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第二章
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「あのぅ」
「あ!これはこれはサフィリア夫人。いつもお世話になっております!」
「い、いいえ。お勤めお疲れ様でございます」
「いやいや、夫人こそ、いつもお疲れ様です!」
夫との面会を申し込もうと面会手続きの窓口に出向けば、すっかり顔馴染みになった文官が挨拶してくれた。
「あのぅ、こちら、よろしければ皆様で召し上がって下さいませ」
「いやぁ~、いつもありがとうございます!」
「そのぅ、お口に合わなければどうぞ存分に雀の餌に……」
「そんなそんな、夫人は冗談がお上手だ。秒でなくなりますんで、ありがたい限りです!」
秒?王城にはそんなに沢山の雀がいるのか?
サフィリアはたっぷり焼いたクッキーを、この面会受付にも差し入れている。この辺りには鳩も多いから、餌付けに最適だと思っていた。
優しい受付の文官は、そんなサフィリアのクッキーにまで世辞を忘れない。
「あれ?まだ知らせていないんだけどな」
文官の言葉と同時に麝香の香りが薫った。この香り、もしやと咄嗟に振り返ろうとして、できなかった。
「サフィリア」
その声と共に腰に手を添えられた。
「だ、旦那様」
夫はするりと滑り込むようにしてサフィリアの前に来ると、サフィリアの腰を引き寄せた。
「来たのか」
お、怒ってる?
夫の眉が寄っている。切なげなのか怒ってるのか、ちょっと判断しづらい。
「お疲れ様でございます。旦那様」
夫を見上げてそう言えば、夫はうむと頷いた。
「えーと、ルクス殿。後ろがつかえてるから、そういうの面会室でやってくれないか」
え?なにを?
受付文官の言葉にサフィリアは思わず彼を見た。文官がすみませんねというような顔をした。
「む、確かに。失礼した。サフィリア、こちらへ」
夫はサフィリアの腰に手を添えたまま、もう片方の手でサフィリアの手を取った。身体の前で二人の腕が交差する。
夫はそれには構うことなく面会室まで歩き出したのだが、体勢がフォークダンスのようになって歩きづらい。そしてなんとなく恥ずかしい。
そのままフォークダンスの体勢で王城の回廊を歩く。前から来た近衛騎士がギョッとしたように見えたが、彼は直ぐに顔を伏せてしまったので、よくわからなかった。
すれ違いざま、申し訳ございませんと騎士を見れば、彼の肩が震えて見えた。
寒いのかしら。
既に春は盛りであるのに、あんなに分厚い騎士服を着ていながら寒いだなんて。
お可哀想に、冷え性なのね。
サフィリアは、お大事にの意味を込めて会釈した。フォークダンスのフォームで。
気の利く侍女が面会室の扉を開けて、サフィリアは夫に腰を取られたまま部屋へと入った。
「お忙しいのに、お邪魔をしてしまいました。お着替えをお持ち致しましたの。お渡ししたのでもう帰ります」
「待て待て、今部屋に入ったばかりだろう」
確かに。サフィリアは思い留まった
「あ、そうだわ、旦那様」
「ん?なんだ、サフィリア」
サフィリアはそこで侍女から包みを受け取った。
「一番上にクッキーがございますの。城の雀の餌になさってね」
「は?誰がそんなことを言ったんだ?」
「え?ええっと、きっと皆様、そう思うと……」
「そんな愚かなことをほざく輩がいるのなら、その舌、切り落としてくれよう」
サフィリアはそこで思わず口を噤んだ。舌を切られては堪らない。
それから律儀な夫は、サフィリアの目の前で荷物を解いてクッキーの箱を開けた。
目がぱぁっと開いて見えたが、一瞬のことでよくわからなかった。
夫は「いただきます」と呟いて、端から律儀に一枚ずつクッキーを食す。途中、チョコチップとジャム入りで指先が彷徨ったがチョコチップを先に食べた。
「あ、それは雀ちゃんの……」
砂糖控えめプレーンクッキーを手にした時には、サフィリアは思わず声が出てしまった。それは雀ちゃんのお口に合うと思ったのだ。だが舌を切られたくはないので慌てて口を噤んだ。
そうしている間に、夫は二列目に着手した。箱にクッキーは四列入っている。
ああ、雀ちゃんの餌が、そう思ったが、律儀な夫がサフィリアを気遣っているその思いを邪魔したくはなかった。
結局、三列食べ終えた夫に、ポットに持参したお茶のお代わりを差し出して、夫が喉を潤したのを見届けてから城を辞した。
夫は出来たひとであるから、妻にも社交辞令を忘れずに、「え?もう帰るのか?もっと居てくれて良いのに」と言ったが、お気持ちだけ受け取って夫を振り切った。
「大丈夫でしょうか、旦那様」
侍女の言葉にサフィリアも頷いた。
「いくら奥様の特製クッキーがお好きだからと、あんなに一度に召し上がって」
「好きではないでしょうけれど、確かにそうよね。気の所為かしらと思ったのだけれど、旦那様、お腹が膨らんで見えたわ」
「クッキーが紅茶の水分を含んで腹部が内部から膨張したのではないでしょうか」
「ええ?そんなことってあるのかしら」
「私も詳しくはありませんが、あの腹部の膨らみ具合を見るに、そうとしか思えませんでした。ぱんぱんでしたよね、旦那様」
その後も邸に着くまで、サフィリアは侍女と夫の腹の膨張具合についての談義を続けた。
「あ!これはこれはサフィリア夫人。いつもお世話になっております!」
「い、いいえ。お勤めお疲れ様でございます」
「いやいや、夫人こそ、いつもお疲れ様です!」
夫との面会を申し込もうと面会手続きの窓口に出向けば、すっかり顔馴染みになった文官が挨拶してくれた。
「あのぅ、こちら、よろしければ皆様で召し上がって下さいませ」
「いやぁ~、いつもありがとうございます!」
「そのぅ、お口に合わなければどうぞ存分に雀の餌に……」
「そんなそんな、夫人は冗談がお上手だ。秒でなくなりますんで、ありがたい限りです!」
秒?王城にはそんなに沢山の雀がいるのか?
