ままならないのが恋心

桃井すもも

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私はだあれ

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「ミレーユ様、御身体はもうよろしいの?」

クラスに入って席に着くと、とととと寄って来た令嬢に声を掛けられた。

「有難うございます、イヴ様。お蔭様でもうすっかり良くなりました」

まあ、それは良かったわと笑みを浮かべてイヴ様が、御無理なさらないでね。お大事になさってねと続けるも、

「お早う、イヴ」
婚約者のシリル様の登場で終了となった。

心の通い合う婚約者。
イヴ様は当初、他に婚約されている方がいらっしゃったが、先日それが解消となって程なくシリル様と婚約なさった。

美丈夫で有名な元婚約者様は、他のご令嬢に心を移されていたらしく、学園で度々目にするブラック&ピンクの組み合わせは、知る人は知っていた事だろう。

相手の不実に見舞われながら、いつも穏やかな微笑みを忘れる事の無かったイヴ様。

この方もきっと、ままならない恋心に涙を零したことがあるのだろう。

それも今は、新たな婚約者と肩を並べる後ろ姿からは想像出来ない。

真に心が通い合っていることが見て取れて、私にもそんな道があるのだろうか、とミレーユは考えた。


結局、あの「私はだあれ」状態は長くは続かなかった。

このまま記憶を無くしたていで、面倒なあんな事もこんな事も放り出してしまいたかった。

体面だけの気遣いも、心の通じ合わない婚約も、到底敵わぬ恋敵も、全部放り投げてしまいたかった。

しかし、それすら何だか馬鹿らしく面倒になってしまったのは、見舞いの際のトーマスの表情を見たからか。

何もかも忘れたらしい婚約者を漸く切り捨てられると、心の内でほくそ笑んでいるのではと思うと、涙を流す己の恋心を救ってやれるのは自分だけなのだと、すとんと何かが心に収まった気がしたのだった。




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