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第二十二章
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「あのぉ、ナタリー?ハロルド様?」
ナタリーとハロルドを繋ぐ、ロザリンドには見えない恋の光線を断ち切らないように、慎重に二人に話しかけた。
「あ、ああ、失礼しました、ロザリンド様。それから、ナタリー様とお呼びしても?」
「え、ええ、勿論ですわ。そのぉ、ハロルド様とお呼びしても?」
ああ、初々しい!むずむずしちゃう。侍女も同じ気持ちらしく、ロザリンド同様身悶えしている。
「手短かに、短刀直入に申しますが、ナタリーには婚約者はおりませんの。それからナタリー、ハロルド様はフリーよ、フリー」
お見合いおばさん丸出しで、ロザリンドは二人に二人を売り込んだ。
侍女が「流石はお嬢様」と乗ってくれるので、少しばかり調子に乗った。
「遅れますよ、早く行きない、貴女たち。それからナタリーはこちらへ。ちょっとお話しましょうね」
そこへ母が現れ、遅刻するぞと追い立てられて、ロザリンドとハロルドは慌てて馬車に乗り込んだ。
ナタリーは、玄関ポーチまで見送ってくれて、馬車が小さくなるまでそこにいた。遠退くほどにナタリーもまた小さく見えて切なさを誘う。
ハロルドも、馬車の窓からナタリーを見つめていた。
「ハロルド様。キャスリン様のご助力をお頼みすることをお勧め致しますわ」
同じ家で、兄と姉、妹と弟、二組の縁談を結ぶのは、家のことを思えば旨味がない。
だが、どちらの家もそれなりに財を有して権力もそこそこあるなら、後は当人たちの心意気次第だろう。
「ロザリンド様、私を今宵のパートナーに選んで下さってありがとうございます。お陰で私は、め、め、」
「め?」
「め、め、女神に会えた」
初々しい、眩しい。
ジェームズやロザリンドといった、既にスレてしまって初々しさを宇宙の果てに忘れてしまった身としては、若い二人が見つめ合うのは灯台の明かりを真正面から受け止めるくらいには眩しかった。
ロザリンドは一刻も早くオーフォード侯爵家へ乗り込みたかった。兄とキャスリンとは現地集合の予定であったから、早く彼らと合流して、恋の予感についての報告をしたかった。
ロザリンドの頭の中には、すっかりオーフォード侯爵家本体のことが抜け落ちていた。侯爵邸に足を踏み入れるなら、ジェームズが待っている。
対ジェームズ戦略を練る前に、ナタリー&ハロルドのカップリングで頭の中はいっぱいだった。
「お兄様!」
レディにあるまじき早足で、兄とキャスリンの下に歩み寄る。
ハロルドのパートナーとしてひっ付いてきたロザリンドは、公爵家の家名は勿論出していない。
受付を難なくスルーして、兄たちを見つけた。
「キャスリン様、今晩は。月の美しい夜ですわね」
「残念ながら今宵は新月よ。また適当なことを言ったわね、ロザリンド」
キャスリンとは阿吽の呼吸で会話が成り立つから、ロザリンドはキャスリンと会話するのが楽しい。
「ハロルド様。貴方からお話しなさる?」
当事者を差し置くわけにはいかないから、本人から語ってもらうことにした。
ほら。
折角、場を取り持ったのに、ハロルドはあのぅそのぅとはっきりしない。流石は初々しい若人筆頭である。
仕方あるまいと、ロザリンドは一歩前に出て、事の次第を説明することにした。
「お兄様、キャスリン様、お聞きになって。ハロルド様ってナタリーが好きなんですって」
「ろ、ロザリンド様、そうはっきり言われると⋯⋯」
「ナタリーも同じだったわ。馬車が小さくなるまで見送っていたのよ、お兄様。健気だわ、うう~(涙)」
