ヴィオレットの夢

桃井すもも

文字の大きさ
2 / 48

六の姫2

しおりを挟む
物心の付く頃には、長子である第一王女は既に嫁いでいた。

年の離れた姉姫達は、王女教育や学園での学びに忙しく、なかなか会う事は無かった。

直ぐ上の二つ年上の姉とは居室も隣で気も合って、幼少期の記憶では大体がこの姉と過ごす事が多かった。

立太子を控える兄王子は父の側に部屋を持ち、母に溺愛されている幼子の弟は、常に母の側に置かれている。

一の姫を先頭にして王女達は順に部屋を割り与えられ、六番目のヴィオレットは宮の最奥の居室を住まいとしていた。

薄い色合いの金の髪は白銀にも見える。
肌も白く薄く、菫色の瞳のみが濃い色を示している。
影の薄い王女、六の姫。


木立に囲まれた庭園の広がる王女達の住処、最奥の部屋をヴィオレットは寂しいとは思わなかった。

政務に忙しい父王にも、弟につきっきりの母妃にも、滅多に会うことは無かったが、偶に会う兄も姉も皆優しかった。

大勢いる兄姉弟(きょうだい)の中にあって、己があまり注力されていない事に幼い頃から気付いていた六の姫は、生来の気質もあって、控え目で大人しい姫であった。

年の離れた姉たちは、そんな妹を不憫に思ってか、それとも弟ばかりに愛を傾ける母に呆れてか、ヴィオレットを案じている様であった。

聡い兄王子もそんなヴィオレットには気やすく接しており、時折遊んでくれるのがヴィオレットは嬉しかった。

父の妹が降嫁した公爵家には兄と同い年の従兄弟が一人おり、将来の側近候補と見做されているらしく、兄とは常に共にいた。

公爵譲りのシトリンの瞳を持つ従兄弟の、自分と同じ白銀にも見える薄い金の髪色に確かな血の繋がりを感じて、身近な親近感を得ていた。


兄がヴィオレットの相手をしてくれる時には大抵は従兄弟も一緒であり、日々を大人しく静かに過ごすヴィオレットにとって、彼らと触れ合う時間は特別なものであった。

すぐ上の姉と一緒に教育を受けたり刺繍などを習う時間は平穏で静かなもので、だから、兄達(男の子)と興じる遊びは、汗を掻きながら走り回り大きな声を発する事の出来る、心も身体も躍る時間であった。
姉は、汗臭い遊びは嫌よと呆れていたが。

だから、従兄弟からの激しい拒絶にヴィオレットは衝撃を受けてしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...