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晴天side T
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雲ひとつ無い抜けるような青空の、良く晴れた日だった。
マリアンネに絡め捕れて、ずるずると不実を正せぬまま爛れた関係に身を穢しても、心の内はクレア唯一人を欲している。
こんなにも青い空の元で、湖の様に澄んだ青い瞳のクレアを妻に、今から神に誓いを立てる。
病める時も健やかなる時も
富める時も貧しき時も
夫として愛し敬い慈しむ事を誓います。
この胸に誓おう。
唯君一人を妻として、生涯君だけを愛すると誓おう。
不実に乱れ汚れたこの身で君を望むことが罪と云うのなら、地獄の底まで来世まで、この罪を抱えて行こう。
だから神よ、どうかクレアと生きる事を赦し給え。
彼女を妻とし夫となって、いついかなる時にも愛し敬い慈しむ事を誓おう。
マリアンネとの関係は、なかなか清算する事が出来なかった。
万が一にもマリアンヌに孕まれて、それが原因でクレアとの婚約を破棄にでもされてしまってはと、そんな身の程知らずなことすら考えている有り様であった。
ここまで不実に不実を重ねて、穢れに穢れを重ねて、もうそれがクレアに対してなのかマリアンネに対してなのかの、自分でも分からなくなっていた。
「分かったわ。もう諦めるわ。」
婚姻式を翌月に控えたある日、マリアンネが言った。
もう十分貴方とは愛し合ったもの、と。
余りにも呆気ない幕切れだった。
婚礼衣装を纏った美しいクレアの横に並び立ち、神父に向かい先に誓いの言葉を述べる。
この誓いだけはこの身と魂を賭けてでも破る事はない。君を幸せにする未来を祈念しながら神に誓った。
次は貴女ですと目線で神父に促されて、クレアが口を開く。
その時、誰かがクレアの背後にいるのが見えた。
トンと背を押したように見えた。
まるで、クレアの背を誰かが肩越しに押した様に見えたのと同時に、クレアが崩れ落ちる。そのまま押し倒されて前に倒れる。
四方八方から一斉に悲鳴が聴こえ、騒然とする中、
「マリアンネ!」
刃を振り上げ、今にも振り下ろそうとするマリアンネの姿が目に飛び込んで、思わず名を叫んだ。
誰かがマリアンネに飛び掛かり、マリアンネはそれに藻掻き抵抗してか、揉みくちゃになっている。
クレアがうつ伏せに倒れて、赤い血溜まりの中に沈んでいく。
婚礼衣装が赤く染まっていく。
「クレア!クレア!起きてくれ!」
なんてことだ。
神に誓った。たった今誓ったんだ。
君を愛する、君を幸せにする、この世に君だけいてほしいんだ!
僅かな意識を残したクレアが、微かな笑みを浮かべた。
クレア、クレア、僕の声が聞こえるか?!
逝っては駄目だ、駄目なんだ!
僕を置いて逝かないでくれ!
澄んだ青い瞳が微かに曇る。
焦点の合わないまま何処かを見つめる瞳の青が僅かに大きくなって、それから光が翳ったと思うより先に瞳の奥深くへ引いていった。
クレアは神に誓うことなく儚くなった。
僕への愛を神に誓う事は無かった。
何事かに安堵したような安らかな微笑みを湛えて、この汚れた世界に僕を残して逝ってしまった。
マリアンネに絡め捕れて、ずるずると不実を正せぬまま爛れた関係に身を穢しても、心の内はクレア唯一人を欲している。
こんなにも青い空の元で、湖の様に澄んだ青い瞳のクレアを妻に、今から神に誓いを立てる。
病める時も健やかなる時も
富める時も貧しき時も
夫として愛し敬い慈しむ事を誓います。
この胸に誓おう。
唯君一人を妻として、生涯君だけを愛すると誓おう。
不実に乱れ汚れたこの身で君を望むことが罪と云うのなら、地獄の底まで来世まで、この罪を抱えて行こう。
だから神よ、どうかクレアと生きる事を赦し給え。
彼女を妻とし夫となって、いついかなる時にも愛し敬い慈しむ事を誓おう。
マリアンネとの関係は、なかなか清算する事が出来なかった。
万が一にもマリアンヌに孕まれて、それが原因でクレアとの婚約を破棄にでもされてしまってはと、そんな身の程知らずなことすら考えている有り様であった。
ここまで不実に不実を重ねて、穢れに穢れを重ねて、もうそれがクレアに対してなのかマリアンネに対してなのかの、自分でも分からなくなっていた。
「分かったわ。もう諦めるわ。」
婚姻式を翌月に控えたある日、マリアンネが言った。
もう十分貴方とは愛し合ったもの、と。
余りにも呆気ない幕切れだった。
婚礼衣装を纏った美しいクレアの横に並び立ち、神父に向かい先に誓いの言葉を述べる。
この誓いだけはこの身と魂を賭けてでも破る事はない。君を幸せにする未来を祈念しながら神に誓った。
次は貴女ですと目線で神父に促されて、クレアが口を開く。
その時、誰かがクレアの背後にいるのが見えた。
トンと背を押したように見えた。
まるで、クレアの背を誰かが肩越しに押した様に見えたのと同時に、クレアが崩れ落ちる。そのまま押し倒されて前に倒れる。
四方八方から一斉に悲鳴が聴こえ、騒然とする中、
「マリアンネ!」
刃を振り上げ、今にも振り下ろそうとするマリアンネの姿が目に飛び込んで、思わず名を叫んだ。
誰かがマリアンネに飛び掛かり、マリアンネはそれに藻掻き抵抗してか、揉みくちゃになっている。
クレアがうつ伏せに倒れて、赤い血溜まりの中に沈んでいく。
婚礼衣装が赤く染まっていく。
「クレア!クレア!起きてくれ!」
なんてことだ。
神に誓った。たった今誓ったんだ。
君を愛する、君を幸せにする、この世に君だけいてほしいんだ!
僅かな意識を残したクレアが、微かな笑みを浮かべた。
クレア、クレア、僕の声が聞こえるか?!
逝っては駄目だ、駄目なんだ!
僕を置いて逝かないでくれ!
澄んだ青い瞳が微かに曇る。
焦点の合わないまま何処かを見つめる瞳の青が僅かに大きくなって、それから光が翳ったと思うより先に瞳の奥深くへ引いていった。
クレアは神に誓うことなく儚くなった。
僕への愛を神に誓う事は無かった。
何事かに安堵したような安らかな微笑みを湛えて、この汚れた世界に僕を残して逝ってしまった。
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