ヴィオレットの夢

桃井すもも

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六の姫1

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「私に近寄らないでくれないか。」

ヴィオレットが立ち止まる。

兄と共にいた少年は上半身を背けているので、その表情は見えない。

自分と同じ、白銀にも見える薄い金の髪色に、確かに彼だと分かるのだが顔まで背けられてシトリンの瞳は見えない。

「ヴィオレット、離れてやれ。」
兄が苦笑いを浮かべてヴィオレットをやんわりと諭す。

ヴィオレットが、一歩二歩と後退すると、二人は連れ立って去っていってしまった。

残されたヴィオレットは、どうしてこんな事になったのかと戸惑った。

優しい従兄弟からの拒絶に、小さな胸が痛んだ。


********


ヴィオレットは第六王女として生を受けた。

父は若くして王位を得たあとは、堅実な手腕で国を治めている。

伯爵家出身の母は、生家の爵位も妃としての素養も、候補に上がっていた他の令嬢等と比べると見劣りがしたが、多産の家系を見込まれて輿入れをした。

少しばかり考え足らずな所はあるものの、おっとりとした気質に可憐な容姿の母を、父王は愛らしい妻と愛でた。


後継の誕生が期待される中、産まれた第一子は女児であった。

その後も第二子、第三子と王女が続く。
過去に女王の立った歴史のあるこの国で、一の姫は徹底した帝王教育を受ける事となる。

王妃は、男児に恵まれず追い詰められていた。
既に三人産んだもののその全てが女児で、「女腹」と蔑まれているのではないかと不安に苛まれた。

だから、漸く四人目にして王子が産まれた時には、心の底から安堵した。

なのに、身体が落ち着くと早々に次なる男児(スペア)を望む声を聴いてしまう。

それからは、王子に続いて第五子となる女児を産み、腹も空かぬ間に産んだその次の子もまた女児で、今度こそはと願を掛けて産み落とした子は、期待外れの六番目の姫であった。

子を生み続けた身体と心は疲弊した。
それが漸く癒えて、年齢的にもそろそろ無理がたたろうと周囲も案ずる頃に、第二王子を出産する。


先に生を受けていた第一王子は、既に世継ぎとして養育されており、母の手出しも口出しも及ばないところにいた。

「女腹」の絶望から我を救ってくれた第二王子を、母は溺愛した。







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