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第十二章
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「まあ!こ、これって、まさしく私たちの姿だわ」
サフィリアは大いなる発見に打ち震えるあまり、目眩を覚えた。
あれからサフィリアは、すっかり『東』に傾倒してしまっていた。西の天竺に申し訳なく思いながらも東への興味が捨てきれない。
とうとう書店に赴き東に関わる書物を買い求めた。そのうちの一冊が『東国の国技』なる書物だった。
書物には「SUMOU」なる競技についてが記されていた。
肌も露わな限りなく裸体に近い男たちが、四つに組んでぶつかりあう。力と技の勝負。
それはまるで、
「どうしましょう。この姿って、褥の私と旦那様だわ」
サフィリアは恐れ慄いた。裸体で組み合うぶつかり稽古。
押し出し、寄り切り、呼び戻し。技の解説画はまさしく夫とのあんなことやこんなことの姿だった。
「SUMOU」=閨の私たち。
因みに勝敗は、今のところサフィリアの全戦全敗だ。
東を欲する心が呼び寄せたのか、次にサフィリアが巡り合ったのは「春画」だった。
春の画。てっきり春の庭園の風景画だと、そう思ったサフィリアは迷わず書店で買い求めた。
開けてびっくり、椅子からズレ落ちそうになった。
こ、こ、これって、まさしく昨夜の私たち。それは艶事好色事が美しく描かれた「UKIYOE」なる芸術画だった。
東方の国とは、なんて性に寛容なお国柄なのだろう。まさに裸体天国だ。
こんなにも男女の愛と風俗に寛容な東の国に、サフィリアは心が救われるような気がした。
天竺への懺悔の旅が終わったなら、帰り道に是非とも東国へ寄ってみたいと思うのだった。
だが忘れてはならない。旅の第一目的は懺悔である。天竺で夫へ懺悔の祈りを捧げることだ。
しかしながら先日のリサーチで、天竺という国が、とても遠い地にあることは調査済だ。徒歩での日数を数えて秒で無理だと理解できた。
やはり西は駄目か。サフィリアは諦めの溜め息をついた。
サフィリアは、こう見えて根気強い。豪胆な姉の側で育った為か、姉がばっさばっさと切り捨てた物事の後始末は大抵サフィリアが果たしてきた。
だから姉は、そんなサフィリアを大層重宝してくれたし、密かに義兄よりも役に立つと言って褒めてくれたものだ。そこでふと懐かしい義兄の顔が思い浮かんだが、直ぐに忘れた。
そんなことより天竺だ。
西が駄目だとするなら、次は東か。
エデンは東、東国も東。だが、どちらもここからはちょっとばかり遠すぎる。
東、東……東。東になにかあっただろうか。
仕事に向かう夫を見送り、元気な亭主が留守になった幸福を噛み締め自室に戻ってから、サフィリアはう~んと考えた。
頭の中に地図を描き、中央に伯爵邸を置いた。その周辺に建物を配置して、脳内で伯爵邸近隣の鳥瞰図を思い浮かべた。
まずは邸から右に行こう。何故なら左は西側になる。西をいくら進んでも天竺へは遠すぎるのだから行くだけ無駄だ。因みに王城は西側にあるのだが、サフィリアはそれも無駄だと切り捨てた。
東、東……東。
エデンよりも東国よりももうちょっと邸から近いところ。出来れば徒歩圏内。
持ち前の忍耐力に想像力を駆使して天空から東側をサーチする。
東、東……東……。
「あった!」
行き成り大きな声を上げたサフィリアに、側にいた侍女のタバサがぴょんと飛び跳ねた。
「ああ、ごめんなさいね、気にしないで」
タバサに詫びてからサフィリアは、
「出掛けたいのだけれど、仕度をお願い出来るかしら」と頼んだ。
