離縁寸前、夫が記憶喪失だと騒ぎ始めました

影茸

文字の大きさ
11 / 17

第十一話 (カルバス視点)

しおりを挟む
「……っ」
 
 俺の言葉に気圧されたようにソルタスが息をのむ。
 しかしそれを無視して俺は続ける。

「本当に愛されていますね、旦那様」

 そう、今の状況は全てソルタスのことをカーナリアが思っているが故の状況だった。
 本来、これだけ怪しければカーナリアは子爵家に残る話を受けなかっただろう。
 その判断ができるからこそ、カーナリアは貴族社会でも一目置かれる存在となったのだ。
 しかし、今回カーナリアはその判断を誤った。

 ソルタスが怪しいと理解しながら、それでもこの屋敷に残ることを決めてしまったのだ。
 それはあの冷静沈着なカーナリアからは考えられない判断で……それはあまりにも大きすぎる隙だった。

「所詮ただの女という訳でしょう。自分が見込んだと思っている男に関して盲目になる。はは」

 そういいながら、俺の頭は高速で回転する。
 もしカーナリアにソルタスへの情が残っているのだとすれば、この子爵家に縛りつける手段は異常な数ある。
 そう、まだカーナリアをここから逃がす訳にはいかないのだ。

 ──この子爵家が伯爵家となるまでは。

「だとすれば、まずはカーナリアの実家たる伯爵家からか」

「……カルバス、本当にこのまま行って私はいいのか?」

「あ?」

 ぽつり、とソルタスが言葉を漏らしたのはその思考のさなかだった。
 反射的にソルタスの方へと振り向いた俺の顔に浮かぶのは、隠しきれない嫌悪感だった。

 今更、考えを変えようとしているのかという。

 そんな俺の表情に気づかず、ソルタスは告げる。

「私のやっていることは本当に合っているのか? 一人で考えていると、どうしてもそう思わずにはいられないのだ。私は……」

「旦那様。──貴方の覚悟はその程度なのですか?」

「……っ」

 あえて真っ直ぐと瞳を見つめ、私はそう告げる。
 心の底からそう思っている、少しでもそう見せるために。

「何度も言っているでしょう。この子爵家を伯爵家にすることが、唯一の旦那様の目標を達成することなのです」

「だが……」

「私はいいのですよ? 旦那様が目標を達成できないと言っても。その場合はこの家から私はさらせていただきますが」

 そういうと、いつものようにソルタスの顔色が変わる。
 それを見ながら、私は内心ため息をつく。
 ソルタスが反抗する可能性も考えておいた方がよいかもしれないと。

 とはいえ、それでも状況が変わることはない。
 そう判断し、俺はゆっくりと笑う。
 何せ、ソルタスが裏切ったところで話を聞く人間など一人としていない。
 その前に、全ての準備を終えてしまえばいいだけなのだから。
 俺は笑いながらつぶやく。

「ひとまずは、奥様の実家の伯爵家からですね」

 そう考えるその時の俺にはまだ一切の不安はなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...