治験から始まるクリクリ! ~世界初の完全ダイブで絶対に生き残ってやると決意した~

ねっとり

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第0話:「プロローグ」

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(なんだよこれ……)

 康介がゴブリンに刺された腹を抑えながらうずくまっている。

(いてぇ……声も……でねぇ……)

 血が流れ出る感覚が康介を襲ってきた。
 抑えていた片手を見ると、血がべっとりと付いている。

「康介くん!!い、今手当てします!!」

 黒髪ストレートヘアの女の子が呪文を詠唱している。初級回復魔法のヒールだ。
 だが咄嗟に前に出たため、ゴブリンがその女の子を襲おうとナイフを構えてた。

「玲奈!!勝手に出るんじゃねぇぜ!」

 茶髪の短い髪をした男の子が、玲奈を襲おうとしたゴブリンを攻撃する。
 踏み込みが甘かったのか、傷が浅い。

「大輝、下がって!ファイアーボール!!」

 髪を短く刈っているボーイッシュな女の子の初級攻撃魔法がゴブリンにヒットした。
 ゴブリンがうめき声をあげながら空中へと霧散していく。

「ヒール!」

 玲奈の杖から魔法が出てくると康介を淡い緑色が包み込み、傷が塞がっていった。
 先程の痛みも嘘のように綺麗に治っている。

「あ、みなさんありがとうございます。なんかすみません…」

「いいってことだぜ!」

「康介さんが無事でよかった……」

「うちも魔法打てたし楽しかったよ!」

 全員が笑顔で康介を見つめている。
 彼らはこの空間がVRMMORPG【クリミネイト・クリスタル(通称クリクリ)】の世界だと思っている。
 完全ダイブ型VR空間……世界最先端の技術を持って作られているゲーム。
 しかし、康介だけは今回の痛みで違うように思えた。
 もしかしたら……この世界は現実と連動しているのではないかと……。




 ◇




 西暦2141年。
 VR技術は進化し続けており、特殊なスーツを身に着けることによってVR空間へのダイブが可能となっていた。
 FPSやMMOなどのゲーム開発も進んでおり、臨場感あふれる空間を楽しむことが出来ることが最大の売りだ。
 その特殊スーツも値段が安く落ち着き、誰でも手に入るためにゲーム人口が爆発的に増大していた。
 隣にいない人と、その場で喋っているようなボイスチャットも人気の一つだ。


 そして特殊スーツは2種類ある。
 家の中で楽しむためのVRヘッドセット。
 こちらは視界だけをVR空間へと飛ばすため、どうしてもコントローラーでの操作が必要となる。


 もう一つは全身スーツ。
 大人数でその場を楽しむために、VRドームやビル1棟を貸し切り実際に体を動かしながらVR空間を楽しむものだ。
 巨大な空間をゲームのために貸し出す企業も増えており、20人以上いれば非常に安価な値段で1日中貸りることもできるので、大人から子供までどんどんハマっていった。


 この世界はVR空間なしでは語れないほど、空前絶後のブームとなっている。


 そして石崎康介いしざきこうすけもそのVR空間に魅了された一人である。
 彼はMMORPGが大好きであり、VR空間にもどっぷりと浸かっていた。
 一度ハマると、攻城戦・対人戦などでも上位ランカーに入る程やりこみ続け、誰もが知っている有名人になるまで駆け上がる。
 しかし一度でも飽きるとすぐに次のゲームに移り、またそのゲームで上位ランカーを目指し続ける日々を過ごしていた。


 その彼……康介は14の時に両親を亡くしていた。
 事故だった。たまたま康介が留守番しており、両親が運転する車ごとダンプに跳ねられた。
 親戚もいなかった康介は一人になった。
 その日から康介はすべてが嫌になり、4年もの間、家から出ることなくVR空間へと身を投げ続けている。

 両親が亡くなったことにより、莫大な遺産が手に入った。
 家から出なくても、ネットさえあれば何でも手に入れることが出来る。
 康介は家から出ることがなく生活をし続けていた。