タバサに身繕いをしてもらってから、サフィリアは邸を出て右側へ向かった。
右側、東の方向には教会がある。
天竺で懺悔の祈りを捧げられないのであれば、代替案として教会で祈りを捧げるよりほかはない。
多分、十人いれば十人とも、天竺より先に教会を思い浮かべると思うのだが、そこは人それぞれであるから仕方がない。
サフィリアは教会の馬車寄せで降り立って、そこで後ろに控えていたタバサへと振り返った。
「一人で祈りを捧げたいの。貴女は馬車で待っていてくれる?」
一人になりたいと言ったサフィリアに、タバサは狼狽した。
「お、奥様、なにかお悩みでも……」
悩みならある。平々凡々、地味地味のくせにあの美丈夫な夫の妻になったことだ。
あの夜会の夜、サフィリアはあの夜のことを『不幸な夜』と呼んでいるのだが、あの不幸な夜に、夫はサフィリアとうっかり同衾してしまったが為に不幸になった。
不幸な夜に不幸になる。ダブルで不幸なのだから、どれほど不幸なことなのか言わずとも分かる。
だが、夫への贖罪の為に懺悔に来たのだとは、この優しい侍女には言えなかった。
きっと彼女は夫の不幸を嘆くだろう。それで「大丈夫よ」とだけ言い残して、サフィリアは一人礼拝堂へと向かった。
痩せた背中が憐れを誘って見えた。
タバサは小さくなっていく夫人の後ろ姿に、胸がきゅうっと痛くなった。
奥様は、一体何をお悩みなのだろう。
毎日帰りの遅い旦那様に無碍にされているとお感じで、それでお悲しみになってお悩みなのだろうか。
なんて酷い王城だろう。旦那様をお仕事に縛り付けて、それで奥様をお淋しいお気持ちにさせるだなんて。
明日は自分は休暇であるから、奥様の代わりに教会へ来よう。そうして、あの旦那様を縛り付ける憎き王太子殿下へ呪詛の祈りを捧げよう。
小さくなるサフィリアの背中を見送りながら、タバサは王太子への呪詛を誓った。
サフィリアは大いなる発見に打ち震えるあまり、目眩を覚えた。
あれからサフィリアは、すっかり『東』に傾倒してしまっていた。西の天竺に申し訳なく思いながらも東への興味が捨てきれない。
とうとう書店に赴き東に関わる書物を買い求めた。そのうちの一冊が『東国の国技』なる書物だった。
書物には「SUMOU」なる競技についてが記されていた。
肌も露わな限りなく裸体に近い男たちが、四つに組んでぶつかりあう。力と技の勝負。
それはまるで、
「どうしましょう。この姿って、褥の私と旦那様だわ」
サフィリアは恐れ慄いた。裸体で組み合うぶつかり稽古。
押し出し、寄り切り、呼び戻し。技の解説画はまさしく夫とのあんなことやこんなことの姿だった。
「SUMOU」=閨の私たち。
因みに勝敗は、今のところサフィリアの全戦全敗だ。
東を欲する心が呼び寄せたのか、次にサフィリアが巡り合ったのは「春画」だった。
春の画。てっきり春の庭園の風景画だと、そう思ったサフィリアは迷わず書店で買い求めた。
開けてびっくり、椅子からズレ落ちそうになった。
こ、こ、これって、まさしく昨夜の私たち。それは艶事好色事が美しく描かれた「UKIYOE」なる芸術画だった。
東方の国とは、なんて性に寛容なお国柄なのだろう。まさに裸体天国だ。
こんなにも男女の愛と風俗に寛容な東の国に、サフィリアは心が救われるような気がした。
天竺への懺悔の旅が終わったなら、帰り道に是非とも東国へ寄ってみたいと思うのだった。
だが忘れてはならない。旅の第一目的は懺悔である。天竺で夫へ懺悔の祈りを捧げることだ。
しかしながら先日のリサーチで、天竺という国が、とても遠い地にあることは調査済だ。徒歩での日数を数えて秒で無理だと理解できた。
