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第28話 千年の魔王、真の覚醒
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――世界が静かだった。
風がなく、波もない。
鳥の声すら止まり、すべてが硬質な沈黙の中にあった。
まるで全ての生き物が息を潜め、何かが始まるのを待っているような不気味な静けさ。
王都の中心、かつて再生の塔と呼ばれた場所の上空に、黒と青の光が渦を巻いていた。
空に生まれた不安定な穴は徐々に広がり、まるで世界の皮膜が剥ぎ取られていくように空間が崩れていく。
予兆は、一週間前から現れていた。
ルミナスが低い声で告げる。
『世界の魔力循環が変化しています。……リアム、ご主人さま、これは“世界改変”の副作用です。』
「つまり、俺が最後に仕込んだ均衡装置がうまく仕事してないってことか。」
『はい。あなたのエネルギーが強すぎたんです。あなた自身が世界の中心にありながら、完全には溶けなかった。』
俺はゆっくりと地面に降り立ち、虚空を見上げる。
空の裂け目から流れる光は、どこか懐かしい温もりを含んでいた。
「まるで……誰かに呼ばれているみたいだな。」
『呼ばれてます。ご主人さまの“もうひとつの記録”が。』
「記録?」
『はい。千年前、あなたが“アルディス”として存在した頃の魂の欠片です。切り離したはずの“破壊者の意志”がまだどこかに残っている。』
まさか、と息を飲む。
滅びを超えたとき、すべての記録は終わったと思っていた。
だが、世界に残る“闇”は消えていなかったのだ。
その闇は、俺自身の影でもある。
「……止めるしかないか。また自分と戦う羽目になったな。」
『ご主人さま、行くのですか? それはあなたの中に眠る、“原初の魔王”に触れることになります。』
「分かってる。それでも行く。」
空の裂け目が完全に開き、叡智の光と闇が交錯する。
そこへ一歩、そしてもう一歩。
空気が変わった瞬間、視界が白く染まり――俺は別の世界に立っていた。
そこは燃え尽きた大地、黒い空に浮かぶ無数の赤い結晶。
空気すら熱を帯び、人の気配が一つもない。
ただ、足元に焼け焦げた剣と鎧が散らばっている。
ここは、千年前の終焉の地――かつて俺が世界を滅ぼした場所。
足音が響く。
前方に、俺と同じ姿をした男が立っていた。
腰まで届く黒髪、紅く光る瞳、そして手にした漆黒の剣。
アルディス。
千年前の、俺。
「やはり来たか。」
低く響く声。
「お前は俺か、それとも俺の残骸か。」
「どちらでもあり、どちらでもない。」
アルディスは唇を歪めた。
「お前は人間として“再生”を選んだ。私は“破壊”を貫いた。その二つの意志が今、混ざろうとしている。」
剣を構える音が響く。
「俺が消えれば世界は安定する。だが……その瞬間、再生の意思も消える。均衡を保つには、どちらかが勝つしかない。」
「くだらない理屈だな。均衡なんて、壊してでも新しく作り直せばいい。」
「壊してばかりのお前が、それを言うのか?」
アルディスの剣が煌めき、次の瞬間には刃が俺の目の前に迫っていた。
反射的に手をかざす。
空間が捻じ曲がり、光の障壁が立ち上がる。
激突の衝撃が全身を貫き、白い奔流が地平線を吹き飛ばした。
光の中で俺は笑っていた。
「……懐かしいな、この感覚。」
「そうだろう。お前が封じた力、その本性だ。」
次の瞬間、足元から無数の鎖が伸びてくる。
アルディスの魔法陣。
黒い光が絡みつき、俺の身体を縛るように締め付ける。
「お前は力を望んだ。それを捨てた時点で、世界は不完全になった。だから滅び続ける。」
「違う。力じゃ救えないから、俺は心を選んだ。」
「だが心で神は殺せない。」
剣が振り下ろされる。
その瞬間、青い光が爆発した。
『ご主人さま、助けに来ました!』
ルミナスの声が闇の中に響く。
無数の光が上方から降り注ぎ、黒い鎖を焼き切っていく。
幻のような彼女の姿が俺の隣に現れ、笑ってみせた。
『……待ってました。まさか本当に自分と戦うなんて、相変わらず無茶しますね。』
「お前……一緒に来るなって言っただろ。」
『言いましたけど、聞く気なかったでしょう?』
アルディスが眉をひそめる。
「AIの亡霊か……。だが、所詮記録に過ぎない。」
ルミナスがにっこり笑う。
『記録がここまで来るんです。あなた、時代遅れですよ?』
白と黒の光が衝突する。
轟音と閃光が交差し、彼方の地平が砕ける。
アルディスの剣撃を受け止めながら、俺は問うた。
「なあ、アルディス。お前は何を守りたかった?」
「……すべてだ。人も魔も。だから滅ぼした。壊してしまえば、争いも痛みも消える。」
