お飾り王妃の日常

桃井すもも

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お飾り王妃の祝いの品

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 悩みに悩んだブリジットとロビン(ロビンは大して悩んでいない)であったが、結局、贈り物には馬を選んだ。

 クリストファーの誕生祝いの贈り物は、メリーの娘モリーである。

 実はメリーはバツイチだった。若気の至りで白馬に一目惚れして夫婦となったが、白馬の夫が他所の牝馬に色目を使ったのを許せずに離縁した。馬に戸籍はないけどそこは気持ち的に。

 つまり、ジェームズとの種族を超えた愛が成就していたなら、お互いバツイチ同士の再婚となるところであった。

 ジェームズの朴念仁っぷりから、コイツは浮気はおろか他所の女に色目など使えないだろうと思われる点が決め手となった。
 その婚姻も結局は、ブリジットの猛反対で実現することはなかったが。

 メリーは先の夫、白馬との間に女の子を儲けていた。
 父親譲りの白馬モリーは、美しい芦毛の牝馬に育った。目元がメリーによく似て可愛い。潤む黒い瞳が黒曜石を思わせる。気質もメリーそっくりに、律儀で愛情深い馬である。

 これはきっとクリストファーのお気に入りになること間違いなし。ブリジットとロビン(ロビンはそこまで思っていない)はそう思った。

 自信満々、祝の席でお披露目すると、案の定、クリストファーは大喜びであった。

「ブリジット姉様、ありがとうございます!」

 言うが早いかブリジットに抱きつくクリストファー。

「クリス、離れなさい」

 隣で狭量な狂王ロビンが言う。

「まあ、クリストファー殿下。喜んでくださるの?嬉しいわ」

 ぎゅぅぅ~とクリストファーを抱きしめるブリジット。

「クリス、離れろ」

 五月蠅い狭量男が騒ぐ。

「姉様ー」「クリストファー殿下ー」

 きゅぅぅ~と抱き締め合う二人に、誰かの堪忍袋の緒がぶちぶち切れる寸前に、

「ははは、クリス、ブリジットを離してやりなさい」

 危機を察知した先王が、災いの原因を解消した。グッジョブ先王。

「美しい馬をありがとうございます!姉様!」

 その馬はメリーの仔であるからして、ロビンからの贈り物であるのだが、五歳児にはそこまでわからぬらしい。
 コイツ確信犯だな、と疑う狭量男以外はそう思っていた。

「姉様にお礼がしたいです!」

 あれはロビンの馬だよ、お礼はロビンヘせねばならない。まあ五歳児だから仕方ない。

 そこでクリストファーは居住まいを正すと、徐ろにひざまずいた。

 それから恭しく頭を垂れた。
 息を呑む周囲をよそに、

「私はここに誓う。絶対の忠誠を以って生涯を仕え、命をかけて我が敬愛するブリジット王妃に従う」

 クリストファーはブリジットに、永遠の騎士の誓いを立てた。

 クリストファーは先日、近衛騎士の叙任式を参観していた。賢しい王子はそこで、一言一句違わずに誓いの作法を覚えたらしい。

 涙を浮かべる王太后(元王妃)とブリジット。嬉し涙に濡れる二人とも間違えている。
 クリストファー、誓う相手は国王だ。
 周囲の良識ある者たち全員そう思った。勿論、先王も。

 ブリジットは、クリストファーが捧げた生涯唯一人に立てる誓いを受け入れて、涙を拭き拭きクリストファーの前に立った。そこで超絶デキる部下をちらりと見やった。

 流石は超絶デキる部下。音も立てずにブリジットの背後に傅きなにやら掲げ持った。

 ブリジットの守り刀である。

 ブリジットはそれを受け取り、鞘のままクリストファーの右肩に当てた。そこから頭上まで持ち上げ反回転させた刀を左肩に当てた。
 アコレードの流儀に則りクリストファーの誓いを受け取ったブリジットは、面を上げたクリストファーに、自身の守り刀を手渡した。

「クリストファー殿下、貴方の誓いを受け取りましょう」

 もう誰もこの二人を止められなかった。
 王太后は嬉し涙に泣き濡れて使い物になりそうもないし、先王はコイツとうとう仕出かした的な目をしながら、やっぱり瞳が濡れていた。

 唯一人、狂王もとい国王陛下ロビンだけが「うんうん」と鷹揚に頷いていた。

 彼にしてみれば誓って当然。当たり前。
 この国の者であるなら、ブリジットに生涯仕えて当然のことであると思っている。

 こうしてクリストファー殿下は、僅か五歳にして、国王陛下を差し置き王妃に向かって騎士の誓いを立てた。そしてその言葉通り忠心をもって彼女に仕えた。

 先の章で、生涯兄に仕えたと記したけれど、あれは間違い。

 正確には「兄の妻」に仕えたのであった。筆者もそこまでは見抜けなかった。お許し願いたい。

 実はこの後も続きがあるのだが、それはまた後日。




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