サフィリアはたっぷり焼いたクッキーを、この面会受付にも差し入れている。この辺りには鳩も多いから、餌付けに最適だと思っていた。
優しい受付の文官は、そんなサフィリアのクッキーにまで世辞を忘れない。
「あれ?まだ知らせていないんだけどな」
文官の言葉と同時に麝香の香りが薫った。この香り、もしやと咄嗟に振り返ろうとして、できなかった。
「サフィリア」
その声と共に腰に手を添えられた。
「だ、旦那様」
夫はするりと滑り込むようにしてサフィリアの前に来ると、サフィリアの腰を引き寄せた。
「来たのか」
お、怒ってる?
夫の眉が寄っている。切なげなのか怒ってるのか、ちょっと判断しづらい。
「お疲れ様でございます。旦那様」
夫を見上げてそう言えば、夫はうむと頷いた。
「えーと、ルクス殿。後ろがつかえてるから、そういうの面会室でやってくれないか」
え?なにを?
受付文官の言葉にサフィリアは思わず彼を見た。文官がすみませんねというような顔をした。
「む、確かに。失礼した。サフィリア、こちらへ」
夫はサフィリアの腰に手を添えたまま、もう片方の手でサフィリアの手を取った。身体の前で二人の腕が交差する。
夫はそれには構うことなく面会室まで歩き出したのだが、体勢がフォークダンスのようになって歩きづらい。そしてなんとなく恥ずかしい。
そのままフォークダンスの体勢で王城の回廊を歩く。前から来た近衛騎士がギョッとしたように見えたが、彼は直ぐに顔を伏せてしまったので、よくわからなかった。
すれ違いざま、申し訳ございませんと騎士を見れば、彼の肩が震えて見えた。
寒いのかしら。
既に春は盛りであるのに、あんなに分厚い騎士服を着ていながら寒いだなんて。
お可哀想に、冷え性なのね。
サフィリアは、お大事にの意味を込めて会釈した。フォークダンスのフォームで。
気の利く侍女が面会室の扉を開けて、サフィリアは夫に腰を取られたまま部屋へと入った。
「お忙しいのに、お邪魔をしてしまいました。お着替えをお持ち致しましたの。お渡ししたのでもう帰ります」
「待て待て、今部屋に入ったばかりだろう」
確かに。サフィリアは思い留まった
「あ、そうだわ、旦那様」
「ん?なんだ、サフィリア」
サフィリアはそこで侍女から包みを受け取った。
「一番上にクッキーがございますの。城の雀の餌になさってね」
「は?誰がそんなことを言ったんだ?」
「え?ええっと、きっと皆様、そう思うと……」
「そんな愚かなことをほざく輩がいるのなら、その舌、切り落としてくれよう」
サフィリアはそこで思わず口を噤んだ。舌を切られては堪らない。
それから律儀な夫は、サフィリアの目の前で荷物を解いてクッキーの箱を開けた。
目がぱぁっと開いて見えたが、一瞬のことでよくわからなかった。
夫は「いただきます」と呟いて、端から律儀に一枚ずつクッキーを食す。途中、チョコチップとジャム入りで指先が彷徨ったがチョコチップを先に食べた。
「あ、それは雀ちゃんの……」
砂糖控えめプレーンクッキーを手にした時には、サフィリアは思わず声が出てしまった。それは雀ちゃんのお口に合うと思ったのだ。だが舌を切られたくはないので慌てて口を噤んだ。
そうしている間に、夫は二列目に着手した。箱にクッキーは四列入っている。
ああ、雀ちゃんの餌が、そう思ったが、律儀な夫がサフィリアを気遣っているその思いを邪魔したくはなかった。
結局、三列食べ終えた夫に、ポットに持参したお茶のお代わりを差し出して、夫が喉を潤したのを見届けてから城を辞した。
夫は出来たひとであるから、妻にも社交辞令を忘れずに、「え?もう帰るのか?もっと居てくれて良いのに」と言ったが、お気持ちだけ受け取って夫を振り切った。
「大丈夫でしょうか、旦那様」
侍女の言葉にサフィリアも頷いた。
「いくら奥様の特製クッキーがお好きだからと、あんなに一度に召し上がって」
「好きではないでしょうけれど、確かにそうよね。気の所為かしらと思ったのだけれど、旦那様、お腹が膨らんで見えたわ」
「クッキーが紅茶の水分を含んで腹部が内部から膨張したのではないでしょうか」
「ええ?そんなことってあるのかしら」
「私も詳しくはありませんが、あの腹部の膨らみ具合を見るに、そうとしか思えませんでした。ぱんぱんでしたよね、旦那様」
その後も邸に着くまで、サフィリアは侍女と夫の腹の膨張具合についての談義を続けた。
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