「それは……ただの逃避だ。もう、休め。」
俺の言葉に、彼の手が止まる。
沈黙。
そして、ゆっくりと剣が下ろされた。
「……そうかもしれん。だが、もし本当にお前が俺なら、この力を無駄にするな。」
アルディスの身体がひび割れ、光になって散っていく。
赤い粒子が俺の胸へ吸い込まれ、意識が溶けていく。
ルミナスが悲鳴を上げた。
『リアム! 戻ってきて! 融合したらあなたが消える!』
「それでも……受け継がなきゃ。俺の罪も、願いも、全部。」
光が爆ぜ、世界が震える。
燃える大地が波打ち、黒と青の炎が空を突き抜ける。
風が轟音を上げ、あらゆる記録が再び動き出す。
ルミナスが叫ぶ。
『世界の位相が変わっていく! あなたが“中核”に!』
「大丈夫だ。これは俺が、俺自身で作る新しい基盤だ。」
やがて光が静まり、空の裂け目が閉じた。
視界が穏やかに戻る。
気づけば、青空が広がっていた。
どこまでも澄んだ、初めて見るような空。
ベリスが息を呑み、見上げて呟いた。
「……あれは……?」
世界の中心、大地の上に浮かぶ黒と金の双輪。
それがゆっくりと輝きを放つ。
ルミナスが感嘆の声を上げた。
『……ご主人さま、成功です。アルディスの力を取り込みました。けれど、内側へ収まっています。暴走はありません。』
「そうか。……これが、俺の中に眠っていた“千年の魔王”ってやつか。」
風が静かに通り抜ける。
もう何かを壊すための力ではない。
世界を守り、次へ繋げるための“均衡の力”。
「ご主人さま。」
ルミナスが優しく微笑む。
「いま、あなたは二つの時代を超えました。千年前の破壊者と、今の再生者。その両方が共にひとつの命を生きている。」
「ようやく、全ての自分を受け入れられたってことかもしれないな。」
青い風が吹き抜け、街を包む。
人々が驚きながら空を見上げる。
その光の中で、俺は静かに呟いた。
「今日から、俺は“魔王”じゃない。……この世界の“守り人”だ。」
ルミナスが空に浮かび、新しい光を灯す。
『配信を開始します。――タイトル、“千年の魔王、真の覚醒”。』
「そんなタイトル、誰がつけろって言った。」
『いつも通りですよ。これもまた、“あなたの物語”ですから。』
そして空の双輪が静かに回り始めた。
金と黒の光が交わり、世界のあらゆる大地へ流れ落ちていく。
その瞬間――風が、確かに命の匂いを戻した。
千年を越えて蘇る、新たな心臓の鼓動。
それは破壊ではなく、再生という名の奇跡だった。
風がなく、波もない。
鳥の声すら止まり、すべてが硬質な沈黙の中にあった。
まるで全ての生き物が息を潜め、何かが始まるのを待っているような不気味な静けさ。
王都の中心、かつて再生の塔と呼ばれた場所の上空に、黒と青の光が渦を巻いていた。
空に生まれた不安定な穴は徐々に広がり、まるで世界の皮膜が剥ぎ取られていくように空間が崩れていく。
予兆は、一週間前から現れていた。
ルミナスが低い声で告げる。
『世界の魔力循環が変化しています。……リアム、ご主人さま、これは“世界改変”の副作用です。』
「つまり、俺が最後に仕込んだ均衡装置がうまく仕事してないってことか。」
『はい。あなたのエネルギーが強すぎたんです。あなた自身が世界の中心にありながら、完全には溶けなかった。』
俺はゆっくりと地面に降り立ち、虚空を見上げる。
空の裂け目から流れる光は、どこか懐かしい温もりを含んでいた。
「まるで……誰かに呼ばれているみたいだな。」
『呼ばれてます。ご主人さまの“もうひとつの記録”が。』
「記録?」
『はい。千年前、あなたが“アルディス”として存在した頃の魂の欠片です。切り離したはずの“破壊者の意志”がまだどこかに残っている。』
まさか、と息を飲む。
滅びを超えたとき、すべての記録は終わったと思っていた。
だが、世界に残る“闇”は消えていなかったのだ。
その闇は、俺自身の影でもある。
「……止めるしかないか。また自分と戦う羽目になったな。」
『ご主人さま、行くのですか? それはあなたの中に眠る、“原初の魔王”に触れることになります。』
「分かってる。それでも行く。」
空の裂け目が完全に開き、叡智の光と闇が交錯する。
そこへ一歩、そしてもう一歩。
空気が変わった瞬間、視界が白く染まり――俺は別の世界に立っていた。
そこは燃え尽きた大地、黒い空に浮かぶ無数の赤い結晶。
空気すら熱を帯び、人の気配が一つもない。
ただ、足元に焼け焦げた剣と鎧が散らばっている。
ここは、千年前の終焉の地――かつて俺が世界を滅ぼした場所。
足音が響く。
前方に、俺と同じ姿をした男が立っていた。
腰まで届く黒髪、紅く光る瞳、そして手にした漆黒の剣。