主催者への挨拶そっちのけで、初々しいカップルの話題に突入していたロザリンドは、背後への警戒が甘くなっていた。
「ロザリンド?」
振り向かなくてもわかってしまう、その声音。
「ロザリンド、やっぱりロザリンドだろう?どうしてここにいるんだ?誰に呼ばれたんだ?それより、誰と一緒に?」
誰に呼ばれたって、お前んちだとは言えないから、ロザリンドは早々に見つかってしまった己の愚かしさを猛省した。
「ごきげ、わっぷ、まぶしい!」
正装したジェームズがあまりに見目良く、ロザリンドは、ご機嫌ようのひと言も言えずに、眩しいものを遮るように片手を顔に翳した。
「ん?君はあの時の一年生。真逆、君がロザリンドを?」
「ご招待頂きありがとうございます、オーフォード侯爵ご令息。私はグラスゴー伯爵が嫡男ハロルドと申します」
行き成りロザリンドを問い質すジェームズと違って、ハロルドはきっちり定型文の挨拶をした。ナタリーに胸を打たれても、理性の欠片を失わなかった。
ハロルドに引き続き、兄もキャスリンも挨拶をして、ジェームズは初っ端から空け者を発動した。
こんなんで大丈夫なのだろうか。
「ジェームズ様、しっかりなさいませ。大人の貴方をお見せするんでしょう?お会いしたい御方がいらっしゃるのでしょう?こんなところで油を売ってどうなさるの。さあ!行った行った。早く探してらっしゃい」
ロザリンドは、ジェームズとどっこいどっこいの鈍感さんだ。
その場にいた兄もキャスリンも、事情を知らないハロルドでさえも、ジェームズが探している人物がロザリンドであることに気づいている。
だがしかし、ジェームズはロザリンド以上に鈍感な上、空け者でもあるから、ロザリンド(公爵令嬢)=ロザリンド(伯爵令嬢)であることに全く気がついていない。
コイツら毎日こんな調子なのか?
事情を知る兄でさえ、二人の会話に呆れ果てた。
ナタリーとハロルドを繋ぐ、ロザリンドには見えない恋の光線を断ち切らないように、慎重に二人に話しかけた。
「あ、ああ、失礼しました、ロザリンド様。それから、ナタリー様とお呼びしても?」
「え、ええ、勿論ですわ。そのぉ、ハロルド様とお呼びしても?」
ああ、初々しい!むずむずしちゃう。侍女も同じ気持ちらしく、ロザリンド同様身悶えしている。
「手短かに、短刀直入に申しますが、ナタリーには婚約者はおりませんの。それからナタリー、ハロルド様はフリーよ、フリー」
お見合いおばさん丸出しで、ロザリンドは二人に二人を売り込んだ。
侍女が「流石はお嬢様」と乗ってくれるので、少しばかり調子に乗った。
「遅れますよ、早く行きない、貴女たち。それからナタリーはこちらへ。ちょっとお話しましょうね」
そこへ母が現れ、遅刻するぞと追い立てられて、ロザリンドとハロルドは慌てて馬車に乗り込んだ。
ナタリーは、玄関ポーチまで見送ってくれて、馬車が小さくなるまでそこにいた。遠退くほどにナタリーもまた小さく見えて切なさを誘う。
ハロルドも、馬車の窓からナタリーを見つめていた。
「ハロルド様。キャスリン様のご助力をお頼みすることをお勧め致しますわ」
同じ家で、兄と姉、妹と弟、二組の縁談を結ぶのは、家のことを思えば旨味がない。
だが、どちらの家もそれなりに財を有して権力もそこそこあるなら、後は当人たちの心意気次第だろう。
「ロザリンド様、私を今宵のパートナーに選んで下さってありがとうございます。お陰で私は、め、め、」
「め?」
「め、め、女神に会えた」
初々しい、眩しい。
ジェームズやロザリンドといった、既にスレてしまって初々しさを宇宙の果てに忘れてしまった身としては、若い二人が見つめ合うのは灯台の明かりを真正面から受け止めるくらいには眩しかった。
