ヴィオレットの夢

桃井すもも

文字の大きさ
29 / 48

兄の言葉

しおりを挟む
ああ、ヴィオレット、よく来たね。
大丈夫だよ、丁度休憩しようかと思っていたところだ。

いよいよ明日だね。お目出度う。
君が嫁ぐだなんて、何だか感慨深いよ。

デイビッドは筋金入りの朴念仁だから解り難いが、あれと一緒ならば幸せになれるよ、約束する。

信じてないね?まあ、そのうち分かるだろう。

良い機会だから話しておこうかな。

母上だけれど、
あの方は愛らしくお生まれになって、愛でられ愛され、只々可憐にお育ちになった方だ。
愛らしいだけで、腹に何かを含む事が出来ない。所詮、王妃の器ではないよ。

父上が多忙であられるのは、母上の政務も肩代わりなさっておられるからだ。

それでも、思惑まみれの王宮で側妃腹でお生まれになった父上には、心から安堵できる女子(おなご)だったのだろうね。

民にも、一見可憐で優しげな国母は人気がある。

考え足らずな人ではあるが、愛が無い訳ではないのだよ。お前の事も、あの方なりに愛していたさ。

疑ってるね? 

考え足らずな方だから、いつも一歩及ばなくて誰かが手を加えてしまう。だから分かり難いのだよ。

君が居なくなった後、一人残った五の姫を案じて、愛らしいドレスを幾つも造っていた。母上に似たあれには、とても良く似合っていたよ。

そうそう、あれが子爵家に嫁ぎたいなどと言い出した時も、後押しをしたのは母上だよ。真実の愛だとかなんとか仰っていた。

あれは母上への孝行のつもりで、あんなドレスを着ていたが、好みなどではなかったろうよ。
嫁入りの際に全部置いて行った。
金に替えて子爵家で使えば良いものを、妙な処で潔癖だね。

ああ、ドレスの事は許してやってくれ。
母上は、五の姫と年の近い君にも、きっと似合うと真から思っていたのだよ。


王女の宮の部屋がそのまま残されているのはね、王女たちの思い出を無くしたくなかったからだろうよ。まあ、深く考えてはおられないだろうけどね。


父上を知りたければ、君の夫を見ると良い。デイヴィッドは父上と良く似ている。

父上は朴念仁の王様だからね。言葉足らずが過ぎるけれど。

君を帝国に送ったのも、君には自由を与えたかったのだろう。折角、政略の旨味が薄く生まれたのだから。ああ、すまない、悪い意味ではないよ?

父上は、幼少の頃から政略の駒にされることに慣れていらっしゃった。父上なりの愛情だよ。

ああ、長期休み云々の文だけど、そのままの意味だよ。好きにしろ、楽しめと。
朴念仁だから直球だよね。あれを君に伝えるのは、流石に私も迷ったよ。

言葉足らずに考え足らず、丁度良い夫婦だよね。

ああ、私の婚約かい?
有難う、祝ってくれて嬉しいよ。

朴念仁と考え足らずの間に生まれた王子など、高が知れている。年上のしっかり者が妃になってくれるのなら丁度良いよ。

空いている姫の部屋を埋めねばならないから、妃には頑張ってもらわねばね。

君の婚礼と私の婚約。
祝い事が続いて民も喜んでいるだろう。

婚礼景気で沸いてくれると良い。
来年の税収が楽しみだよ。




    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...