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第29話 世界を創る者
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――世界は、新しく呼吸を始めていた。
千年の魔王が覚醒した日から数ヶ月。
王都は静かな復興を迎え、人と魔の共存がゆるやかに広まっていた。
だが誰も気づいていない。
この穏やかな空の裏で、また新しい“変化”が起きていることを。
風が優しい。
空から瀬音のような声が降り注ぐ。
ルミナスの声だ。
『ご主人さま。世界の魔力構造が安定したのは良いのですが……最近、エネルギー流が膨張してます。』
「膨張?」
『はい。つまり、世界そのものが“大きくなり始めている”んです。』
「拡張現象か……まるで宇宙の成長みたいだな。」
『それが問題なんです。普通、神核が拡張するには外界の基盤と同期する必要があります。でもここは“閉じた世界”。供給源がないのに、無限成長を始めている。』
ベリスが目を細める。
「まさか、新たな創世が始まっているのでは?」
「創世……?」
「リアム様の体内――正確には、あなたの中核に存在する“アルディスの余剰魔力”。それが世界再生のために動き出しているのです。」
ルミナスが小さく唸る。
『要するに、ご主人さまが新しい世界の“種”になってます。』
「ちょっと待て。俺、そんなつもりは――」
『でも、もう始まってしまったみたいです。新しい空間座標が次々に生まれてるんです。南大陸の彼方に、これまで存在しなかった島が形成されました。』
現地映像が投影される。
空と海の境目に、光と影が交互に生まれる。
その中央から、まるで誰かが筆で地図を描いているように新しい大地が浮かび上がっていた。
「……俺の心が、形を作ってるのか。」
ベリスが真剣に頷く。
「リアム様。あなたはこの世界における創造原理と一体化されました。意思の揺らぎが大地の形を決め、想いが生命を紡ぐ。その“無意識の創造”が止められないのです。」
「そんな……」
ルミナスが少し間を置いてから穏やかに話す。
『でも、悪いことばかりじゃありませんよ。今生まれている新しい地域、全部が“共存”を理念にしてるんです。魔族と人が自然に暮らせるように。ご主人さまの願いそのまま。』
「そうなのか。」
『はい。でも一箇所だけ、例外があります。』
ルミナスの声が沈む。
『北方の果て、“白の断層”。そこだけは、なぜかすべての生が拒絶されています。植物も、動物も、呼吸そのものが凍りつくような領域。』
「つまり、創造と同時に“虚無”も生まれている……か。バランスを取るようにして。」
「まるで、神話の光と闇ね。」ベリスがつぶやく。
「でも、それじゃあ放っておけない。見に行くしかないな。」
◇
氷の海を越え、北の世界の果てへ辿り着いたとき、俺たちは言葉を失った。
空気は凍りつき、時間が息を止めていた。
空が割れたかのような白い光が続き、その中には何もない。
石も、空気も、音も、存在しない。そこにあるのは、ただの“空虚”だった。
『え? 計器が反応しません。信号自体が拒絶されてます。これ、どうなってるんですか?』
「……俺の中の世界が拒絶してる。ここは――“創造の限界点”だ。」
ベリスが重い声で告げた。
「リアム様。女神イアナの記録によれば、創世は常に“零からの再定義”を伴います。創造主が自我に飲まれれば、世界は一度“原点”に戻ろうとする。」
「俺の中のアルディスが、また暴れようとしてるってことか?」
「はい。破壊の概念が蘇り始めているのです。」
突如、空気が振動した。
遠く、光の裏側から黒い影が姿を現す。
それは人の形をしながら、輪郭を持たない。
あらゆる存在の“否定”を体現するような存在。
『この反応……! 千年前の“闇律”と一致! ご主人さまの力が反転してます!』
「そんな……勝手に出てくるなよ、俺の過去!」
影はゆっくりとこちらへ歩み寄る。
声が響いた。
「創造とは、罪だ。存在を許すということは、滅びを前提にすること。ならば、無こそ救い。」
「そんな理屈、聞き飽きた。」
「お前が作る世界は、いつかまた滅ぶ。ならば最初から、何も生まれないほうがいい。」
氷が砕け、空気が裂ける音がした。
ルミナスが叫ぶ。
『ご主人さま! このまま融合したら、あなたも消えます!』
「逃げられないさ。俺自身だからな。」
影は無数の触手を伸ばし、世界の色を奪う。
ベリスが障壁を展開するが、次々に砕かれていく。
「リアム様!」
