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第21話 裏切りの元仲間との再会
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宴の夜が終わり、戦火の匂いが再び立ちこめた。
ルディウスとアレン――かつて背を並べた二人の英雄が、再び剣を交える道を選んだ。
世界を繋ぐ塔「調律の塔」の頂点で、光と闇が交錯する新たな戦が始まろうとしていた。
「アレン……その姿、もう“人間”ではないな」
ルディウスの視線が金色の羽根を貫く。
その羽根は聖でも光でもなく、燃焼するような金の炎で構成されていた。
神の加護ではない。それは“人の意志”を核に変質した力だった。
アレンは笑う。
「お前にだけは、言われたくないな。
俺たちは同じ場所から始まった。だが、お前は“すべてを超える”ことを望んだ。
俺は“超えられないまま、それでも立つ”ことを選んだんだ。」
剣が鳴る。空気が裂けた。
衝突の瞬間、世界が硬直する。
まるで時間の流れが、その一撃だけを見守るために止まったようだった。
激しくぶつかり合う光の奔流。
アレンの技は、かつての勇者としての熟練に加え、神の残滓による再形成の力を得ていた。
その一撃は、天界の法則すら穿つ斬撃。
だが、ルディウスは微動だにせず受け止める。
「……重いな。神の力を棄てたはずなのに、神そのものを模している」
「俺は神を斬るために、神の形を借りた。それだけだ!」
二つの力が火花を散らす。
塔の構造が悲鳴を上げ、周囲を包む魔力障壁が砕けていく。
イルミナが下層の制御室で叫んだ。
「塔の強度が限界を超えてる! これ以上は崩壊するわ!」
しかし誰も止めない。止められない。
これは、世界が二つの理に分かれた証明なのだから。
地上ではリシェルたちが守りの陣を展開していた。
フィアの風壁が瓦礫を跳ね返し、アーシェの雷槍が落下してくる魔力の欠片を破砕する。
仲間たちは皆、信じていた。
あの二人が、この戦いの先に真の答えを見つけることを。
アレンの剣が唸りを上げる。
「ルディウス! お前は俺の師であり、兄のような存在だった! なのになぜ……人を切り捨てた!」
ルディウスは静かに目を伏せる。
「俺は切り捨てたのではない。ただ、選ばせた。
人は強制されるよりも、選んで滅ぶ方が幸せだと気づいたからだ。」
アレンの表情が歪む。
「それが“愛”だとでも言うのか!」
「違う。理解だ。」
再び剣と掌がぶつかる。
衝撃波が塔全体を貫く。
下層の広間では、魔導機構が連鎖的に燃え上がり、都市全体が眩く光を放った。
アーシェが叫ぶ。「このままじゃ塔ごと――!」
リシェルは唇を噛み、手を合わせて祈るように呪文を紡ぐ。
「世界よ、彼らを見届けて。勝ち負けじゃなく、願いの形を――!」
その瞬間、戦場の上空を雷光が覆った。
アレンが全力の魔力を解放する。
「神の残滓よ、俺の意志に従え――最終解放、《セラフィック・ブレイザー》!!」
黄金の光が放たれ、塔の半分が焼き裂かれる。
ルディウスは無造作に右手を上げた。
瞳から紅と金の光が交錯し、唇が呟く。
「零式律、反転変換(コード・ミラー)」
光が止まり、逆流した。
アレンの攻撃が、そのまま彼自身へ向かって返される。
だがアレンは一歩も退かない。
「俺の剣は! 誰かの命を奪うためじゃない!
