サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

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第5章 光の中の裸体 ①

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 約束の日の朝、軽い胃痛で早めに目覚める。窓から差し込む朝日が眩しく、空は抜けるような青さで猛暑を予感させる。

 リュックには畳んだライトブルーのサマードレスが収まっている。鏡の前で最終チェックすると、顔色が優れない。昨夜はほとんど眠れず、今日カナの前で脱ぐという考えだけで頭がぐるぐると回転する。

 外に出ると強い日差しが肌を刺し、半袖シャツでも汗が滲む。工学寮前の木々が風に揺れ、日に日に大きくなっていく蝉の鳴き声が耳に響く。

「マリ、マジで行くの?」

 リョウは俺を心配して、不安そうな表情を浮かべている。俺は昨日、ようやく彼に脱ぐことを伝えたのだ。最初は冗談だと思ったらしく、真顔で「本気か?」と何度も確認してきた。

「行くよ。約束したから」

 リョウは頭を掻きながら、ため息をこぼす。彼の表情には「止めても無駄だ」という諦めが刻まれている。

「お前、本当にカナのことが好きなんだな。何でもするじゃん」

 その言葉に足が止まる。好き?そんな風に考えたことはない。単に自分の映画に出てもらいたいだけだ……。たぶん。

「好きって……映画に出てほしいだけだよ」

 言い訳めいた言葉が口から零れる。リョウは鼻で笑う。彼の目は俺の嘘を見抜いていた。

「自分に嘘つくなよ」

 その言葉が胸を抉る。俺はカナのことをどう思っているんだろう?単なる役者として見ているのか、それとも……。喉の奥が乾く。

「行ってくる」

 それ以上の会話を避けるように、部屋を出る。朝の空気が肌に心地よい。でも、それも束の間だろう。これから待っているのは、もっと熱く、息苦しい時間だ。

 バス停に向かいながら、カナとの出会いを思い返す。最初は斜め前の住人。美しい姿を窓から眺め、興味を抱いた。工学寮でたまに会話をするだけの関係から、主演俳優として声をかけるまでに発展。

 彼の写真を撮る姿、そして彼の作品の視点にまで惹かれていった。繊細でありながら大胆な感性。彼の存在そのものが俺の映画に必要不可欠だと確信していた。

 約束の場所は、カナの写真サークルが時々利用している海辺の小さなスタジオ。バスに揺られること40分、窓外の景色が徐々に変化し、都会の喧騒から遠ざかる。

 木々が増え、空がより広大になる。カーブを曲がると突然、青い海が視界いっぱいに広がった。潮の香りが窓から漏れ、塩気を含んだ風が頬を撫でる。

 どんな風に脱げばいいのだろう。全部見せるのか……。考えただけで頬が熱くなる。俺は部活や体育の授業以外で誰かの前で裸になった経験がない。一人のために脱ぐなんて初めてだ。

 バスを降りると潮風が髪を揺らす。海岸沿いの道を歩き、砂を靴で踏むとジャリジャリと音がする。遠くからカモメの鳴き声が届き、波の音が耳に心地よい。しかし、そんな穏やかな風景とは裏腹に、俺の心は嵐のように荒れる。

 スタジオは海岸から少し離れた高台に位置する。小さな木造の建物で、大きな窓からは一面の海という絶景。俺は扉の前で深呼吸した。「大丈夫、約束だから」と自分に言い聞かせる。

 微かに震える手でドアノブを回す。ドアを開けると、すでにカナが機材をセッティングしている。彼は窓際に立ち、外の光を露出計で確認している。自然光に照らされた横顔が、絵画のように美しい。カナは振り返り、俺に気づく。

「来たんだ」

 カナの声には少し驚きの色が混じっている。もしかして、俺が来ないと思っていたのか。彼の瞳には安堵の色が浮かんでいるようにも見える。

「約束したから」

 俺はリュックを下ろし、中からライトブルーのドレスを取り出す。丁寧に広げながら、畳んだ跡がついていないか確認する。生地は思ったより薄く、柔らかい感触だ。

「カナ、持ってきたよ」
「ありがとう」

 彼はドレスを受け取り、光に透かして眺めた。窓からの日差しがドレスを通り抜け、青い光が壁に映る。まるで水中にいるような幻想的な光景だった。

「きれいな色だね。思ったより良い」

 カナの目が輝く。彼がこんなに嬉しそうな表情をするのを見たのは初めてかもしれない。普段は物静かで、感情をあまり表に出さないタイプだから。

「映画で着るから確認したかったのか?」

 俺の質問に、カナは微かに笑みを浮かべた。彼の笑顔には何か秘密めいたものが潜んでいる。

「そうとも言える」

 彼はドレスを椅子に掛け、カメラを手に取った。黒い大きなプロ仕様のカメラ。レンズが俺を覗き込んでいるようで、思わず視線を逸らす。

「じゃあ、始めようか」

 その言葉に、胃がひっくり返りそうになる。ここからが本番。脱ぐんだ。カナの前で。

「どう...脱げばいいの?」

 声が震えていた。カナは優しく微笑む。

「自然に。緊張しないで」

 言うのは簡単だが初めての俺には難しい。カナはレンズを俺に向け、俺は凍りついたように立ちすくんだ。足がコンクリートに埋まったかのように動けない。

「マリ、リラックスして。服を一枚ずつ、ゆっくり脱いでみて」

 カナの声は落ち着いていた。これが仕事なんだと言わんばかりの冷静さ。それが逆に緊張を高める。

 深呼吸。まず上着から。Tシャツの裾をつかむ手が小刻みに震えた。ゆっくりと持ち上げ、頭から脱ぐ。その瞬間、カナのシャッター音が鳴る。カシャッという音が異様に大きく響いた。

「そう、いいよ。自然に」

 カナの指示に従って動く。でも、自然って何だろう。こんな状況で自然な動きなんてあるのだろうか。

 上半身裸になると、急に恥ずかしさが増した。スタジオ内の空気が肌に触れ、鳥肌が立つ。俺は筋肉は適度についているし、そこそこ体型には自信はあるけど、カナに見られるのは別問題。彼の視線が肌を這うような感覚がして、息が詰まる。

「マリ、こっちを向いて」

 カメラを向けられ、また視線を外す。窓の外の海を見ると、青い水平線が遥か彼方に伸びていた。

「恥ずかしい……」

 思わず漏れた言葉。カナは少し間を置いてから答える。

「大丈夫、綺麗に撮るから」

 カナの言葉に少し心が落ち着いた。彼が俺を見るのは芸術としてだ。そう思えば……少しは恥ずかしさも和らぐかもしれない。彼の真剣な眼差しには、小動物を捕える捕食者のような強さがあった。

 ゆっくりとズボンに手をかける。ボタンを外し、ジッパーを下ろす音がスタジオに響く。脱ぐ前に、もう一度カナを見た。彼は真剣な表情でカメラを構えている。その集中した姿に、少し安心感を覚える。

 ズボンを脱ぎ、下着姿になる。窓から入り込む風が冷たく感じた。新鮮な空気が全身を包む。シャッター音が連続して鳴る。様々な角度からの撮影が続く。カナの息遣いすら聞こえるような気がした。

「あと少し」

 カナの声が微かに震えていた。彼も緊張しているのか?それとも興奮?考えるだけで頬が熱くなる。

 残るは下着だけ。本当に全部脱ぐのか?でも、約束は約束……こんな状況になるとは思わなかったけど、俺が言い出したことだ。

 俺は目を閉じ、下着に手をかけた。心臓の鼓動が耳に響く。

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