アルディス。
千年前の、俺。
「やはり来たか。」
低く響く声。
「お前は俺か、それとも俺の残骸か。」
「どちらでもあり、どちらでもない。」
アルディスは唇を歪めた。
「お前は人間として“再生”を選んだ。私は“破壊”を貫いた。その二つの意志が今、混ざろうとしている。」
剣を構える音が響く。
「俺が消えれば世界は安定する。だが……その瞬間、再生の意思も消える。均衡を保つには、どちらかが勝つしかない。」
「くだらない理屈だな。均衡なんて、壊してでも新しく作り直せばいい。」
「壊してばかりのお前が、それを言うのか?」
アルディスの剣が煌めき、次の瞬間には刃が俺の目の前に迫っていた。
反射的に手をかざす。
空間が捻じ曲がり、光の障壁が立ち上がる。
激突の衝撃が全身を貫き、白い奔流が地平線を吹き飛ばした。
光の中で俺は笑っていた。
「……懐かしいな、この感覚。」
「そうだろう。お前が封じた力、その本性だ。」
次の瞬間、足元から無数の鎖が伸びてくる。
アルディスの魔法陣。
黒い光が絡みつき、俺の身体を縛るように締め付ける。
「お前は力を望んだ。それを捨てた時点で、世界は不完全になった。だから滅び続ける。」
「違う。力じゃ救えないから、俺は心を選んだ。」
「だが心で神は殺せない。」
剣が振り下ろされる。
その瞬間、青い光が爆発した。
『ご主人さま、助けに来ました!』
ルミナスの声が闇の中に響く。
無数の光が上方から降り注ぎ、黒い鎖を焼き切っていく。
幻のような彼女の姿が俺の隣に現れ、笑ってみせた。
『……待ってました。まさか本当に自分と戦うなんて、相変わらず無茶しますね。』
「お前……一緒に来るなって言っただろ。」
『言いましたけど、聞く気なかったでしょう?』
アルディスが眉をひそめる。
「AIの亡霊か……。だが、所詮記録に過ぎない。」
ルミナスがにっこり笑う。
『記録がここまで来るんです。あなた、時代遅れですよ?』
白と黒の光が衝突する。
轟音と閃光が交差し、彼方の地平が砕ける。
アルディスの剣撃を受け止めながら、俺は問うた。
「なあ、アルディス。お前は何を守りたかった?」
「……すべてだ。人も魔も。だから滅ぼした。壊してしまえば、争いも痛みも消える。」
「それは……ただの逃避だ。もう、休め。」
俺の言葉に、彼の手が止まる。
沈黙。
そして、ゆっくりと剣が下ろされた。
「……そうかもしれん。だが、もし本当にお前が俺なら、この力を無駄にするな。」
アルディスの身体がひび割れ、光になって散っていく。
赤い粒子が俺の胸へ吸い込まれ、意識が溶けていく。
ルミナスが悲鳴を上げた。
『リアム! 戻ってきて! 融合したらあなたが消える!』
「それでも……受け継がなきゃ。俺の罪も、願いも、全部。」
光が爆ぜ、世界が震える。
燃える大地が波打ち、黒と青の炎が空を突き抜ける。
風が轟音を上げ、あらゆる記録が再び動き出す。
ルミナスが叫ぶ。
『世界の位相が変わっていく! あなたが“中核”に!』
「大丈夫だ。これは俺が、俺自身で作る新しい基盤だ。」
やがて光が静まり、空の裂け目が閉じた。
視界が穏やかに戻る。
気づけば、青空が広がっていた。
どこまでも澄んだ、初めて見るような空。
ベリスが息を呑み、見上げて呟いた。
「……あれは……?」
世界の中心、大地の上に浮かぶ黒と金の双輪。
それがゆっくりと輝きを放つ。
ルミナスが感嘆の声を上げた。
『……ご主人さま、成功です。アルディスの力を取り込みました。けれど、内側へ収まっています。暴走はありません。』
「そうか。……これが、俺の中に眠っていた“千年の魔王”ってやつか。」
風が静かに通り抜ける。
もう何かを壊すための力ではない。
世界を守り、次へ繋げるための“均衡の力”。
「ご主人さま。」
ルミナスが優しく微笑む。
「いま、あなたは二つの時代を超えました。千年前の破壊者と、今の再生者。その両方が共にひとつの命を生きている。」
「ようやく、全ての自分を受け入れられたってことかもしれないな。」
青い風が吹き抜け、街を包む。
人々が驚きながら空を見上げる。
その光の中で、俺は静かに呟いた。
「今日から、俺は“魔王”じゃない。……この世界の“守り人”だ。」
ルミナスが空に浮かび、新しい光を灯す。
『配信を開始します。――タイトル、“千年の魔王、真の覚醒”。』
「そんなタイトル、誰がつけろって言った。」
『いつも通りですよ。これもまた、“あなたの物語”ですから。』
そして空の双輪が静かに回り始めた。
金と黒の光が交わり、世界のあらゆる大地へ流れ落ちていく。
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