 元々友人も少なかった。
 むしろ人間関係を構築するのは苦手で、近所の人の顔すら覚えてない。
 ゲームの中の、本当の顔も名前も知らない相手とくだらない話をするのが楽しかった。
 だからVR空間にハマっていったのだ。


 その日も康介は起床すると、いつも通りパソコンのスイッチを入れた。
 起きてから電源を付け、トイレをすまし、簡易的な食事と飲み物を冷蔵庫から取り出して自分の部屋へと戻る。
 毎日のルーチンワークだ。

(最近このゲームにも飽きてきたなぁ。何かまた別のゲームでも探そうかな……)

 いつもの癖だ。
 ゲームに飽きるといつもVRゲーム板に籠って面白そうなのがないか探し始める。
 古参のゲームはほとんどやりつくしており、新規参入してきたゲームを漁ろうと書き込みを眺めていると、気になる文字列を見つけた。



 ====================

 治験バイト募集って書いてあるけど、どう見てもゲームのテスターを募集してるぞ
 ↓
 http://○○○○.com//tester

 ====================


(なんだよこれ。ゲームのテスターでお金貰えるとか面白そうじゃん)


 治験のことは聞いたことがある。
 ある程度の自由がなくなる代わりに、期間の満期を迎えればお金が手に入る。
 康介は興味本位でそのURLをクリックした。
 するとそのゲーム会社の治験募集ページへと飛び、募集要項などが並んでいた。

(えっと……なになに?)

 記載されている内容はこうだ。

 ◇

 当社『クリエイティブクリムゾン(通称クリクリ)』では新医療薬の治験を募集しております。

 募集対象者は
 ・18歳以上の健康な体を持っていること
 ・1年以上の継続した実験に参加が可能なこと
 上記2点がクリアできる方は全て対象となります。
 特殊スーツを装着する必要はありません。
 応募上限は100名までといたします。100名以上の希望があった場合、厳選なる抽選を行い当選者へと連絡いたします。
 締め切り ○月○日 18時まで。

 実験内容は下記となります。
 ・世界初の完全ダイブ型VRMMORPGへの参加。
 ・一定期間VR空間で過ごした後、現実へ戻り身体チェック。
 ・問題がなければまたVR空間で経過の観察。
 ・基本的にベットから動くことがないため、必要に応じてストレッチなどを行う。


 ◇

(面白そうじゃん……)

 治験バイトなどしたことがない。
 だがそれ以上に『完全ダイブ型VRMMORPG』と言う魅力的なワードに惹かれている。
 そして募集期限が本日の18時まで。現時間は16時なのであと2時間しかない。
 康介はさっそく応募ページにアクセスし、必要事項を記入して送信した。


 先程の書き込みの主にお礼を言おうともう一度掲示板を覗くと、そこには非難が集中していた。

『ありえない。金額も書いてないし期間長すぎる』

『さすがに怪しすぎるだろwww』

『これは治験ではなく人体実験だろ。間違いない』

(はん。情弱共め!完全ダイブ型だぞ?すべてがVR空間に行けるんだぞ?)

 強烈なわくわく感が康介を支配している。
 特殊スーツがいらないのであれば、実際に体を動かすことはないだろう。
 小説や漫画などでしか見たことがない、その場を動かなくてもVR空間で全身を動かして遊ぶことが出来るのだ。
 間違いなく、ゲームの最先端を行く技術だろう。
 体験しないわけにはいかなかった。


 その後康介は適当にゲームをしながら過ごし、また眠りに着くのであった。



 ◇



 ゲーム応募をして3日後。
 康介のスマホに一通のメールが届いた。
 寝ぼけ眼でそのメールを開くと、康介は飛び起きた。


 ====================
 from:クリクリ

 石崎康介さん

 弊社の治験に応募していただき誠にありがとうございます。
 厳正なる抽選の結果、当選が確定いたしました。
 つきましては○月○日に下記集合場所までお越しくださいませ。

 ~略~

 ====================

 応募していたことを忘れかけていたが、そのメールを見た瞬間に眠気が吹き飛んだ。
 当選していた。
 治験バイトではあるが、実態はVRMMORPGのゲームテスターだ。
 わくわくしないわけがない。


