ヴィオレットの夢

継承1

それからもヴィオレットは、度々公爵邸を訪った。

公爵家における夫人の業務は多岐に渡る。

夫人からそれらを少しずつ学んでゆく。

書類を伴うものもあれば、人と関わる事もある。

それぞれの夫の為に刺繍を刺す時には、ヴィオレットから帝国式の刺し方を教える事もあり、それは母娘の和やかな時間であった。

もし自分が貴族家の娘で、もしソフィア夫人が実の母であったなら、こんなふうに母と娘として、少女時代を過ごしていたのかもしれない。

ヴィオレットはそう思いながら、王宮の母の面影を思い起こす。

あの母であったから、兄姉弟(きょうだい)達に会えたのだ。案外、人生とは無駄なことなど無いのだなと思った。

そして、そんな夫人の業務とは別に、夫人のプライベートガーデンにも度々足を運んだ。

日々大きくなる腹を抱えながら、ゆっくり小道を歩く。

花々は盛りを終えると種を付ける。小さな実を実らせるものもあった。

それらを、風にまかせて漂わせたり、小鳥に啄ませて遠くへ運ばせたり、ポトリと地面に落としてそこから新たな芽吹きを見せたり、様々な方法で次の世代に命を継承していた。

それはとても不思議なことであった。
まるで様々な状況から生きる方法を選択する、人と同じ生き方のように感じた。

花の季節は短くて、生涯の殆どを葉を繁らせて結実する為の準備に費やす植物は、何と勤勉なことであろうとも思った。

夫人に聞くところには、世界には、人の顔程の大きな花を咲かせる植物があり、それは蕾の期間に一年ほども掛けるのだという。そうして地を這う大きな花を咲かせるのだそうだ。

まあ、そんな花があるのだと驚くヴィオレットの脳裏に、鮮やかな青い色の、急峻な山の岩陰に咲く小さな花が思い浮かんだ。
ヴィオレットを引き上げる、頼りになる腕の主が思い出された。