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姉の温もり
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出立する少し前に、嘗ての一の姫、今は公爵夫人となった姉に会った。
兄が産まれるまで帝王学まで学んでいた姉は、今では公爵夫人として若手の貴族夫人らを牽引し牛耳っている。
王妃以上に王妃らしい、影の王妃とまで囁かれている。
「王妃様は相変わらずね。」
貴賤を問わず姉妹として会話をする。
十も年上のこの姉は、父王譲りの厳格な表情をしているが、情深い人柄である。
この姉が王宮に居た頃は、母より頼りに思っていた。
今日も、帝国への出立に際して不足がないかと確かめに来たのだろう。
あれもあったほうが良いわね、これも必要ねと、あれこれ脇に控える侍女に言付けている。
「学び場は宝よ。思う存分学んでいらっしゃい。」
姉は学園には通っていない。
教育の全てを王宮の中で受けている。
王宮の中にあって、深い知識を得、人脈を掴み、降嫁してからも揺るがない地位を築いている。
尊敬する姉である。
「困った事があったら、必ず知らせなさい。」
貴女は一人ではないのよ、と末の妹を案じている。
そうして、どうか息災でとヴィオレットを抱き締めた。
柔らかな身体はとても温かだった。
********
帝国から連なる鉄道建設は、ヴィオレットの国でも始まっている。
しかし、未だ建設途上にあり、実走にはあと数年を要する。
帝国へは、馬車を使って王国の北を通り向かうこととなった。
北の国境には、三の姫が嫁いでいる。
姉は、現在、軍部を纏める辺境伯家の夫人となっている。
国境を超える前に、姉の元を訪ねた。
娘時代には母似の可憐な姫であった姉は、国防の要を担う軍人の妻となり、母となり、逞しさと厳しさを身に着けていた。
「これだけの護衛しか付いていないの?」
呆れた様子で眉を顰める。
「一の姉様から聞いた通りね。ウィリアムも何をしているのかしら。」と、王太子である弟を、本人の居ない場所で叱責している。
「妹の支度すら満足に出来ないなんて、王太子の教育は大丈夫なの?!」
軍人の妻は辛辣だ。弟王子の不手際と容赦が無い。
国を渡るのに護衛が少なすぎると憤っているのだが、外遊など経験の無いヴィオレットには、多いのか少ないのかさっぱり解らない。
国超えするまでは我が兵を貸しましょうと、辺境伯家の護衛を付けてくれた。隣国からは鉄道での移動となるので、護衛の数もそれ程必要としない。
「母上は何を考えているのかしら。」
一の姫と同じ様なことを同じ様に語った。
姫の支度は母が執り行うものなのだそうだ。
それから、一の姉と同じ様に、困った事が起こったら必ず知らせなさい、貴女は一人ではないのよ。と云って抱きしめてくれた。
抱擁は、やはりとても温かだった。
そして、力強かった。
兄が産まれるまで帝王学まで学んでいた姉は、今では公爵夫人として若手の貴族夫人らを牽引し牛耳っている。
王妃以上に王妃らしい、影の王妃とまで囁かれている。
「王妃様は相変わらずね。」
貴賤を問わず姉妹として会話をする。
十も年上のこの姉は、父王譲りの厳格な表情をしているが、情深い人柄である。
この姉が王宮に居た頃は、母より頼りに思っていた。
今日も、帝国への出立に際して不足がないかと確かめに来たのだろう。
あれもあったほうが良いわね、これも必要ねと、あれこれ脇に控える侍女に言付けている。
「学び場は宝よ。思う存分学んでいらっしゃい。」
姉は学園には通っていない。
教育の全てを王宮の中で受けている。
王宮の中にあって、深い知識を得、人脈を掴み、降嫁してからも揺るがない地位を築いている。
尊敬する姉である。
「困った事があったら、必ず知らせなさい。」
貴女は一人ではないのよ、と末の妹を案じている。
そうして、どうか息災でとヴィオレットを抱き締めた。
柔らかな身体はとても温かだった。
********
帝国から連なる鉄道建設は、ヴィオレットの国でも始まっている。
しかし、未だ建設途上にあり、実走にはあと数年を要する。
帝国へは、馬車を使って王国の北を通り向かうこととなった。
北の国境には、三の姫が嫁いでいる。
姉は、現在、軍部を纏める辺境伯家の夫人となっている。
国境を超える前に、姉の元を訪ねた。
娘時代には母似の可憐な姫であった姉は、国防の要を担う軍人の妻となり、母となり、逞しさと厳しさを身に着けていた。
「これだけの護衛しか付いていないの?」
呆れた様子で眉を顰める。
「一の姉様から聞いた通りね。ウィリアムも何をしているのかしら。」と、王太子である弟を、本人の居ない場所で叱責している。
「妹の支度すら満足に出来ないなんて、王太子の教育は大丈夫なの?!」
軍人の妻は辛辣だ。弟王子の不手際と容赦が無い。
国を渡るのに護衛が少なすぎると憤っているのだが、外遊など経験の無いヴィオレットには、多いのか少ないのかさっぱり解らない。
国超えするまでは我が兵を貸しましょうと、辺境伯家の護衛を付けてくれた。隣国からは鉄道での移動となるので、護衛の数もそれ程必要としない。
「母上は何を考えているのかしら。」
一の姫と同じ様なことを同じ様に語った。
姫の支度は母が執り行うものなのだそうだ。
それから、一の姉と同じ様に、困った事が起こったら必ず知らせなさい、貴女は一人ではないのよ。と云って抱きしめてくれた。
抱擁は、やはりとても温かだった。
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