる兄貴の兄貴の顔からは、血の気が引いている。
兄貴は戦場を経験したことのある戦士でもあるにも関わらずだ。
そのたいどが何より雄弁に、バールセルトの殺気の濃さを物語っている。
ふと、俺はバールセルトについての逸話を思い出す。
かつて侯爵家を筆頭に貴族が反乱を起こそうとした際、他の貴族が集う前に僅かな手勢でその侯爵家を滅ぼした。
隣国に攻められた際、一直線に王都を陥落させた。
今その国が三つに別れているのも、その時のことが原因。
バールセルトの殺気を前に、俺はその逸話が嘘ではないことを思い知らされることになる。
次の瞬間、バールセルトはお伽話に出てくる竜のような獰猛な笑みを浮かべて口を開いた。
「やる気なら、殺しあっても俺は構わない。今この場で殺し合うか?」
まるで、父親が子供を遊ぼうと誘うような調子で、バールセルトは俺に殺し合いを提案してきた。
それは明らかに常軌を逸した発言で、だが俺はバールセルトが本気であることを理解していた。
何せ、一度俺はバールセルトにそう言われたことがあるのだから。
貴族に唆され、反乱の旗頭に立たされかけた時。
そうなってもなお、俺を利用して反乱分子を炙り出すことしか考えていないバールセルトを、俺は問い詰めた。
国が乱れかねないこの時に、何を考えていたのかと。
答え次第では、俺はバールセルトを殺すことさえ頭に入れていた。
だが、そんな俺をバールセルトは嘲笑った。
肉親一人殺せないやつが、王になれると思っているのかと。
バールセルトは本気で、俺との殺し合いにこの国を巻き込む気だった。
例え自分が負けようが、最終的にこの国を大きく変えられるならば、この国のためならば、どれだけの命を使っても構わない。
バールセルトはそう考え、行動に起こす男なのだ。
それを知るからこそ、俺はバールセルトが今回も本気で俺と殺し合おうとしていることを理解していた。
俺が勝とうが、バールセルトが勝とうがその結果、この国は大きな改革が行われる。
それならば、なんの問題もないとバールセルトは考えているのだろう。
今までの俺には、そのバールセルトと潰し合うとする程の覚悟がなかった。
アイリス達という守りたい存在がいたからこそ。
だが、今は別だった。
俺はこちらに笑いかけてくるバールセルトに応えるように笑った。
「いやですよ、父上。貴方と戦って勝てるなんて、俺が思っているわけないじゃないですか」
「そんな言葉で逃げられると思っているのか」
「いいえ。だから俺は、あんたが絶対に嫌なやり方をさせてもらうよ」
バールセルトの顔に、動揺が浮かんだのはその時だった。
今までと違う俺に、バールセルトが初めて焦燥を浮かべるのがわかる。
それに心地よさを感じ、俺は顔に浮かべる笑みをさらに深くした。
今まで、俺には全てを巻き込んでバールセルトと潰し合う覚悟も、そうまでして守りたいものもなかった。
しかし、今は違う。
俺には今、どうしても守りたい存在があって、そのために力を尽くすと決めた。
だったら、もう何も悩む必要なんてない。
この場にいなくてなお、心の支えとなってくれるアイリスの存在に心の中感謝を伝えながら、俺は口を開いた。
「殺し合いになるなら──俺はお前じゃなく、この国を狙ってやる」
◇◇◇
更新不安定で申し訳ありません!
兄貴は戦場を経験したことのある戦士でもあるにも関わらずだ。
そのたいどが何より雄弁に、バールセルトの殺気の濃さを物語っている。
ふと、俺はバールセルトについての逸話を思い出す。
かつて侯爵家を筆頭に貴族が反乱を起こそうとした際、他の貴族が集う前に僅かな手勢でその侯爵家を滅ぼした。
隣国に攻められた際、一直線に王都を陥落させた。
今その国が三つに別れているのも、その時のことが原因。
バールセルトの殺気を前に、俺はその逸話が嘘ではないことを思い知らされることになる。
次の瞬間、バールセルトはお伽話に出てくる竜のような獰猛な笑みを浮かべて口を開いた。
「やる気なら、殺しあっても俺は構わない。今この場で殺し合うか?」
まるで、父親が子供を遊ぼうと誘うような調子で、バールセルトは俺に殺し合いを提案してきた。
それは明らかに常軌を逸した発言で、だが俺はバールセルトが本気であることを理解していた。
何せ、一度俺はバールセルトにそう言われたことがあるのだから。
貴族に唆され、反乱の旗頭に立たされかけた時。
そうなってもなお、俺を利用して反乱分子を炙り出すことしか考えていないバールセルトを、俺は問い詰めた。
国が乱れかねないこの時に、何を考えていたのかと。
答え次第では、俺はバールセルトを殺すことさえ頭に入れていた。
だが、そんな俺をバールセルトは嘲笑った。
肉親一人殺せないやつが、王になれると思っているのかと。
バールセルトは本気で、俺との殺し合いにこの国を巻き込む気だった。
例え自分が負けようが、最終的にこの国を大きく変えられるならば、この国のためならば、どれだけの命を使っても構わない。
バールセルトはそう考え、行動に起こす男なのだ。
それを知るからこそ、俺はバールセルトが今回も本気で俺と殺し合おうとしていることを理解していた。
俺が勝とうが、バールセルトが勝とうがその結果、この国は大きな改革が行われる。
それならば、なんの問題もないとバールセルトは考えているのだろう。
今までの俺には、そのバールセルトと潰し合うとする程の覚悟がなかった。
アイリス達という守りたい存在がいたからこそ。
だが、今は別だった。
俺はこちらに笑いかけてくるバールセルトに応えるように笑った。
「いやですよ、父上。貴方と戦って勝てるなんて、俺が思っているわけないじゃないですか」
「そんな言葉で逃げられると思っているのか」
「いいえ。だから俺は、あんたが絶対に嫌なやり方をさせてもらうよ」
バールセルトの顔に、動揺が浮かんだのはその時だった。
今までと違う俺に、バールセルトが初めて焦燥を浮かべるのがわかる。
それに心地よさを感じ、俺は顔に浮かべる笑みをさらに深くした。
今まで、俺には全てを巻き込んでバールセルトと潰し合う覚悟も、そうまでして守りたいものもなかった。
しかし、今は違う。
俺には今、どうしても守りたい存在があって、そのために力を尽くすと決めた。
だったら、もう何も悩む必要なんてない。
この場にいなくてなお、心の支えとなってくれるアイリスの存在に心の中感謝を伝えながら、俺は口を開いた。
「殺し合いになるなら──俺はお前じゃなく、この国を狙ってやる」
◇◇◇
更新不安定で申し訳ありません!
12
あなたにおすすめの小説
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる