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第64話 (バールセルト目線)

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 「……とんだ化け方をしたものだ」

 ライルハートが出た後、思わず漏らした言葉には隠しきれない苦渋が込められていた。
 ふと、まだ部屋の中にいるもう一人の息子へと目をやると、息子もまた呆然とライルハートの出て行った方向を見ていた。
 おそらく、その息子もライルハートがこんな行動をとるなど、想像もしていなかったに違いない。

 「女のためにこの俺を潰すと告げたか」

 ライルハートの今回の行動は、本当にまるで想定していなかったものだった。
 ライルハートが婚約者である公爵令嬢に熱を上げていたのは知っていたし、その公爵令嬢が貴族達の令嬢達から強い支持を得ている油断ならない人物であることも、俺は理解していた。
 あの婚約者がライルハートを支えるようになれば、もう好き勝手にライルハートを動かせないかもしれないとも、考えていた。

 だが、幾らその婚約者のためとしても、俺と敵対すると言い放つなど、想像もしていなかった。
 その時のライルハートの表情を思い返し、俺ははっきりと理解する。
 もうライルハートは、婚約者の存在がなければ、動くことはないだろう、と。

 「これで、ライルハートを俺の後を継がせるのは不可能になったか……」

 それは、ライルハートの異常な能力を見た時から、密かに決めていた俺の計画だった。
 ライルハートの才能ははっきり言って異常だ。
 他国から、覇王などともてはやされている俺さえ、足元には及ばないだろう。

 ならば、後はライルハートの甘ささえ消せれば俺の後を継いでこの国を大国に変えることも不可能ではない。
 ライルハートこそが本当の覇王になると思っていたが、その計画はもう不可能だろう。

 「……運のいいヤツめ」

 そこまで考え、俺は唸るようにそう漏らした。

 その言葉には、隠しきれない妬みの感情が込められていた。
 愛する人間を守り、この立場から逃れたライルハートへの、八つ当たりにも似た妬みの感情が……。
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