ヴィオレットの夢

桃井すもも

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再会3

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晩餐のドレスは帝国のものを選んだ。

クローゼットの中には既に沢山のドレスが入っていたが、それはどれもふわふわと愛らしく私には似合いそうになかった。


何よりサイズが合ってなく、思うにこれは直ぐ上の姉が婚姻前の王女時代に着ていたものではないだろうか、と思った。

母似の愛らしい姉であれば、よく似合っていたことだろう。

上質の生地ではあるが、着用感があり型が少々古く思えた。

嫁ぐにあたって置いていったものなのかもしれない。

何れにせよ、サイズが合わなければ仕方がない。
大きければ何とか補正のしようもあるだろうが、その逆は難しい。

私は少しばかり胸元の発育が良く、このままでは背中でボタンが留まらなくなるだろう。

帝国を出る前に、私は留学時の予算で、ドレスを一通り購入した。

それに合わせたジュエリーも。靴に扇子、貴婦人の鎧一式を揃えて来た。

帝国女王陛下は、質素倹約を旨に、すっきりと機能的且つ流美な装いを好まれる。

旧態依然の田舎貴族からは、女教師の様だと不敬な陰口を云われるが、私は、その美しい佇まいを敬愛の思いで拝見していた。

そんな陛下の影響から、帝都の貴婦人からもその様な装いが好まれている。

晩餐の席ではあるが、首元まで包むロングドレスを着る。装飾は殆ど無いが身体に沿うシルエットが美しく、これを着続けるには体型の管理を怠ってはいけない。

首元を飾る大振りのブローチは濃い菫色のアメジストで、これは王太后様がお譲り下さったものだった。

父は側妃腹であったが、王太后様は父の子である私達にも「お祖母様」と呼ばせ孫として愛して下さった。

嬰児(みどりご)であった私の瞳を御覧になって、菫の様だと仰ったと云う。そうして御自分の宝物(ほうもつ)の中よりこのブローチをお譲り下さった。

私が愛を受けた、数少ない逸話である。

マリアが、ドレスに合わせて帝国式に髪を結う。

鏡を見ると、成る程、眉を顰めて顎を上げたなら、女教師に見えなくもない。

鏡の前で、そんな風にポーズを取ると、おやめ下さい、ヴィオレット様、とマリアがひぃひぃ笑い、釣られて他の侍女達まで笑い出した。


********


「用意したドレスはどうしたの?」

母の第一声はそれであった。

父王と母に帰国の挨拶をし、席に着いた途端の事であった。

「わたくしの不摂生からか、些か小さく入りませんでしたの。」と答えると、母は何も言わなくなった。

察したらしい兄が苦い顔になる。
三の姉が此処にいたなら...その先は考えない事にした。



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