サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

文字の大きさ
2 / 29

第1章 寮の窓から見た夏 ②

しおりを挟む

「お前、バレないように覗けよ」リョウが小声でからかう。
「うるせぇな」

 顔が熱くなり、恥ずかしさと別の感情が混じり合う。カナにバレているなら、もう隠す必要はないのかもしれない。それがむしろチャンスになるかも。話しかけるきっかけになるなら、恥ずかしさなど我慢できる。

「で、いつ声かけんの?」
「声?」
「お前、カナを映画に出したいんだろ?」

 黙ってしまう。そうだ。俺はカナを映画に出したい。俺が撮る夏の映画に。『サマードレス』のように美しい映像の中に。あの輝きをカメラで捉えたい。カナが俺の映画でどんな表情を見せるか、想像するだけで妄想が止まらない。

「さぁな...」

 工学部の先輩として誘うのはおかしくないけれど、それ以上の何かを感じていて、それが怖かった。カナの瞳が頭に浮かび、心が揺れる。リョウが肩をすくめて「がんばれよ」と言い残し、部屋に戻っていった。

 俺も自室に戻り、ベッドに倒れ込む。扇風機の風が汗を乾かし、天井を見上げながらカナのことを考える。あの物憂げな表情、洗練された雰囲気、「窓から見てますよね?」という言葉が頭を巡る。バレているのかもしれない。いや、バレている。でも、それがきっかけになるかも。カナを撮るきっかけに。

 デスクのノートを開き、映画の企画書を見つめる。タイトルはまだないが、夏の恋を描きたいという思いが溢れている。主人公のイメージが少しずつ固まりつつあり、カナがそれに重なった。

『主人公:大学2年生、写真家志望。内向的だが、カメラを通して生き生きとする。瞳に秘めた輝きが特別』

 まさにカナそのものだ。少し恥ずかしくなるが、正直な気持ちが溢れ出す。ペンを手に取ると、言葉が自然に流れていく。

『舞台:夏の寮。そして海へ。暑さと静けさが支配する空間。風が物語を動かす』

 窓の外は夕暮れで、オレンジ色の光が部屋を染め、影を作り出していた。光と影は映画に欠かせない要素だ。カナの笑顔がその光に重なるような気がして、心が温かくなる。窓辺に立つと、熱い風が顔を撫で、わずかな涼しさが混じり、カナのシルエットが夕陽に溶ける姿を思い出す。

 その夜、『サマードレス』を見返した。ドレスが風に靡くシーン。光と影のコントラストが絶妙で、何度見ても感動する。「カナがこの輝きを持っている」と想像すると、胸が熱くなる。俺のカメラでその美しさを捉えたい。カナを撮れば、俺の夏が永遠になるような錯覚に陥る。

 映画が終わり、部屋は静まり返っていた。夏の夜の工学寮は深い静寂に包まれ、遠くの車の音だけが微かに聞こえた。

 ◇

 翌日、工学寮の屋上でタンブラーに入れた自作の水出しコーヒーを飲んだ。カナの「秘密です」という言葉が頭を巡り、誰を撮るつもりなのか気になって仕方がない。俺じゃダメなのか?その疑問が頭を支配して、落ち着かない。屋上の風が熱を帯び、俺の決意を後押しする。

 夕方、部屋に戻ってノートにペンを走らせる。「カナを撮りたい」と書き出す。夏の終わりまでに映画を撮りたいという思いが溢れ、言葉が止まらない。あいつの輝きを映像に残したい。俺のカメラでしか捉えられないカナの美しさがあると確信していた。

 ノートを閉じると、窓の外で夕陽が沈み始め、茜色に部屋を染め上げていた。

 夜が深まり、耳障りな虫の音が脳裏に響く。ベッドに横になると、カナの笑顔が浮かんで心が震える。興奮と不安が入り混じり、頭はカナと映画のことでいっぱいだった。

 夏はまだ始まったばかり。カナを映画に出す機会が、これから訪れるはずだ。

 シャワーを浴びて汗を流し、冷たい水を一気に飲み干す。窓を開ければ、夜風が涼しく感じられる。星々が明日を予感させるように、いつもより明るく輝いていた。カナの笑顔が無数の星のように瞬き、眠れない夜を過ごす。

 夏だ。カナ、お前は俺の映画にぴったりなんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...