 早速あの掲示板を見てみると、康介と同じ様にメールが届いている人間がいた。
 誰も場所のことを書いてはいなかったが、誰もが全身投射型VRMMORPGに興味津々で楽しみにしているのがわかる。
 康介も『俺も参加するからよろしく!』と書き込みをしてもう一度メールを確認すると、一つ問題が起きていることに気付いた。


『つきましては○月○日に下記集合場所までお越しくださいませ。』

 そう、家から出なければならないのだ。
 ここ数年家から出ていない。声はボイチャをしているので顔さえ見なければ喋れるだろう。
 だが、人と面と向かって話せるのか疑問がわいてくる。

(あー、どうしようかな。せっかくだから行きたいけどなぁ)

 困った。困り果てていた。
 だが『完全ダイブ型VRMMORPG』という魅力的なワードには勝てない。
 康介は意を決したように家の服を漁り、当日のことに想いを馳せることにした。



 ◇



 集合当日。

 少し時間より早く到着した康介は集合場所より少し遠目から眺めていた。
 他の参加者が同じ集合場所であれば、何人か固まる可能性が高い。
 そこに何食わぬ顔で参加し、空気になろうと決めていた。


 20人程であろうか。集合時間が近付くにつれ、続々と人が集まってくる。
 中には顔見知りもいるようで、話が弾んでいるようだ。
 康介も時間1分前にその場所へと赴き、他の参加者に紛れることに成功した。


 時間ぴったりに大型バスが到着した。
 中から白い白衣を着た男が出てくると、その場にいた人を見まわし口を開いた。

「クリクリへの参加者はこちらのバスへお乗りください。その際にメールを拝見させていただきます」

 治験参加者がメール画面を開いて白衣の男に見せるとバスに乗り込んでいく。
 康介もそれに倣いメール画面を見せると、バスの中へと入っていった。
 バスは広かった。
 ひと席ひと席がゆったりとしたソファになっており、少しふっくらしている人間でも狭くない。

 康介は普通体系より少し細いぐらいなので快適に過ごせるだろう。
 さらに飲み物が保存されているらしく、飲みたい場合は注文をすればいいらしい。
 席順は予め決められていた為、康介が乗り込むときに席番号の書かれた紙を渡された。

(俺の席は……っと、ここか)

 康介の席には先客がいた。
 正確には康介と相席になる相手がすでに座っていたのだ。
 黒髪でストレート、ほっそりとした輪郭と美しい顔つきが印象的な美人だ。
 眼鏡をかけているのがもったいないぐらいである。

「あ……すみません、隣ひちゅれいします」

 実際の人に話しかけるなど何年ぶりだろう。
 いつも荷物すら玄関の預かりBOXで受け取りをしていたため、会話した記憶が遠い。
 そして美人が隣にいるのはラッキーだが、粗相があってはいけないと口を開いたのが失敗だった。
 噛んだのだ。ひちゅれいしますとか聞いたことがない。


 しかし黒髪眼鏡は康介を見るとにっこりと頷いただけだった。
 突っ込まれなかったのも中々恥ずかしいものである。
 その後は特に話をするわけでもなく、バスが動き出すまで待っていた。



「それではみなさん、クリクリへようこそ。これからこのバスは治験場へと出発いたします。少し長旅になりますが、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 白衣の男が丁寧に挨拶するとバスが動き出した。
 バスの窓側は黒髪眼鏡が座っているので外の様子を見ることはできない。
 少しきょろきょろしていたが、康介は諦めて寝ることにした。


 ◇


「あの、すみません……。着きました……よ?」

 透き通るような心地のいい声で康介は起きた。
 どうやらバスの揺れや座り心地のいい椅子のおかげで爆睡してしまったようだ。
 黒髪眼鏡が少し恥ずかしそうにしながら康介を見ている。