やはり西は駄目か。サフィリアは諦めの溜め息をついた。
サフィリアは、こう見えて根気強い。豪胆な姉の側で育った為か、姉がばっさばっさと切り捨てた物事の後始末は大抵サフィリアが果たしてきた。
だから姉は、そんなサフィリアを大層重宝してくれたし、密かに義兄よりも役に立つと言って褒めてくれたものだ。そこでふと懐かしい義兄の顔が思い浮かんだが、直ぐに忘れた。
そんなことより天竺だ。
西が駄目だとするなら、次は東か。
エデンは東、東国も東。だが、どちらもここからはちょっとばかり遠すぎる。
東、東……東。東になにかあっただろうか。
仕事に向かう夫を見送り、元気な亭主が留守になった幸福を噛み締め自室に戻ってから、サフィリアはう~んと考えた。
頭の中に地図を描き、中央に伯爵邸を置いた。その周辺に建物を配置して、脳内で伯爵邸近隣の鳥瞰図を思い浮かべた。
まずは邸から右に行こう。何故なら左は西側になる。西をいくら進んでも天竺へは遠すぎるのだから行くだけ無駄だ。因みに王城は西側にあるのだが、サフィリアはそれも無駄だと切り捨てた。
東、東……東。
エデンよりも東国よりももうちょっと邸から近いところ。出来れば徒歩圏内。
持ち前の忍耐力に想像力を駆使して天空から東側をサーチする。
東、東……東……。
「あった!」
行き成り大きな声を上げたサフィリアに、側にいた侍女のタバサがぴょんと飛び跳ねた。
「ああ、ごめんなさいね、気にしないで」
タバサに詫びてからサフィリアは、
「出掛けたいのだけれど、仕度をお願い出来るかしら」と頼んだ。
タバサに身繕いをしてもらってから、サフィリアは邸を出て右側へ向かった。
右側、東の方向には教会がある。
天竺で懺悔の祈りを捧げられないのであれば、代替案として教会で祈りを捧げるよりほかはない。
多分、十人いれば十人とも、天竺より先に教会を思い浮かべると思うのだが、そこは人それぞれであるから仕方がない。
サフィリアは教会の馬車寄せで降り立って、そこで後ろに控えていたタバサへと振り返った。
「一人で祈りを捧げたいの。貴女は馬車で待っていてくれる?」
一人になりたいと言ったサフィリアに、タバサは狼狽した。
「お、奥様、なにかお悩みでも……」
悩みならある。平々凡々、地味地味のくせにあの美丈夫な夫の妻になったことだ。
あの夜会の夜、サフィリアはあの夜のことを『不幸な夜』と呼んでいるのだが、あの不幸な夜に、夫はサフィリアとうっかり同衾してしまったが為に不幸になった。
不幸な夜に不幸になる。ダブルで不幸なのだから、どれほど不幸なことなのか言わずとも分かる。
だが、夫への贖罪の為に懺悔に来たのだとは、この優しい侍女には言えなかった。
きっと彼女は夫の不幸を嘆くだろう。それで「大丈夫よ」とだけ言い残して、サフィリアは一人礼拝堂へと向かった。
痩せた背中が憐れを誘って見えた。
タバサは小さくなっていく夫人の後ろ姿に、胸がきゅうっと痛くなった。
奥様は、一体何をお悩みなのだろう。
毎日帰りの遅い旦那様に無碍にされているとお感じで、それでお悲しみになってお悩みなのだろうか。
なんて酷い王城だろう。旦那様をお仕事に縛り付けて、それで奥様をお淋しいお気持ちにさせるだなんて。
明日は自分は休暇であるから、奥様の代わりに教会へ来よう。そうして、あの旦那様を縛り付ける憎き王太子殿下へ呪詛の祈りを捧げよう。
小さくなるサフィリアの背中を見送りながら、タバサは王太子への呪詛を誓った。
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