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第12章 俺の墓の上で踊ってくれる? ③
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「冷たいかもしれない」
そう言って、カナは手のひらにオイルを垂らす。両手で擦り合わせて温めてから、ゆっくりと俺の腹部に垂らした。
「ひゃっ……」
冷たい液体が肌を伝う感覚。でもすぐに、カナの温かい掌が追いかけてくる。
「ごめん」
オイルを広げるように、彼の手が肌を撫でる。マッサージするみたいに、ゆっくりと。胸、腹部、腰、太ももへ伸ばしていく。
胸をマッサージするとき、先端にふれると、自分じゃないみたいな声がもれてしまう。オイルでマッサージするといつもと違う感覚だ。カナが触るからかもしれないけど。
オイルで手が滑る感覚が、異様に気持ちいい。肌が敏感になっていき、彼の指先が触れるたび、電流が走る。
「気持ちいい?」
「……うん」
カナの手が、さらに下へ。腹部を指でなぞり、太ももの表面から内側に滑り込ませる。丁寧に揉みほぐされて、意識が真っ白になっていく。オイルが肌を伝い、月明かりに照らされて光っている。
「綺麗だな……」
カナがうっとりとした表情を浮かべる。俺を見る目がいつもと違う。ファインダー越しに見ていた時の、あの熱い視線を甘くしたような。
「もっと……必要だよな」
カナが再びオイルを手に取る。今度はたっぷりと。そして、もっと敏感な場所へと手を伸ばす。
「力抜いて」
優しく囁かれ、深呼吸する。
オイルが滴った指先に、ゆっくりと触れられた。円を描くように、慣らすように。
「んっ……」
変な感覚だ。でも嫌じゃない。
「大丈夫?」
「うん」
カナの指先が、触れた熱をゆっくりと沈めるように。オイルの滑らかさが、抵抗を和らげてくれる。
「痛っ」
「ごめん、ちょっとだけ我慢して」
痛い……。でも、オイルのおかげで、思ったよりマシだ。
カナの指が、慎重に動き、弄る。俺の中を確かめるように。オイルが、内側まで染み込んでいくような感覚。
「もう少し、慣らすから」
時間をかけて、ゆっくりと。指が動くたび、オイルの滑らかさと、内側からの圧力が混ざり合う。
「あっ……」
痛みがほどけ、震えが甘い波に溶けていく。
「大丈夫?」
カナがさらにオイルを垂らす。冷たい液体が、敏感な場所に触れる。
「……うん」
慣らすように、ゆっくりと。探るように、優しく動く。
「ここ好き?」
何かに触れられた瞬間、身体がビクッと跳ねた。
「っあ……!」
カナが悪戯な笑みを浮かべて、同じ場所を、何度も――執着的に弄ぶ。
痛みが完全に消えて、代わりに甘い痺れが広がっていく。
「カナ……これ、やば……」
「気持ちいい?」
「……うん」
認めるのが恥ずかしい。でも、嘘はつけない。
カナの指がゆっくりと離れる。名残惜しいような、安堵するような。
「マリ、もういい?」
カナの声が切羽詰まっている。彼も、もう限界なんだ。
「いいよ」
カナが俺の足を優しく開かせる。オイルをさらに足して――。
「痛かったら、すぐ言って」
そう囁いて、カナがゆっくりと身体を重ねてくる。
「んっ……!」
息が詰まる。これは、指とは――違う!!