「あの……。よだれ……出てます……」

 慌てて口をぬぐう康介。
 確かに少し口から洩れていたのだろう。袖が濡れてしまった。
 そんな姿を見て黒髪眼鏡が笑っている。

「ふふっ……。あ、ごめんなさい……。あの、皆さん出てますので行きませんか?」

 周りを見回すと全員外に出ているらしかった。
 入り口から白衣の声で「まだですかー?」なんて聞こえてくる。

「あっ……。ごめんなひゃい」

 康介がまた噛んだ。やはり実際の人と話すのに慣れていないのか。
 ゲームの世界に入ればいつもの口調に戻せると信じてバスから降りる。
 そこはどこかの山の中をイメージさせる場所だった。



 周りを見回しても見えるのは大きな木ばかりであり、日本にこんな場所があったのかと驚く。
 その木々の中に真っ白で巨大な3階建てのマンションが建っていた。
 入り口の近くには男女が集まっている。
 その集団の前に、白衣を着た男が立っていた。

「初めましてみなさん。私の名前は『若林 幸久わかばやし ゆきひさ』と申します。今回は当社クリクリの治験にご協力いただき誠にありがとうございます」

 丁寧なお辞儀をしている若林。
 その声はよく通り、聞くものに心地よさを与えている。

「これから皆さんには、この中で毎日を過ごしていただきます。
 まずは個室のキーをお渡しいたしますので、身分証を提示してください。
 あと携帯電話・スマートフォンは治験の影響がありますので、電源を切ってからお預かりいたします。
 もし今ご連絡したい方がいらっしゃれば先にご連絡してください」

 周りの男女がざわざわしているが、特に誰かに連絡するものはいない。
 たっぷり時間がたった後、若林が口を開いた。

「はい、ありがとうございます。それではみなさんにキーをお渡ししますので、部屋で着替えが終わりましたらリビングへとお集まりください」

 若林の指示のもと、全員がその建物へと入っていった。



 ◇



「うおー!綺麗だなぁ」

 康介が案内された部屋は、建物の3F。
 部屋に入って最初に感じた事を、思わず口に出してしまったのだ。
 その部屋は全体が白で統一されており、完全個室である。
 柔らかく寝心地がよさそうなベットに、ふかふかのソファも設置されていた。
 そのソファの前にはテーブルもあり、その上に白い服が綺麗に畳んでおいてある。


 ベットの上には頭にかぶれそうな装置が置いてある。
 部屋の壁から色々なチューブが繋がっており、これで完全ダイブをするのだろう。
 さらにベットの壁には何個かのフックも装着されており、入院した時のベットを彷彿させてくる。


 部屋は空調が完備されているのか過ごしやすい。
 だが部屋の窓は閉められており、外の様子を伺うことが出来なかった。
 この部屋で1年を過ごす予定だが、住み心地はよさそうだ。


 スマートフォンは取り上げられてしまったので、時間つぶしをどうするか考えた。
 しかしよく考えれば完全ダイブがあるので、ゲーム好きとしては問題ない。
 むしろ早くゲームがしたくてうずうずしているぐらいだ。


 入るときに部屋にある服に着替えてリビングへ集合するように言われたことを思い出し着替え始める。
 どこで服のサイズを調べたのかわからなかったが、康介にぴったりであった。
 着替え終わったら次にリビングへ向かわなければならない。

(確か地図も貰ったよな……)

 着てきた服の胸ポケットから建物の地図を取り出す。
 自分がいる部屋からまっすぐに歩いて階段を降りるとすぐにリビングがあるらしい。
 着替えが終わった後、部屋に鍵をかけてリビングへと向かっていった。



 ◇



 康介が到着すると、ちょうど全員が集まってきたところであった。
 全員が同じ色同じ服を着ている姿は少し面白い。
 康介が自然とニヤけながら席に座ると、バスで隣になった黒髪眼鏡と目が合ってしまった。
 苦笑いになりながら軽い会釈をすると、黒髪眼鏡は笑顔で会釈を返してくる。

