20 / 25
一章
第19話
しおりを挟む
「ま、まだかな……」
王宮で国王を脅したその翌日。
私はすっかり着慣れたかつらと伊達眼鏡を着用して落ち着きのない様子でとある部屋の椅子に座っていた。
……その顔には昨日あれだけ大ごとを起こした同一人物だと信じられないような不安が浮かんでいる。
「……はぁ、あの坊主がお前を拒絶するわけないだろう。契約者であることを明かしても何の問題もないと……」
そして、その私の様子に黙って見ていられなくなったのか、アルセラーンが現れ、何事かを言おうとする。
「あ、アルセラーン出てこないでて言ったでしょう!」
「はぁ……」
けれども、そのアルセラーンの言葉を最後まで聞くことなく私は焦った様子で叫んだ。
アルセラーンは精霊なので特定の人間以外はは見るどころか感知することさえ出来ない。
「お、お願いだから早く戻って!」
だが、私の待っている人間は、その特定に入る存在でだからこそ、私はアルセラーンに急いで姿を消すように頼み込む。
するとアルセラーンは深々と溜息をついて姿を消した。
「このへたれめ」
「うるさい!」
……ただ、余計な一言だけは残していったが。
「もう……」
アルセラーンが去り、一人となった部屋の中私は疲れたように嘆息する。
……確かにアルセラーンの言う通り、彼は私がただの契約者だったら隠していたことを明らかにしても決して嫌わないかもしれない。
けれども、大精霊との契約者なんてことを黙っているのは幾ら彼でも許してくれないかもしれない。
それに、私は今までの彼との関係を気に入っていて、壊したくなかったのだ。
だから私は昨夜、国王に二つの要求を通した。
一つは大精霊の契約者が私であると言うことを隠すこと。
王族は私がサーマリアであることを知っているが、今までの変装の甲斐がありあれだけ脅したカールマン達以外私の正体を知る者はいない。
だから無用な騒ぎを避けるにも私の正体は隠す方が都合が良かったのだ。
ーーー そして、もう一つの要望はこの国に存在する、私を除いた二人の契約者の内1人、マルクス・アッカーストの側仕えとしてもらうことだった。
「もう、これで私はあの人と会うことを咎められることはなくなる……」
そこまで考えて、私はその口元に小さな笑みを浮かべた。
契約者マルクス。
彼はこの王国の中、最年少である13歳の契約者で。
ーーー 唯一貴族社会で嫌われていた私を疎まなかった存在だった。
「ふふ」
マルクスと会うことにもう気を使う必要が無くなったことが嬉しくて、私は思わず忍び笑いを漏らしてしまう。
「サーマリア!」
「っ!」
そして、記憶と変わらない声で扉が開かれたのはその瞬間のことだった。
一瞬、私は突然開いた扉に驚くも、次の瞬間目にした荒い息をつくマルクスの姿に微笑みを浮かべた。
あれだけこちらは不安で仕方なかったのに、どうやらマルクスは全然変わっていなかったらしい。
ーーー そしてそのことに隠しきれない喜びを覚えながら、私は口を開いた。
「ただいまです。マルクス」
「あぁ、おかえりだ。サーマリア」
◇◇◇
《後書き》
これで一応一章はお終い予定です!色々と疑問があると思いますが、次回アルセラーン視点の解説を幕間として投稿予定です!
王宮で国王を脅したその翌日。
私はすっかり着慣れたかつらと伊達眼鏡を着用して落ち着きのない様子でとある部屋の椅子に座っていた。
……その顔には昨日あれだけ大ごとを起こした同一人物だと信じられないような不安が浮かんでいる。
「……はぁ、あの坊主がお前を拒絶するわけないだろう。契約者であることを明かしても何の問題もないと……」
そして、その私の様子に黙って見ていられなくなったのか、アルセラーンが現れ、何事かを言おうとする。
「あ、アルセラーン出てこないでて言ったでしょう!」
「はぁ……」
けれども、そのアルセラーンの言葉を最後まで聞くことなく私は焦った様子で叫んだ。
アルセラーンは精霊なので特定の人間以外はは見るどころか感知することさえ出来ない。
「お、お願いだから早く戻って!」
だが、私の待っている人間は、その特定に入る存在でだからこそ、私はアルセラーンに急いで姿を消すように頼み込む。
するとアルセラーンは深々と溜息をついて姿を消した。
「このへたれめ」
「うるさい!」
……ただ、余計な一言だけは残していったが。
「もう……」
アルセラーンが去り、一人となった部屋の中私は疲れたように嘆息する。
……確かにアルセラーンの言う通り、彼は私がただの契約者だったら隠していたことを明らかにしても決して嫌わないかもしれない。
けれども、大精霊との契約者なんてことを黙っているのは幾ら彼でも許してくれないかもしれない。
それに、私は今までの彼との関係を気に入っていて、壊したくなかったのだ。
だから私は昨夜、国王に二つの要求を通した。
一つは大精霊の契約者が私であると言うことを隠すこと。
王族は私がサーマリアであることを知っているが、今までの変装の甲斐がありあれだけ脅したカールマン達以外私の正体を知る者はいない。
だから無用な騒ぎを避けるにも私の正体は隠す方が都合が良かったのだ。
ーーー そして、もう一つの要望はこの国に存在する、私を除いた二人の契約者の内1人、マルクス・アッカーストの側仕えとしてもらうことだった。
「もう、これで私はあの人と会うことを咎められることはなくなる……」
そこまで考えて、私はその口元に小さな笑みを浮かべた。
契約者マルクス。
彼はこの王国の中、最年少である13歳の契約者で。
ーーー 唯一貴族社会で嫌われていた私を疎まなかった存在だった。
「ふふ」
マルクスと会うことにもう気を使う必要が無くなったことが嬉しくて、私は思わず忍び笑いを漏らしてしまう。
「サーマリア!」
「っ!」
そして、記憶と変わらない声で扉が開かれたのはその瞬間のことだった。
一瞬、私は突然開いた扉に驚くも、次の瞬間目にした荒い息をつくマルクスの姿に微笑みを浮かべた。
あれだけこちらは不安で仕方なかったのに、どうやらマルクスは全然変わっていなかったらしい。
ーーー そしてそのことに隠しきれない喜びを覚えながら、私は口を開いた。
「ただいまです。マルクス」
「あぁ、おかえりだ。サーマリア」
◇◇◇
《後書き》
これで一応一章はお終い予定です!色々と疑問があると思いますが、次回アルセラーン視点の解説を幕間として投稿予定です!
2
あなたにおすすめの小説
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる