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第3章
untied
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馬車が止まったのは一軒の木造ハウスの前だった。
「untied」という看板がかかっている。
「さあ、着いたよ。」
彼に手を引かれて、ナタリーも馬車を降りた。
カランカラン。
ドアを開けると中は薄暗く、ラテン調の音楽がかかっていた。
二人が入ったとたん、客たちはおしゃべりをやめてこちらを見る。
「アル!その嬢ちゃんはどうしたのかい?」
駆け寄ってきたのはおばさん、いや、声はおじさんー要するにオネエであった。
驚いたナタリーはドアの後ろに隠れる。
「怖そうだけどいい人だから大丈夫だよ。」
ささやかれて、彼女は少し顔をのぞかせた。
「この子傷だらけじゃないの!早く消毒しないと熱を出しちゃうわよ。見てあげるから、おいで!」
彼が頷くのを確認すると、ナタリーは店の裏に入っていった。
「ほら、飲むのよ。」
彼女は差し出されたミルクを一口飲んだ。
ぬくもりが全身に伝わる。
「私のことはリザと呼んでちょうだい。」
リザは話ながらテキパキと傷の手当てをしていく。
その手が足にふれると、ナタリーは痛みに顔をしかめた。
どうやら足首を捻っていたらしい。
「簡単な手当ては済ませたから、あとは医者に診てもらいなさい。何があったのかは知らないけど、自分を傷つけるのは良くないわよ。」
そうして隣の棚から段ボールをおろした。
「あなたに合うサイズのドレスと靴はあるかしら。」
ピンク、水色、黄色。
様々なドレスを引っ張り出しては箱に戻していく。
「あっ」
ナタリーは声をあげた。
今リザが手に持っていたのは赤いシルクのドレスだった。
「それ…」
「あら、これが気に入ったの?」
ナタリーはこくんと頷いた。
「奇遇ね。これは確か20年前に今のハーギストン公爵が連れてきた女の子のものよ。あなたくらいの年だったかしら。大きさもちょうどよさそうだし、着てみたら?」
すとんとしたシルエットのそれはまるであつらえたかのようにぴったりだった。
かすかに古めかしい香りがあたりに広がる。
それは確かに、シンディと同じ香水の香りだった。
「あの、そのお話聞きたいです。」
やっと口をきいたナタリーに、リザは嬉しそうに微笑んだ。
「そうね、あちらで何か飲みながらにするといいわ。アルも聞きたいだろうしね。」
リザはナタリーの髪を結っていたところだった。
完成した姿をみてまぁと驚く。
汚れを落とし、血色の良くなった彼女はいかにも美少女であった。
「終わったわよ。アルに見せたらきっと喜ぶわね。」
「untied」という看板がかかっている。
「さあ、着いたよ。」
彼に手を引かれて、ナタリーも馬車を降りた。
カランカラン。
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「ほら、飲むのよ。」
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その手が足にふれると、ナタリーは痛みに顔をしかめた。
どうやら足首を捻っていたらしい。
「簡単な手当ては済ませたから、あとは医者に診てもらいなさい。何があったのかは知らないけど、自分を傷つけるのは良くないわよ。」
そうして隣の棚から段ボールをおろした。
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ピンク、水色、黄色。
様々なドレスを引っ張り出しては箱に戻していく。
「あっ」
ナタリーは声をあげた。
今リザが手に持っていたのは赤いシルクのドレスだった。
「それ…」
「あら、これが気に入ったの?」
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リザはナタリーの髪を結っていたところだった。
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