(可愛い……)そんなことを康介が思っていると、入り口から若林が入ってきた。

「みなさんお集まり頂きましたね。それではこの後のご説明をいたします」

 若林が手を打つと、黒服の男たちが注射器を人数分もって部屋に入ってきた。
 その注射器が若林の前に置かれると、若林の後ろの壁が光り始め資料が投影された。

「それではご説明しますが、端的に短くお話いたします。質問は後でまとめて聞きますので、一度全部聞いていてください」

 若林がスライドを動かしながらどんどん説明していく。
 途中難しい医療単語や物理方程式などが出てきたが康介には理解できなかった。

 康介が理解した話としては

 ①これからナノマシンを体内に注入する。
 完全ダイブ型のVRゲームでの動きや喋りなどが実際の体で起きないように、VRへダイブしている間に脳からの信号をナノマシンが回収するため。
 他にもゲーム内で食事や水分補給をした際に、ナノマシンが実際の体でも接種したようにしてくれる。
 それでも足りない場合があるため、基本的には点滴などでも栄養を摂取するので死亡する心配はない。
 今回の治験ではこのナノマシンの動きを観察し、万が一不具合などが出ても対処できるので安全だと言うことだ。

 ②完全ダイブについて
 ベットに置いてあるヘッドマシンを装着すると強制的にVR空間へとダイブすることになる。
 現実世界に戻る場合は、ゲーム内のセーブポイントでログアウトすれば一時的に現実へと戻ることが可能だ。
 しかし最初の3か月は現実世界に戻ることが可能だが、そこから先は自分の意志では戻れないように規制が入るらしい。
 VR空間で長期間ダイブしていた時の経過を観察するためである。
 万が一何かあった場合は強制終了させるため、安心して潜ってもいいとのことだ。

 ③報酬について
 最大600万。毎月50万の計算だ。
 完全ダイブしている間になんらかの理由で死亡すると、その時点での経過月数に応じての支払いである。
 死亡者はそのまま建物より退去されるため、今後会うことはなくなるらしい。

 ④特別ボーナスについて
 ゲームの名前は【クリミネイト・クリスタル(通称クリクリ)】。
 このゲームでは数多くのダンジョンと天空の塔が存在している。
 天空の塔最上階の古龍を討伐した場合はさらに500万の特別ボーナスが手に入る。
 治験期間を1年以上としたのは、この特別ボーナスを受け取るために延長が可能となっているためだ。

 一通りの説明が終わると、若林から質問タイムが始まった。

 何人かが手を上げると質問をしていく。

 Q 本当に安全なのか。
 A これまでも何度か開催しているので安心してください。

 Q トイレなどはどうするのか。
 A ナノマシンにより分解・吸収されるので必要ありません。

 Q ダイブしている間が心配。
 A 監視カメラと警備の人間が常に待機しているので安全です。

 Q 募集人数に反してここにいる人の数が少ないのだが。
 A 関東や関西支部などでも同時開催となっています。

 何度か質問が繰り返し投げられているが、若林は全て丁寧に答えている。
 その質問もなくなると、若林が周りを見回してまた口を開いた。

「最初のうちはこちらで情報交換や食事などをお楽しみください。それでは名前を呼ばれた方から順番にナノマシンを注入いたします」

 ひさびさの注射に康介は少し顔を曇らせていた。



 ◇



 無事に注射も終え、康介は部屋へと戻ってきた。
 説明からも、部屋に帰って装置を装着すればゲームへとダイブできるらしい。
 装着方法は先ほども習ったので、あとはベットに寝るだけになっていた。


 最初の注意事項はこまめに現実へと戻ること。
 モニターで監視はするが、何日も戻ってこない場合は部屋に入り強制的に点滴を始めるそうだ。
 康介もしっかりと現実へと戻ることを決意し、さっそく装置を頭からかぶった。

 これもどうやって調べたのかはわからないが、康介の頭と顔をすっぽりと覆える大きさだ。
 付け心地は悪くない。
 ベットに横になっても寝苦しさや邪魔になるような感覚もなかった。


 装置の右横にある電源をONにすると、目の前に文字が浮かんでくる。

『Now Loading』……ゲームでもよく見る文字だ。

 浮かんでいた文字が消えると、康介の意識が肉体から切り離された。
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