ヴィオレットの夢

桃井すもも

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見納め

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成人の儀と同時に、兄は立太子して王太子となった。

優し気な風情に僅かに威厳が加わった兄は、美しい王子と人気である。

学園も高等部に移り、国政に関わる執務も担い始めている。

幼い頃から親の愛の薄かったヴィオレットを、優しく思いやってくれた兄である。


ヴィオレットは明日、王都を立つ。
多忙な兄の時間を奪うのは憚られたが、どうしても直接挨拶をして行きたかった。

兄の侍従が、剣の稽古の時間を教えてくれたので、稽古場まで向かうこととした。


「寂しくなるな。宮でお前の顔を見られなくなるなんて。」

人差し指でヴィオレットの頬を擽りながら兄が寂しい寂しいと繰り返す。

私もですわ、お兄様。

同じ事を思いながら、視線が兄の後ろを見やる。

デイビッドが稽古を付けていた。

結局あれからまともな会話を交わせていない。

いつの間にか、お互い成長して、デイビッドは従兄弟と云うより兄の側近として立場を弁えるようになっていた。

ヴィオレットにも、姫君に接する距離で視線を伏せて控える。

些細な行き違いであった筈なのに、上手く仲直り出来ないまま主従の関係になってしまった。
もうこんな悲しい経験はしたくないとヴィオレットは思う。

ヴィオレットの視線の行方に気付いた兄が、声を掛けるかい?と気遣ってくれたが、この上稽古の邪魔などしたくはないと「いいえお兄様から宜しく伝えて下さい。」と頼んだ。

自分と同じ、白銀に見える色の薄い金の髪。
瞳を閉じて並んだなら、兄妹に見えるかしら。並び立つ事など、もう無いけれど。

小さな痛みを胸に感じて、ヴィオレットは汗にまみれて剣を振るうデイビッドの姿を目に焼き付けた。






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