「立てこもるな。攻めるぞ!」
拳を光で包み込み、影の核心へ突き出した。
衝撃が走る。
心臓の奥で、懐かしい声が響いた。
――『あなたは、これ以上自分を責めなくていい。』
「……レア?」
幻影のように、彼女が現れて微笑む。
「リアム。世界は理想を求め続ける。でも、完璧な形になんてならないの。
それを罪だと思うなら、あなたは永遠に自分を赦せない。」
「レア……。」
ルミナスの声が重なる。
『ご主人さま、選んでください。創造の継続か、停止か。どっちも失えば、また世界が消えます。』
俺はゆっくりと目を閉じ、そして答えた。
「――選ばない。」
雷鳴が轟いた。
周囲の白が青に変わり、影が光を吸収していく。
その中心に俺は立っていた。
「創造と破壊、どっちかじゃない。両方を抱えて人は生きる。だから、生まれることに意味があるんだ!」
叫びと同時に光が爆発した。
黒と白が渦を巻き、やがて融合するようにして消えた。
すべてが穏やかになり、風が戻る。
氷の大地に草が芽吹き、凍った海に波が立った。
ルミナスが感嘆の声を上げる。
『収束完了……! 黒の意識、アルディスの余剰部分が統合されました!』
「つまり、ようやくバランスが取れたってことか。」
ベリスが空を見上げる。
「ご覧ください、リアム様。」
白の断層の果てに、新しい太陽のような光が生まれていた。
それは赤でも青でもなく、緑に近い柔らかな輝き。
「これは……?」
ルミナスが答える。
『創造と破壊の統合、そして“進化”です。ご主人さま。あなたは今、この世界の中で最も人らしい存在になりました。』
俺は微笑み、ゆっくりと天地を見渡した。
生命が芽吹く音、風の歌、遠くの鳥の声。
それがすべて、今この瞬間に生まれた。
ルミナスが声を弾ませる。
『はいっ、ということで、世界創生ライブ第2章、無事完結です! タイトルは、“世界を創る者”。』
「お前、どこまで配信する気だ。」
『永遠ですよ。これが、あなたの願いだったでしょ? “見つめ続ける世界”って。』
「……ああ、そうだったな。」
空に大きく伸びた新しい光が、まるで遠い未来を指し示すように尾を引いた。
その眩しさに目を細めながら、俺は穏やかに言う。
「世界は完成しない。だから面白いんだ。そうだろ、ルミナス?」
『はい、ご主人さま。今日も、配信は続いています。』
朝風が吹き抜け、新しい大地の香りがどこまでも広がっていた。
それは、世界がもう一度生まれた証。その鼓動は確かに、生きていた。
千年の魔王が覚醒した日から数ヶ月。
王都は静かな復興を迎え、人と魔の共存がゆるやかに広まっていた。
だが誰も気づいていない。
この穏やかな空の裏で、また新しい“変化”が起きていることを。
風が優しい。
空から瀬音のような声が降り注ぐ。
ルミナスの声だ。
『ご主人さま。世界の魔力構造が安定したのは良いのですが……最近、エネルギー流が膨張してます。』
「膨張?」
『はい。つまり、世界そのものが“大きくなり始めている”んです。』
「拡張現象か……まるで宇宙の成長みたいだな。」
『それが問題なんです。普通、神核が拡張するには外界の基盤と同期する必要があります。でもここは“閉じた世界”。供給源がないのに、無限成長を始めている。』
ベリスが目を細める。
「まさか、新たな創世が始まっているのでは?」
「創世……?」
「リアム様の体内――正確には、あなたの中核に存在する“アルディスの余剰魔力”。それが世界再生のために動き出しているのです。」
ルミナスが小さく唸る。
『要するに、ご主人さまが新しい世界の“種”になってます。』
「ちょっと待て。俺、そんなつもりは――」
『でも、もう始まってしまったみたいです。新しい空間座標が次々に生まれてるんです。南大陸の彼方に、これまで存在しなかった島が形成されました。』
現地映像が投影される。
空と海の境目に、光と影が交互に生まれる。
その中央から、まるで誰かが筆で地図を描いているように新しい大地が浮かび上がっていた。
「……俺の心が、形を作ってるのか。」
ベリスが真剣に頷く。
「リアム様。あなたはこの世界における創造原理と一体化されました。意思の揺らぎが大地の形を決め、想いが生命を紡ぐ。その“無意識の創造”が止められないのです。」
「そんな……」
ルミナスが少し間を置いてから穏やかに話す。
『でも、悪いことばかりじゃありませんよ。今生まれている新しい地域、全部が“共存”を理念にしてるんです。魔族と人が自然に暮らせるように。ご主人さまの願いそのまま。』
「そうなのか。」