「痛い……」
「ごめん……でも、もう少し……」
カナが動きを止め、深呼吸を促すように、額に優しくキスをする。オイルのせいで滑りやすい素肌に指を這わせ、まるで俺の身体を味わうように辿る。
「深呼吸して」
言われた通り、息を吸って吐く。その間に、カナが少しずつ進む。
じんわりと、カナの体温が俺の奥に伝わり、二人の体温は高まっていく。息を呑むほど美しい夜。
魂が擦れ合い、重なり合い、そして――。
二人の魂は1つになり、混ざり合い、溶け合う。
肉体よりも深く、言葉よりも確かに、俺たちはひとつになった。
「あ……っ」
繋がった。本当の意味で、1つになったのだ。
「マリ……大丈夫?」
カナの額に汗が浮かび、必死で我慢しているよううに見える。
「……動いて」
初めての感覚に戸惑いながらも、互いの体温を確かめ合うように絡み合い、彼の温もりが俺の内側まで満たしていく。本当の意味で彼を受け入れ繋がった瞬間、これが愛し合うということなのだと全身で理解した。
波の音が祝福のように響く中、カナの動きには抑えきれぬ欲望が宿っていた。彼の動きに合わせて、未知の快感が波のように全身を駆け巡る。痛みと愛おしさが混在する中、俺は彼の名前を呼んだ。
「カナ……あ……あ……もう、変になりそう……」
声が勝手に漏れる。カナの動きに合わせて、身体の奥から何かが込み上げてくる。
「マリ……我慢しなくていいよ?」
カナが俺の名前を呼ぶ声が、愛おしくて切なくて。
「カナ……もう、無理……」
俺も彼の名前を呼ぶ。二人の息の音が、波の音に溶けていく。
オイルで濡れた肌の擦れ合う音は淫靡だ。月光に照らされた身体。全てが甘美で官能的だった。
痛みが、完全に快感に変わった瞬間、身体の奥から甘い痺れが広がっていく。
「カナ……もう……」
「俺も……」
二人同時に、頂に達した。
カナが俺の上に崩れ落ち、二人の荒い呼吸が混ざり合い耳に響く。オイルと汗で濡れた身体を密着させながら、腕の中で息を整える。この全身の火照りには、今まで味わったことのない温かさが灯っている。
「マリ、痛かった?大丈夫?」
カナの声は掠れているが、幸福感で満たされた響きを含んでいる。
「ううん。意外と大丈夫だった」
嘘をつく。本当は少し痛かったけど、不思議と嫌じゃない。
カナと1つになれた――そう思った瞬間、その痛みさえも、幸福の一部に変わった。
カナが、俺の額に優しくキスをする。
「ありがとう」
その言葉に、胸が満たされる。俺たちはそのまま、しばらく抱き合った。
「マリ……お願いがあるんだけど……」
俺が彼に視線戻すと、真顔で続けた。
「もし俺が死んだら、やっぱり……俺の墓の上で踊ってくれよ」
思わず吹き出した。
「またそれかよ。それ、プロポーズみたいじゃん」
「うん。プロポーズだよ」
カナは照れくさそうに、それでいてどこまでもまっすぐに俺を見つめていた。
「だって、それくらいのことをしてほしいほど、マリのことが好きだから。本気なんだ。怖い?」
俺はしばらく見つめ返して、そっと額にキスを落とす。
「うん、ちょっと怖い。でも、嬉しい。……ありがと」
「マリ、愛してる」
カナは俺を強く抱きしめる。
その言葉に、俺は感動していた。
「俺も...カナを愛してる」
互いの腕の中で、二人は眠りに落ちた。波の音だけが静かに響く夜。この瞬間を永遠に記憶に刻みたいと願いながら。
◇
朝、差し込む日差しで目を覚ます。カナはまだ眠りの中だ。昨夜の出来事が夢のようでも、彼の体温が現実を告げている。少し背後がズキっと痛む。身体の奥に残る記憶が、頬を赤く染めさせる。
そっと起き上がり、窓から海を見渡す。波は昨日と変わらず寄せては返すのに、世界全体が違った色彩を纏っているように見える。
新しい一日の幕開け、新たな世界の始まり。
朝日に照らされた海面が煌めき、同じ景色なのに奥行きまで変化したように感じる。
「……マリ?」
背後からカナの声がした。振り返ると、髪を乱したまま、まだ眠そうな表情だった。
「おはよう」
「おはよう……何時だ?」
「まだ7時だよ。ゆっくりでいい」
カナはふわっと後ろから抱きしめてきた。じんわりと温もりに満たされていく。そして、二人で朝の海を眺める。
「マリ、昨日のこと……後悔してる?」
カナの声にはどこか不安が混じっていた。
「ううん。後悔なんてしてない。ただ……本当に俺たち結ばれたんだなって」
カナの方を向くと、朝日に照らされた琥珀色の瞳が綺麗で吸い込まれそうになる。彼は俺の手を取り、自分の胸に当てた。力強い鼓動が掌を通して伝わってくる。
「俺、幸せだ」
その率直な告白に、全身が優しさと穏やかさに包まれる。
「俺も幸せ」
正面から抱き合ってキスを交わす。朝の光に包まれた柔らかな一瞬。キスを終えると、カナは微笑む。
「カナ、昨日の撮影の写真って見せてもらえる?」
「いいよ。でも、帰ってからだ。現像しないと」
「じゃあ、次のデートは現像所だな」
俺の言葉にカナは、「デートか。いいね」と明るい笑顔を見せた。