ロザリンドは一刻も早くオーフォード侯爵家へ乗り込みたかった。兄とキャスリンとは現地集合の予定であったから、早く彼らと合流して、恋の予感についての報告をしたかった。
ロザリンドの頭の中には、すっかりオーフォード侯爵家本体のことが抜け落ちていた。侯爵邸に足を踏み入れるなら、ジェームズが待っている。
対ジェームズ戦略を練る前に、ナタリー&ハロルドのカップリングで頭の中はいっぱいだった。
「お兄様!」
レディにあるまじき早足で、兄とキャスリンの下に歩み寄る。
ハロルドのパートナーとしてひっ付いてきたロザリンドは、公爵家の家名は勿論出していない。
受付を難なくスルーして、兄たちを見つけた。
「キャスリン様、今晩は。月の美しい夜ですわね」
「残念ながら今宵は新月よ。また適当なことを言ったわね、ロザリンド」
キャスリンとは阿吽の呼吸で会話が成り立つから、ロザリンドはキャスリンと会話するのが楽しい。
「ハロルド様。貴方からお話しなさる?」
当事者を差し置くわけにはいかないから、本人から語ってもらうことにした。
ほら。
折角、場を取り持ったのに、ハロルドはあのぅそのぅとはっきりしない。流石は初々しい若人筆頭である。
仕方あるまいと、ロザリンドは一歩前に出て、事の次第を説明することにした。
「お兄様、キャスリン様、お聞きになって。ハロルド様ってナタリーが好きなんですって」
「ろ、ロザリンド様、そうはっきり言われると⋯⋯」
「ナタリーも同じだったわ。馬車が小さくなるまで見送っていたのよ、お兄様。健気だわ、うう~(涙)」
主催者への挨拶そっちのけで、初々しいカップルの話題に突入していたロザリンドは、背後への警戒が甘くなっていた。
「ロザリンド?」
振り向かなくてもわかってしまう、その声音。
「ロザリンド、やっぱりロザリンドだろう?どうしてここにいるんだ?誰に呼ばれたんだ?それより、誰と一緒に?」
誰に呼ばれたって、お前んちだとは言えないから、ロザリンドは早々に見つかってしまった己の愚かしさを猛省した。
「ごきげ、わっぷ、まぶしい!」
正装したジェームズがあまりに見目良く、ロザリンドは、ご機嫌ようのひと言も言えずに、眩しいものを遮るように片手を顔に翳した。
「ん?君はあの時の一年生。真逆、君がロザリンドを?」
「ご招待頂きありがとうございます、オーフォード侯爵ご令息。私はグラスゴー伯爵が嫡男ハロルドと申します」
行き成りロザリンドを問い質すジェームズと違って、ハロルドはきっちり定型文の挨拶をした。ナタリーに胸を打たれても、理性の欠片を失わなかった。
ハロルドに引き続き、兄もキャスリンも挨拶をして、ジェームズは初っ端から空け者を発動した。
こんなんで大丈夫なのだろうか。
「ジェームズ様、しっかりなさいませ。大人の貴方をお見せするんでしょう?お会いしたい御方がいらっしゃるのでしょう?こんなところで油を売ってどうなさるの。さあ!行った行った。早く探してらっしゃい」
ロザリンドは、ジェームズとどっこいどっこいの鈍感さんだ。
その場にいた兄もキャスリンも、事情を知らないハロルドでさえも、ジェームズが探している人物がロザリンドであることに気づいている。
だがしかし、ジェームズはロザリンド以上に鈍感な上、空け者でもあるから、ロザリンド(公爵令嬢)=ロザリンド(伯爵令嬢)であることに全く気がついていない。
コイツら毎日こんな調子なのか?
事情を知る兄でさえ、二人の会話に呆れ果てた。
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