サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

文字の大きさ
27 / 29

第12章 俺の墓の上で踊ってくれる? ③

しおりを挟む
「冷たいかもしれない」

 そう言って、カナは手のひらにオイルを垂らす。両手で擦り合わせて温めてから、ゆっくりと俺の腹部に垂らした。

「ひゃっ……」

 冷たい液体が肌を伝う感覚。でもすぐに、カナの温かい掌が追いかけてくる。

「ごめん」

 オイルを広げるように、彼の手が肌を撫でる。マッサージするみたいに、ゆっくりと。胸、腹部、腰、太ももへ伸ばしていく。

 胸をマッサージするとき、先端にふれると、自分じゃないみたいな声がもれてしまう。オイルでマッサージするといつもと違う感覚だ。カナが触るからかもしれないけど。

 オイルで手が滑る感覚が、異様に気持ちいい。肌が敏感になっていき、彼の指先が触れるたび、電流が走る。

「気持ちいい?」
「……うん」

 カナの手が、さらに下へ。腹部を指でなぞり、太ももの表面から内側に滑り込ませる。丁寧に揉みほぐされて、意識が真っ白になっていく。オイルが肌を伝い、月明かりに照らされて光っている。

「綺麗だな……」

 カナがうっとりとした表情を浮かべる。俺を見る目がいつもと違う。ファインダー越しに見ていた時の、あの熱い視線を甘くしたような。

「もっと……必要だよな」

 カナが再びオイルを手に取る。今度はたっぷりと。そして、もっと敏感な場所へと手を伸ばす。

「力抜いて」

 優しく囁かれ、深呼吸する。

 オイルが滴った指先に、ゆっくりと触れられた。円を描くように、慣らすように。

「んっ……」
 変な感覚だ。でも嫌じゃない。

「大丈夫?」
「うん」

 カナの指先が、触れた熱をゆっくりと沈めるように。オイルの滑らかさが、抵抗を和らげてくれる。

「痛っ」
「ごめん、ちょっとだけ我慢して」

 痛い……。でも、オイルのおかげで、思ったよりマシだ。

 カナの指が、慎重に動き、マサグる。俺の中を確かめるように。オイルが、内側まで染み込んでいくような感覚。

「もう少し、慣らすから」

 時間をかけて、ゆっくりと。指が動くたび、オイルの滑らかさと、内側からの圧力が混ざり合う。

「あっ……」

 痛みがほどけ、震えが甘い波に溶けていく。

「大丈夫?」

 カナがさらにオイルを垂らす。冷たい液体が、敏感な場所に触れる。

「……うん」

 慣らすように、ゆっくりと。探るように、優しく動く。

「ここ好き?」

 何かに触れられた瞬間、身体がビクッと跳ねた。

「っあ……!」

 カナが悪戯な笑みを浮かべて、同じ場所を、何度も――執着的にモテアソぶ。
 痛みが完全に消えて、代わりに甘い痺れが広がっていく。

「カナ……これ、やば……」
「気持ちいい?」
「……うん」

 認めるのが恥ずかしい。でも、嘘はつけない。
 カナの指がゆっくりと離れる。名残惜しいような、安堵するような。

「マリ、もういい?」

 カナの声が切羽詰まっている。彼も、もう限界なんだ。

「いいよ」

 カナが俺の足を優しく開かせる。オイルをさらに足して――。

「痛かったら、すぐ言って」

 そう囁いて、カナがゆっくりと身体を重ねてくる。

「んっ……!」

 息が詰まる。これは、指とは――違う!!

「痛い……」

「ごめん……でも、もう少し……」

 カナが動きを止め、深呼吸を促すように、額に優しくキスをする。オイルのせいで滑りやすい素肌に指を這わせ、まるで俺の身体を味わうように辿る。

「深呼吸して」

 言われた通り、息を吸って吐く。その間に、カナが少しずつ進む。
 じんわりと、カナの体温が俺の奥に伝わり、二人の体温は高まっていく。息を呑むほど美しい夜。

 魂が擦れ合い、重なり合い、そして――。

 二人の魂は1つになり、混ざり合い、溶け合う。

 肉体よりも深く、言葉よりも確かに、俺たちはひとつになった。

「あ……っ」

 繋がった。本当の意味で、1つになったのだ。

「マリ……大丈夫?」

 カナの額に汗が浮かび、必死で我慢しているよううに見える。

「……動いて」

 初めての感覚に戸惑いながらも、互いの体温を確かめ合うように絡み合い、彼の温もりが俺の内側まで満たしていく。本当の意味で彼を受け入れ繋がった瞬間、これが愛し合うということなのだと全身で理解した。

 波の音が祝福のように響く中、カナの動きには抑えきれぬ欲望が宿っていた。彼の動きに合わせて、未知の快感が波のように全身を駆け巡る。痛みと愛おしさが混在する中、俺は彼の名前を呼んだ。

「カナ……あ……あ……もう、変になりそう……」

 声が勝手に漏れる。カナの動きに合わせて、身体の奥から何かが込み上げてくる。

「マリ……我慢しなくていいよ?」

 カナが俺の名前を呼ぶ声が、愛おしくて切なくて。

「カナ……もう、無理……」

 俺も彼の名前を呼ぶ。二人の息のが、波の音に溶けていく。
 オイルで濡れた肌の擦れ合う音は淫靡だ。月光に照らされた身体。全てが甘美で官能的だった。

 痛みが、完全に快感に変わった瞬間、身体の奥から甘い痺れが広がっていく。

「カナ……もう……」

「俺も……」

 二人同時に、頂に達した。

 カナが俺の上に崩れ落ち、二人の荒い呼吸が混ざり合い耳に響く。オイルと汗で濡れた身体を密着させながら、腕の中で息を整える。この全身の火照りには、今まで味わったことのない温かさが灯っている。

「マリ、痛かった?大丈夫?」

 カナの声は掠れているが、幸福感で満たされた響きを含んでいる。

「ううん。意外と大丈夫だった」

 嘘をつく。本当は少し痛かったけど、不思議と嫌じゃない。

 カナと1つになれた――そう思った瞬間、その痛みさえも、幸福の一部に変わった。
 カナが、俺の額に優しくキスをする。

「ありがとう」

 その言葉に、胸が満たされる。俺たちはそのまま、しばらく抱き合った。

「マリ……お願いがあるんだけど……」
 俺が彼に視線戻すと、真顔で続けた。

「もし俺が死んだら、やっぱり……俺の墓の上で踊ってくれよ」
 思わず吹き出した。

「またそれかよ。それ、プロポーズみたいじゃん」
「うん。プロポーズだよ」

 カナは照れくさそうに、それでいてどこまでもまっすぐに俺を見つめていた。

「だって、それくらいのことをしてほしいほど、マリのことが好きだから。本気なんだ。怖い?」

 俺はしばらく見つめ返して、そっと額にキスを落とす。

「うん、ちょっと怖い。でも、嬉しい。……ありがと」
「マリ、愛してる」

 カナは俺を強く抱きしめる。
 その言葉に、俺は感動していた。

「俺も...カナを愛してる」

 互いの腕の中で、二人は眠りに落ちた。波の音だけが静かに響く夜。この瞬間を永遠に記憶に刻みたいと願いながら。

 ◇

 朝、差し込む日差しで目を覚ます。カナはまだ眠りの中だ。昨夜の出来事が夢のようでも、彼の体温が現実を告げている。少し背後がズキっと痛む。身体の奥に残る記憶が、頬を赤く染めさせる。

 そっと起き上がり、窓から海を見渡す。波は昨日と変わらず寄せては返すのに、世界全体が違った色彩を纏っているように見える。

 新しい一日の幕開け、新たな世界の始まり。

 朝日に照らされた海面が煌めき、同じ景色なのに奥行きまで変化したように感じる。

「……マリ?」
 背後からカナの声がした。振り返ると、髪を乱したまま、まだ眠そうな表情だった。

「おはよう」
「おはよう……何時だ?」
「まだ7時だよ。ゆっくりでいい」

 カナはふわっと後ろから抱きしめてきた。じんわりと温もりに満たされていく。そして、二人で朝の海を眺める。

「マリ、昨日のこと……後悔してる?」

 カナの声にはどこか不安が混じっていた。

「ううん。後悔なんてしてない。ただ……本当に俺たち結ばれたんだなって」

 カナの方を向くと、朝日に照らされた琥珀色の瞳が綺麗で吸い込まれそうになる。彼は俺の手を取り、自分の胸に当てた。力強い鼓動が掌を通して伝わってくる。

「俺、幸せだ」

 その率直な告白に、全身が優しさと穏やかさに包まれる。

「俺も幸せ」

 正面から抱き合ってキスを交わす。朝の光に包まれた柔らかな一瞬。キスを終えると、カナは微笑む。

「カナ、昨日の撮影の写真って見せてもらえる?」
「いいよ。でも、帰ってからだ。現像しないと」

「じゃあ、次のデートは現像所だな」
 俺の言葉にカナは、「デートか。いいね」と明るい笑顔を見せた。

 朝食を簡単に済ませ、コテージの片付けに取りかかる。昨日のワインボトルを片付けながらカナが言う。

「マリ、これからどうする?」
 シンプルな問いだが、未来への扉を開くような言葉だった。

「さあ、どうしよう。まずは帰るか」
「うん、そうだね」

「それから……一緒にいよう」

 単純な言葉だが、それが全てを意味していた。
「うん、一緒にいよう」カナが頷く。

 海辺のコテージで、二人の間に芽生えたものは確かだった。

「帰ったら、リョウに話すか?」
「そうだな。あいつなら理解してくれるはず」

「他の奴らは?」
「徐々にだな。急がなくていい」
 カナは安堵したような表情を浮かべる。

「マリ、ありがとう」
「なんで?」

「俺の気持ち、受け止めてくれて」
「当たり前だろ。好きなんだから」

 カナの目に涙が浮かぶ。
「おい、泣くなよ」
「泣いてないよ、バカ」

 荷物をまとめて、大きな鞄に詰めこむ。最後にもう一度コテージを見回す。昨夜の記憶が染み込んだこの場所を、俺たちは名残惜しそうに背を向ける。

「また来たいな、ここ」
 カナが呟く。
「うん、またここに来よう」

 俺たちの映画のように、この夏の輝きが二人の未来を照らしていくのだろう。ただ、映画とは違って、俺たちの物語は終わりではなく、ここから始まったばかり。

 コテージを後にし、駅へと向かう道中、カナは俺の手を握ってきた。

「みんなに見られるぞ」
「いいだろ。どうせ誰も見てない」

 彼の大胆さに驚きつつも、しっかりと手を握り返す。

「まあ、そうだな」

 朝の光の中、二人の影が1つに重なる。それは、これからの歩みを暗示しているようだった。

 電車に乗り、工学寮に戻る途中、俺はカナの肩に頭を預け、昨夜の余韻を感じる。これから始まる関係に期待と不安が混在するが、今はただこの瞬間を噛みしめていたい。

 上映会に向けた編集作業が俺たちを待つ一方で、最も大切なのは二人で踏み出したこの一歩だ。サマードレスに憧れていた俺たちは、自分たちだけの物語を紡ぎ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...