朝食を簡単に済ませ、コテージの片付けに取りかかる。昨日のワインボトルを片付けながらカナが言う。
「マリ、これからどうする?」
シンプルな問いだが、未来への扉を開くような言葉だった。
「さあ、どうしよう。まずは帰るか」
「うん、そうだね」
「それから……一緒にいよう」
単純な言葉だが、それが全てを意味していた。
「うん、一緒にいよう」カナが頷く。
海辺のコテージで、二人の間に芽生えたものは確かだった。
「帰ったら、リョウに話すか?」
「そうだな。あいつなら理解してくれるはず」
「他の奴らは?」
「徐々にだな。急がなくていい」
カナは安堵したような表情を浮かべる。
「マリ、ありがとう」
「なんで?」
「俺の気持ち、受け止めてくれて」
「当たり前だろ。好きなんだから」
カナの目に涙が浮かぶ。
「おい、泣くなよ」
「泣いてないよ、バカ」
荷物をまとめて、大きな鞄に詰めこむ。最後にもう一度コテージを見回す。昨夜の記憶が染み込んだこの場所を、俺たちは名残惜しそうに背を向ける。
「また来たいな、ここ」
カナが呟く。
「うん、またここに来よう」
俺たちの映画のように、この夏の輝きが二人の未来を照らしていくのだろう。ただ、映画とは違って、俺たちの物語は終わりではなく、ここから始まったばかり。
コテージを後にし、駅へと向かう道中、カナは俺の手を握ってきた。
「みんなに見られるぞ」
「いいだろ。どうせ誰も見てない」
彼の大胆さに驚きつつも、しっかりと手を握り返す。
「まあ、そうだな」
朝の光の中、二人の影が1つに重なる。それは、これからの歩みを暗示しているようだった。
電車に乗り、工学寮に戻る途中、俺はカナの肩に頭を預け、昨夜の余韻を感じる。これから始まる関係に期待と不安が混在するが、今はただこの瞬間を噛みしめていたい。
上映会に向けた編集作業が俺たちを待つ一方で、最も大切なのは二人で踏み出したこの一歩だ。サマードレスに憧れていた俺たちは、自分たちだけの物語を紡ぎ始めていた。
そう言って、カナは手のひらにオイルを垂らす。両手で擦り合わせて温めてから、ゆっくりと俺の腹部に垂らした。
「ひゃっ……」
冷たい液体が肌を伝う感覚。でもすぐに、カナの温かい掌が追いかけてくる。
「ごめん」
オイルを広げるように、彼の手が肌を撫でる。マッサージするみたいに、ゆっくりと。胸、腹部、腰、太ももへ伸ばしていく。
胸をマッサージするとき、先端にふれると、自分じゃないみたいな声がもれてしまう。オイルでマッサージするといつもと違う感覚だ。カナが触るからかもしれないけど。
オイルで手が滑る感覚が、異様に気持ちいい。肌が敏感になっていき、彼の指先が触れるたび、電流が走る。
「気持ちいい?」
「……うん」
カナの手が、さらに下へ。腹部を指でなぞり、太ももの表面から内側に滑り込ませる。丁寧に揉みほぐされて、意識が真っ白になっていく。オイルが肌を伝い、月明かりに照らされて光っている。
「綺麗だな……」
カナがうっとりとした表情を浮かべる。俺を見る目がいつもと違う。ファインダー越しに見ていた時の、あの熱い視線を甘くしたような。
「もっと……必要だよな」
カナが再びオイルを手に取る。今度はたっぷりと。そして、もっと敏感な場所へと手を伸ばす。
「力抜いて」
優しく囁かれ、深呼吸する。
オイルが滴った指先に、ゆっくりと触れられた。円を描くように、慣らすように。
「んっ……」
変な感覚だ。でも嫌じゃない。
「大丈夫?」
「うん」
カナの指先が、触れた熱をゆっくりと沈めるように。オイルの滑らかさが、抵抗を和らげてくれる。
「痛っ」
「ごめん、ちょっとだけ我慢して」
痛い……。でも、オイルのおかげで、思ったよりマシだ。
カナの指が、慎重に動き、弄る。俺の中を確かめるように。オイルが、内側まで染み込んでいくような感覚。
「もう少し、慣らすから」
時間をかけて、ゆっくりと。指が動くたび、オイルの滑らかさと、内側からの圧力が混ざり合う。
「あっ……」
痛みがほどけ、震えが甘い波に溶けていく。
「大丈夫?」
カナがさらにオイルを垂らす。冷たい液体が、敏感な場所に触れる。
「……うん」
慣らすように、ゆっくりと。探るように、優しく動く。
「ここ好き?」
何かに触れられた瞬間、身体がビクッと跳ねた。
「っあ……!」
カナが悪戯な笑みを浮かべて、同じ場所を、何度も――執着的に弄ぶ。
痛みが完全に消えて、代わりに甘い痺れが広がっていく。
「カナ……これ、やば……」
「気持ちいい?」
「……うん」
認めるのが恥ずかしい。でも、嘘はつけない。
カナの指がゆっくりと離れる。名残惜しいような、安堵するような。
「マリ、もういい?」
カナの声が切羽詰まっている。彼も、もう限界なんだ。
「いいよ」
カナが俺の足を優しく開かせる。オイルをさらに足して――。
「痛かったら、すぐ言って」
そう囁いて、カナがゆっくりと身体を重ねてくる。
「んっ……!」
息が詰まる。これは、指とは――違う!!
「痛い……」
「ごめん……でも、もう少し……」
カナが動きを止め、深呼吸を促すように、額に優しくキスをする。オイルのせいで滑りやすい素肌に指を這わせ、まるで俺の身体を味わうように辿る。
「深呼吸して」
言われた通り、息を吸って吐く。その間に、カナが少しずつ進む。
じんわりと、カナの体温が俺の奥に伝わり、二人の体温は高まっていく。息を呑むほど美しい夜。
魂が擦れ合い、重なり合い、そして――。
二人の魂は1つになり、混ざり合い、溶け合う。
肉体よりも深く、言葉よりも確かに、俺たちはひとつになった。
「あ……っ」
繋がった。本当の意味で、1つになったのだ。
「マリ……大丈夫?」
カナの額に汗が浮かび、必死で我慢しているよううに見える。
「……動いて」
初めての感覚に戸惑いながらも、互いの体温を確かめ合うように絡み合い、彼の温もりが俺の内側まで満たしていく。本当の意味で彼を受け入れ繋がった瞬間、これが愛し合うということなのだと全身で理解した。
波の音が祝福のように響く中、カナの動きには抑えきれぬ欲望が宿っていた。彼の動きに合わせて、未知の快感が波のように全身を駆け巡る。痛みと愛おしさが混在する中、俺は彼の名前を呼んだ。
「カナ……あ……あ……もう、変になりそう……」
声が勝手に漏れる。カナの動きに合わせて、身体の奥から何かが込み上げてくる。
「マリ……我慢しなくていいよ?」
カナが俺の名前を呼ぶ声が、愛おしくて切なくて。
「カナ……もう、無理……」
俺も彼の名前を呼ぶ。二人の息の音が、波の音に溶けていく。
オイルで濡れた肌の擦れ合う音は淫靡だ。月光に照らされた身体。全てが甘美で官能的だった。
痛みが、完全に快感に変わった瞬間、身体の奥から甘い痺れが広がっていく。
「カナ……もう……」
「俺も……」
二人同時に、頂に達した。
カナが俺の上に崩れ落ち、二人の荒い呼吸が混ざり合い耳に響く。オイルと汗で濡れた身体を密着させながら、腕の中で息を整える。この全身の火照りには、今まで味わったことのない温かさが灯っている。
「マリ、痛かった?大丈夫?」
カナの声は掠れているが、幸福感で満たされた響きを含んでいる。
「ううん。意外と大丈夫だった」
嘘をつく。本当は少し痛かったけど、不思議と嫌じゃない。
カナと1つになれた――そう思った瞬間、その痛みさえも、幸福の一部に変わった。
カナが、俺の額に優しくキスをする。
「ありがとう」
その言葉に、胸が満たされる。俺たちはそのまま、しばらく抱き合った。
「マリ……お願いがあるんだけど……」
俺が彼に視線戻すと、真顔で続けた。
「もし俺が死んだら、やっぱり……俺の墓の上で踊ってくれよ」
思わず吹き出した。
「またそれかよ。それ、プロポーズみたいじゃん」
「うん。プロポーズだよ」
カナは照れくさそうに、それでいてどこまでもまっすぐに俺を見つめていた。
「だって、それくらいのことをしてほしいほど、マリのことが好きだから。本気なんだ。怖い?」
俺はしばらく見つめ返して、そっと額にキスを落とす。
「うん、ちょっと怖い。でも、嬉しい。……ありがと」
「マリ、愛してる」
カナは俺を強く抱きしめる。
その言葉に、俺は感動していた。
「俺も...カナを愛してる」
互いの腕の中で、二人は眠りに落ちた。波の音だけが静かに響く夜。この瞬間を永遠に記憶に刻みたいと願いながら。
◇
朝、差し込む日差しで目を覚ます。カナはまだ眠りの中だ。昨夜の出来事が夢のようでも、彼の体温が現実を告げている。少し背後がズキっと痛む。身体の奥に残る記憶が、頬を赤く染めさせる。
そっと起き上がり、窓から海を見渡す。波は昨日と変わらず寄せては返すのに、世界全体が違った色彩を纏っているように見える。
新しい一日の幕開け、新たな世界の始まり。
朝日に照らされた海面が煌めき、同じ景色なのに奥行きまで変化したように感じる。
「……マリ?」
背後からカナの声がした。振り返ると、髪を乱したまま、まだ眠そうな表情だった。
「おはよう」
「おはよう……何時だ?」
「まだ7時だよ。ゆっくりでいい」
カナはふわっと後ろから抱きしめてきた。じんわりと温もりに満たされていく。そして、二人で朝の海を眺める。
「マリ、昨日のこと……後悔してる?」
カナの声にはどこか不安が混じっていた。
「ううん。後悔なんてしてない。ただ……本当に俺たち結ばれたんだなって」
カナの方を向くと、朝日に照らされた琥珀色の瞳が綺麗で吸い込まれそうになる。彼は俺の手を取り、自分の胸に当てた。力強い鼓動が掌を通して伝わってくる。
「俺、幸せだ」
その率直な告白に、全身が優しさと穏やかさに包まれる。
「俺も幸せ」
正面から抱き合ってキスを交わす。朝の光に包まれた柔らかな一瞬。キスを終えると、カナは微笑む。
「カナ、昨日の撮影の写真って見せてもらえる?」
「いいよ。でも、帰ってからだ。現像しないと」
「じゃあ、次のデートは現像所だな」
俺の言葉にカナは、「デートか。いいね」と明るい笑顔を見せた。
朝食を簡単に済ませ、コテージの片付けに取りかかる。昨日のワインボトルを片付けながらカナが言う。
「マリ、これからどうする?」
シンプルな問いだが、未来への扉を開くような言葉だった。
「さあ、どうしよう。まずは帰るか」
「うん、そうだね」
「それから……一緒にいよう」
単純な言葉だが、それが全てを意味していた。
「うん、一緒にいよう」カナが頷く。
海辺のコテージで、二人の間に芽生えたものは確かだった。
「帰ったら、リョウに話すか?」
「そうだな。あいつなら理解してくれるはず」
「他の奴らは?」
「徐々にだな。急がなくていい」
カナは安堵したような表情を浮かべる。
「マリ、ありがとう」
「なんで?」
「俺の気持ち、受け止めてくれて」
「当たり前だろ。好きなんだから」
カナの目に涙が浮かぶ。
「おい、泣くなよ」
「泣いてないよ、バカ」
荷物をまとめて、大きな鞄に詰めこむ。最後にもう一度コテージを見回す。昨夜の記憶が染み込んだこの場所を、俺たちは名残惜しそうに背を向ける。
「また来たいな、ここ」
カナが呟く。
「うん、またここに来よう」
俺たちの映画のように、この夏の輝きが二人の未来を照らしていくのだろう。ただ、映画とは違って、俺たちの物語は終わりではなく、ここから始まったばかり。
コテージを後にし、駅へと向かう道中、カナは俺の手を握ってきた。
「みんなに見られるぞ」
「いいだろ。どうせ誰も見てない」
彼の大胆さに驚きつつも、しっかりと手を握り返す。
「まあ、そうだな」
朝の光の中、二人の影が1つに重なる。それは、これからの歩みを暗示しているようだった。
電車に乗り、工学寮に戻る途中、俺はカナの肩に頭を預け、昨夜の余韻を感じる。これから始まる関係に期待と不安が混在するが、今はただこの瞬間を噛みしめていたい。
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