自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

第70話 （アリミナ目線）

　下仕えとなった最初は、おかしなことは無かった。
　問題を起こした貴族令嬢と言うことで周りの下仕え達から嘲られることはあったが、その程度。
　それも、下仕え達の旦那や彼氏を魅了して頼めば、すぐになくなった。

　それまでは、本当に順調な日々だった。
　いや、理想的なものだったと言ってもいい。

　だがその生活は、すぐに狂い始めることになった。

　最初の異常は、魅了した下仕え仲間の旦那だった。
　私はその男に対し、あくまで一時的に魅了しただけで、それ以外に会うことさえしなかった。

 そう、あくまで私は。

「さあ、迎えに来たよ。妻とも別れた。これからは二人で一緒に過ごしていこう！」

　顔を赤らめ、私に告げたその男に背筋がゾッとした。
　その時は何とかすぐに全速力で逃げ、何とかなったものの、それでその男が諦めることは無かった。


　──それどころか、さらに今まで魅了した男達が私を追いかけてくるようになったのだ。


　結果私は、今ではまともに仕事さえ出来ない状況に陥っていた。
　旦那を奪ったと思い込んでいる下仕え仲間には恨まれていて、私には味方さえいない。

「……どうしてこんな目に！」

　あまりにも惨めな状況を改めて理解した私の視界が涙で滲む。
　なぜこんな状況になっているのか、私には分からなかった。
　私は、貴族出会った時の方が魅了の力を使っていた。
　が、その時はこんなことになることは無かった。
　それは私が公爵令嬢で、手軽に手を出せない相手だったことを考えても、かなりおかしいことだろう。

「なんで今だけこんなことに……」

　いくら考えても出ることのない答えに私は苛立たしげに唇を噛み締める。
　このままでは、私を待っているのは破滅だ。
　それまでにこの状況をどうにかしなければ行けないのだ。

　……そのことに意識を奪われていた私は、近づいてくるその足音に気づかなかった。

「っ！」

　それに私が気づいた時、その足音の主は私のすぐ後ろにいた。

「ようやく見つけた」

「ひっ！」

　そこにいたのは、私に付きまとっていた男の一人だった……。