『はい。でも一箇所だけ、例外があります。』
ルミナスの声が沈む。
『北方の果て、“白の断層”。そこだけは、なぜかすべての生が拒絶されています。植物も、動物も、呼吸そのものが凍りつくような領域。』
「つまり、創造と同時に“虚無”も生まれている……か。バランスを取るようにして。」
「まるで、神話の光と闇ね。」ベリスがつぶやく。
「でも、それじゃあ放っておけない。見に行くしかないな。」
◇
氷の海を越え、北の世界の果てへ辿り着いたとき、俺たちは言葉を失った。
空気は凍りつき、時間が息を止めていた。
空が割れたかのような白い光が続き、その中には何もない。
石も、空気も、音も、存在しない。そこにあるのは、ただの“空虚”だった。
『え? 計器が反応しません。信号自体が拒絶されてます。これ、どうなってるんですか?』
「……俺の中の世界が拒絶してる。ここは――“創造の限界点”だ。」
ベリスが重い声で告げた。
「リアム様。女神イアナの記録によれば、創世は常に“零からの再定義”を伴います。創造主が自我に飲まれれば、世界は一度“原点”に戻ろうとする。」
「俺の中のアルディスが、また暴れようとしてるってことか?」
「はい。破壊の概念が蘇り始めているのです。」
突如、空気が振動した。
遠く、光の裏側から黒い影が姿を現す。
それは人の形をしながら、輪郭を持たない。
あらゆる存在の“否定”を体現するような存在。
『この反応……! 千年前の“闇律”と一致! ご主人さまの力が反転してます!』
「そんな……勝手に出てくるなよ、俺の過去!」
影はゆっくりとこちらへ歩み寄る。
声が響いた。
「創造とは、罪だ。存在を許すということは、滅びを前提にすること。ならば、無こそ救い。」
「そんな理屈、聞き飽きた。」
「お前が作る世界は、いつかまた滅ぶ。ならば最初から、何も生まれないほうがいい。」
氷が砕け、空気が裂ける音がした。
ルミナスが叫ぶ。
『ご主人さま! このまま融合したら、あなたも消えます!』
「逃げられないさ。俺自身だからな。」
影は無数の触手を伸ばし、世界の色を奪う。
ベリスが障壁を展開するが、次々に砕かれていく。
「リアム様!」
「立てこもるな。攻めるぞ!」
拳を光で包み込み、影の核心へ突き出した。
衝撃が走る。
心臓の奥で、懐かしい声が響いた。
――『あなたは、これ以上自分を責めなくていい。』
「……レア?」
幻影のように、彼女が現れて微笑む。
「リアム。世界は理想を求め続ける。でも、完璧な形になんてならないの。
それを罪だと思うなら、あなたは永遠に自分を赦せない。」
「レア……。」
ルミナスの声が重なる。
『ご主人さま、選んでください。創造の継続か、停止か。どっちも失えば、また世界が消えます。』
俺はゆっくりと目を閉じ、そして答えた。
「――選ばない。」
雷鳴が轟いた。
周囲の白が青に変わり、影が光を吸収していく。
その中心に俺は立っていた。
「創造と破壊、どっちかじゃない。両方を抱えて人は生きる。だから、生まれることに意味があるんだ!」
叫びと同時に光が爆発した。
黒と白が渦を巻き、やがて融合するようにして消えた。
すべてが穏やかになり、風が戻る。
氷の大地に草が芽吹き、凍った海に波が立った。
ルミナスが感嘆の声を上げる。
『収束完了……! 黒の意識、アルディスの余剰部分が統合されました!』
「つまり、ようやくバランスが取れたってことか。」
ベリスが空を見上げる。
「ご覧ください、リアム様。」
白の断層の果てに、新しい太陽のような光が生まれていた。
それは赤でも青でもなく、緑に近い柔らかな輝き。
「これは……?」
ルミナスが答える。
『創造と破壊の統合、そして“進化”です。ご主人さま。あなたは今、この世界の中で最も人らしい存在になりました。』
俺は微笑み、ゆっくりと天地を見渡した。
生命が芽吹く音、風の歌、遠くの鳥の声。
それがすべて、今この瞬間に生まれた。
ルミナスが声を弾ませる。
『はいっ、ということで、世界創生ライブ第2章、無事完結です! タイトルは、“世界を創る者”。』
「お前、どこまで配信する気だ。」
『永遠ですよ。これが、あなたの願いだったでしょ? “見つめ続ける世界”って。』
「……ああ、そうだったな。」
空に大きく伸びた新しい光が、まるで遠い未来を指し示すように尾を引いた。
その眩しさに目を細めながら、俺は穏やかに言う。
「世界は完成しない。だから面白いんだ。そうだろ、ルミナス?」
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