“世界を戻す”ための刃だッ!!」
その叫びに、ルディウスの心が一瞬だけ揺れた。
わずかな隙が生まれ、攻撃が彼の頬をかすめる。
血が一滴、宙に舞う。
アレンの動きが止まる。
驚愕ではない。悲しみだった。
「あの時と同じだ……。俺は、またお前を傷つけたのか」
ルディウスはゆっくりと手を下ろす。
「違う。お前は“止めた”んだ」
彼は掌を広げ、空を指した。
その瞬間、塔の崩れかけた構造が光の糸で固定され、崩壊が止まる。
空を覆っていた雷雲が消え、金の羽根が風に散っていった。
アレンは膝をつき、荒い息を吐いた。
「俺は……勝ったのか?」
「いや。勝敗など最初からない」
ルディウスは静かに答える。
「お前は“自分で立つこと”を証明した。それで十分だ」
アレンは空を仰いで笑った。
「昔みたいだな。説教臭い……でも、少しだけ……わかる気がする」
「なら、それでいい」
ルディウスが片手を伸ばすと、かつて仲間だった者の光が溶けるように消えていく。
アレンは微笑みながら言葉を残した。
「なあ……もしまた違う世界で、俺たちが出会えたら……今度は、並んで戦おうぜ。」
「約束する」
その言葉を最後に、光は完全に消えた。
塔の残骸の中に、ただ夜風の音だけが残る。
下層でリシェルたちは崩れた瓦礫の中からルディウスを見つけた。
アーシェが声をかける。
「終わったのか?」
ルディウスは淡く微笑む。
「……一つの終わりだ。だが、これはまだ“前章”に過ぎない」
リシェルは彼の横顔を見つめる。
「あなたはまた、何かを失って、それでも歩き続ける人ね」
彼は小さく笑った。
「そうだ。止まったら、神の理に飲まれる。だから俺は歩く。終わりが見えなくてもな。」
空には、アレンの黄金の羽根がひとつだけ残っていた。
風に乗って剥がれ落ち、ルディウスの掌に舞い降りる。
それをそっと握りしめ、彼は呟いた。
「戦う理由が、また一つ増えたな……」
遠くの空から、天界の裂け目が再び薄く開いている。
イルミナが計器を見つめながら言った。
「新たな存在がこちらを観測してる。おそらく“神々の中枢”――本体が動いた」
ルディウスは笑みを浮かべた。
「上等だ。真の神が出てくるなら、その理ごと壊すだけ。」
再び、戦いは続く。
だがそこには、かつてと異なる感情があった。
復讐でも支配でもない、“続ける覚悟”という決意。
夜空が明け、光の粒が塔の上へ降り注いだ。
ルディウスはその中で立ち尽くす。
その瞳には、確かな希望の光が宿っていた。
「――次は、神界だ。」
その低い声が、朝焼けの風を震わせた。
(続く)
ルディウスとアレン――かつて背を並べた二人の英雄が、再び剣を交える道を選んだ。
世界を繋ぐ塔「調律の塔」の頂点で、光と闇が交錯する新たな戦が始まろうとしていた。
「アレン……その姿、もう“人間”ではないな」
ルディウスの視線が金色の羽根を貫く。
その羽根は聖でも光でもなく、燃焼するような金の炎で構成されていた。
神の加護ではない。それは“人の意志”を核に変質した力だった。
アレンは笑う。
「お前にだけは、言われたくないな。
俺たちは同じ場所から始まった。だが、お前は“すべてを超える”ことを望んだ。
俺は“超えられないまま、それでも立つ”ことを選んだんだ。」
剣が鳴る。空気が裂けた。
衝突の瞬間、世界が硬直する。
まるで時間の流れが、その一撃だけを見守るために止まったようだった。
激しくぶつかり合う光の奔流。
アレンの技は、かつての勇者としての熟練に加え、神の残滓による再形成の力を得ていた。
その一撃は、天界の法則すら穿つ斬撃。
だが、ルディウスは微動だにせず受け止める。
「……重いな。神の力を棄てたはずなのに、神そのものを模している」
「俺は神を斬るために、神の形を借りた。それだけだ!」
二つの力が火花を散らす。
塔の構造が悲鳴を上げ、周囲を包む魔力障壁が砕けていく。
イルミナが下層の制御室で叫んだ。
「塔の強度が限界を超えてる! これ以上は崩壊するわ!」
しかし誰も止めない。止められない。
これは、世界が二つの理に分かれた証明なのだから。
地上ではリシェルたちが守りの陣を展開していた。
