7 / 118
凍てつく百合の令嬢は、婚約者の弟に狂おしく愛される
1
しおりを挟む大陸の北を征するメディウス・ロクス帝国が、その名を冠する少しだけ前の話。
※※※
ずっと公爵令嬢として何不自由なく生きてきた。
子どもの頃から大好きだった、皇帝である年上の彼の元へ嫁ぎ、皇妃になることも決まっていた。
とても、幸せな結婚式になるはずだったのに……。
――私は今、愛していた彼の弟の腕の中にいる。
※※※
(私が愛したイグニス様は、もうこの世にはいない)
私の夫になるはずだったイグニス様は殺されてしまった。
しかも、私と彼の結婚式の最中に……。
あの日、純白のドレスに身を包んだ私の胸には、イグニス様との幸せな未来への希望で満ちていた。
どんなにダメな私でも、添い遂げると誓ってくれたイグニス様。
けれども、誓いのキスを交わした後、私の目の前で、愛するイグニス様は倒れた。
彼の鳶色の髪だけでなく、私の黒髪も白いドレスも、見るも無残に血に濡れてしまっていたことを、今でも覚えている。
思い出すだけで、胸を焦燥が襲い、息がしづらくなるようだ。
皇帝イグニスの皇妃になるべく、誓いのキスまですませていた私は、捕えられ、城の一角にある部屋に閉じ込められた。
愛するイグニス様を亡くし、失意に飲まれた私は、もういっそ自分で命を絶とうと思った。部屋にある白いシーツを引き裂いてベッドの柵に吊るし、縊首《いしゅ》しようとした。
だけど、部屋を訪れた人間に見つかってしまい、自死は失敗に終わる。
(私は死んで、愛するイグニス様の元へ向かうことも許されない)
絶望していた自分に、声をかけてくる人物がいた。
これから義弟になるはずだった幼馴染みの青年。
「イグニス兄さんを殺した僕に怒ると良い。それで貴女が生きてくれるのなら、僕は……」
――兄殺しの弟。
そうして、私の幼い頃からよく知る弟のような彼が、私にそう告げてきたのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
633
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる