ヴィオレットの夢

桃井すもも

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車窓から

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帝国の北西に位置するカニンガム侯爵領。

古くから生薬の栽培と生成を生業とし、傍系では医師も多く輩出しており、過去には御典医もいた。

領内に薬草園を管理しており、生薬と併せて新薬の開発にも心血を注いでいる一族である。

嫡子であるアルフレッドも何れ、薬師として領地と薬草園、そこから産出される生薬を管理する事となる。

美しい姿で聳える山峰は、希少な高山植物の棲息地帯であり、澄んだ美しい湖を抱いている。
湖畔は貴族御婦人方に大人気の景勝地で、夏の避暑地でもある。

カニンガム侯爵領は、製薬のみならず観光・保養に於いても利を生み出していた。


強風にさらされる風衝地に、夏まで雪が残る雪田。大量の積雪による豊富な雪融け水。数多の巡り合わせの奇跡を得て、短い夏に花を咲かせる高山植物。それらを育む白い山峰。

アルフレッドの話す領地の植生に、ヴィオレットは菫色の瞳を輝かせる。キラキラと。

ついでに侍女の瞳もキラキラと輝いている。

うんうんふむふむと頷く二人。アルフレッドの話しに、また頷く。

車窓を流れる景色は次々と街並みを変え、そのうち田園風景に変わった。朝日が夕焼けに変わって星空になる。
車内で一夜を過ごし翌日の夕刻にはカニンガム領内に入る。

丸二日の鉄道の旅。その行程の殆どを、アルフレッド植物博士の教鞭の時間として、学生其の一ヴィオレットと、其の二侍女マリアは、勤勉な学生として教えを享受しているのであった。

クラリスは来週、第二皇子と云う強力過ぎる護衛と共に合流の予定である。

ヴィオレットは、今は侍女と二人、アルフレッドに伴われて彼の領地に向かっていた。


アルフレッドは、焦げ茶の髪と榛の瞳の容姿そのものの、落ち着いた思慮深い少年である。

平素はどちらかと云うと聞き役に徹し、無駄な口を挟むこともない。

けれども、領内の植生に関しては一家言あるらしく、膨大な知識を女子二人に披露してからは、どうだったかね的な空気を得意気に醸し出している。



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