ままならないのが恋心

桃井すもも

文字の大きさ
2 / 12

ままならないのが恋心

しおりを挟む
トーマスは誠実な男性ひとであったと思う。

同い年の二人は、十四歳の時に婚約した。

共に伯爵家の子息令嬢で、家柄の釣り合いも問題ない。

互いの母も茶会などで面識があり、父親同士も社交の場でしばしば言葉を交わしていた。

領地もそれ程離れておらず、王都のタウンハウスも程近い。

良縁であった。
遮るものなど何もない。

思春期に入りかけた二人も、最初こそぎこち無い交流であったものの、互いに穏やかな気質が合ったようで、ゆっくり心を通わせて行った。
と、ミレーユは思っていた。

けれども、トーマスはそうではなかったらしい。

十五歳で共に王都の学園に入学すると、ミレーユは気が付いた。

トーマスの心が離れた事を。
もしかしたら、最初から心など寄せられていなかったのかもしれない。

物静かなトーマスの熱量のある感情になど、それまで触れた事がなかった。

だから、学園で目配せし合う二人にも直ぐに気が付いた。

マリエル嬢は、柔らかくうねる金の髪に青い瞳の、愛らしい令嬢だ。

領地を持たない中央貴族の伯爵家の次女で、父親は王城に出仕している文官職にある。

生まれも育ちも王都にあって、洗練された物腰に教養の備わった可憐な令嬢であった。

芽生えてしまった恋心を、誰が責められようか。

誠実であるが為に、表面上では何も変わらぬ風を見せるトーマスに、何を言えばよいのだろう。

不実を責めても、心は変えることなど出来ないのだから。

自分の中にも確かにある恋心を、ミレーユは可哀想だと思った。

ミレーユの存在を知らながら、トーマスと愛を分け合うマリエルを、瞳に映したくなかった。

二人向き合い何事かを囁やき合う姿から、そっと視線を外す。

見なければ、それ以上心が泣くことはない筈。
決してそんなことは無いのだけれど。

ままならないのが恋心なのだわ。

私も貴方もの令嬢も。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

処理中です...