ヴィオレットの夢

桃井すもも

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命(めい)

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「やめて頂戴。王女の女官だなんて、どんな苛めよ。」

クラリスが皇妃になったなら、私を女官に雇って頂戴と伝えたら、クラリスは鼻の根を顰めて嫌よと言った。


もしかしたら、六番目の王女がいた事を忘れてくれているのではないか。

もしかしたら、このまま帝国に残れるのではないか。

もしかしたら、もしかしたらと、そんな事ばかりを夢見ていた為に、手痛い目覚ましを食らってしまった。

卒業までひと月を切った頃に、母国から書簡が届いた。

帰国の命であった。

こんな時期に来て、もう大丈夫だと思わせて、なんて残酷なのだろうと思った。
やはり自由にはさせてくれない。

なんて残酷で勝手な国!
国にも父にも母にも、兄にさえも怒りが沸いて、自分の中にこんなに激しい感情があったことに驚いた。

初めての夏を前に兄から届いた文の通り、一度も戻らず学んで過ごした。
困った時には大使を頼った。

云われた通りにしていたのに。


卒業の授与式を待っての帰国となった。
だから、その夜の卒業を祝う夜会など出られよう筈もなかった。

誰とダンスを踊るのだとか、婚約者が迎えに来るのだ支度をしなくちゃとか、皆が頬を染めて沸き立つ中にあって、ひとり国に戻る。

クラリスがヴィオレットを抱き締めて、なかなか離してくれなかった。夜会の支度があるじゃない急がないと、と云ってもなかなか離してくれなかった。

寮に戻るまで、彼女の温もりが身体に残って、温かいと思った。


今頃になって、私は帰る。
何処に帰ると云うの?
帰れる場所など、果たしてあるのだろうか。


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