フィアの風壁が瓦礫を跳ね返し、アーシェの雷槍が落下してくる魔力の欠片を破砕する。
仲間たちは皆、信じていた。
あの二人が、この戦いの先に真の答えを見つけることを。
アレンの剣が唸りを上げる。
「ルディウス! お前は俺の師であり、兄のような存在だった! なのになぜ……人を切り捨てた!」
ルディウスは静かに目を伏せる。
「俺は切り捨てたのではない。ただ、選ばせた。
人は強制されるよりも、選んで滅ぶ方が幸せだと気づいたからだ。」
アレンの表情が歪む。
「それが“愛”だとでも言うのか!」
「違う。理解だ。」
再び剣と掌がぶつかる。
衝撃波が塔全体を貫く。
下層の広間では、魔導機構が連鎖的に燃え上がり、都市全体が眩く光を放った。
アーシェが叫ぶ。「このままじゃ塔ごと――!」
リシェルは唇を噛み、手を合わせて祈るように呪文を紡ぐ。
「世界よ、彼らを見届けて。勝ち負けじゃなく、願いの形を――!」
その瞬間、戦場の上空を雷光が覆った。
アレンが全力の魔力を解放する。
「神の残滓よ、俺の意志に従え――最終解放、《セラフィック・ブレイザー》!!」
黄金の光が放たれ、塔の半分が焼き裂かれる。
ルディウスは無造作に右手を上げた。
瞳から紅と金の光が交錯し、唇が呟く。
「零式律、反転変換(コード・ミラー)」
光が止まり、逆流した。
アレンの攻撃が、そのまま彼自身へ向かって返される。
だがアレンは一歩も退かない。
「俺の剣は! 誰かの命を奪うためじゃない!
“世界を戻す”ための刃だッ!!」
その叫びに、ルディウスの心が一瞬だけ揺れた。
わずかな隙が生まれ、攻撃が彼の頬をかすめる。
血が一滴、宙に舞う。
アレンの動きが止まる。
驚愕ではない。悲しみだった。
「あの時と同じだ……。俺は、またお前を傷つけたのか」
ルディウスはゆっくりと手を下ろす。
「違う。お前は“止めた”んだ」
彼は掌を広げ、空を指した。
その瞬間、塔の崩れかけた構造が光の糸で固定され、崩壊が止まる。
空を覆っていた雷雲が消え、金の羽根が風に散っていった。
アレンは膝をつき、荒い息を吐いた。
「俺は……勝ったのか?」
「いや。勝敗など最初からない」
ルディウスは静かに答える。
「お前は“自分で立つこと”を証明した。それで十分だ」
アレンは空を仰いで笑った。
「昔みたいだな。説教臭い……でも、少しだけ……わかる気がする」
「なら、それでいい」
ルディウスが片手を伸ばすと、かつて仲間だった者の光が溶けるように消えていく。
アレンは微笑みながら言葉を残した。
「なあ……もしまた違う世界で、俺たちが出会えたら……今度は、並んで戦おうぜ。」
「約束する」
その言葉を最後に、光は完全に消えた。
塔の残骸の中に、ただ夜風の音だけが残る。
下層でリシェルたちは崩れた瓦礫の中からルディウスを見つけた。
アーシェが声をかける。
「終わったのか?」
ルディウスは淡く微笑む。
「……一つの終わりだ。だが、これはまだ“前章”に過ぎない」
リシェルは彼の横顔を見つめる。
「あなたはまた、何かを失って、それでも歩き続ける人ね」
彼は小さく笑った。
「そうだ。止まったら、神の理に飲まれる。だから俺は歩く。終わりが見えなくてもな。」
空には、アレンの黄金の羽根がひとつだけ残っていた。
風に乗って剥がれ落ち、ルディウスの掌に舞い降りる。
それをそっと握りしめ、彼は呟いた。
「戦う理由が、また一つ増えたな……」
遠くの空から、天界の裂け目が再び薄く開いている。
イルミナが計器を見つめながら言った。
「新たな存在がこちらを観測してる。おそらく“神々の中枢”――本体が動いた」
ルディウスは笑みを浮かべた。
「上等だ。真の神が出てくるなら、その理ごと壊すだけ。」
再び、戦いは続く。
だがそこには、かつてと異なる感情があった。
復讐でも支配でもない、“続ける覚悟”という決意。
夜空が明け、光の粒が塔の上へ降り注いだ。
ルディウスはその中で立ち尽くす。
その瞳には、確かな希望の光が宿っていた。
「――次は、神界だ。」
その低い声が、朝焼けの風を震わせた。
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