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しおりを挟む無機質なノックの音が聞こえたら、それは愛のない行為の始まりだ。
「レティシア、入るぞ」
声がすると扉が開く。
月光に輝くと金にも銀にも見える流麗な髪が、サラリと揺れ動く。
碧玉色の瞳の中、ランプの艶めかしい光がゆらゆらと揺れた。
アルフォンス・ゲーティア公爵。
王国の魔術師長を務めており、「死神公爵」や「死霊遣い」の異名を持ちながらも、王族の縁戚という地位と莫大な財産とその美貌とで、多くの女性達を虜にしてきた人物だ。
男性らしい雄々しさがありながらも、貴族然とした優美で端正な顔立ちの持ち主だ。
少年の頃の可憐なテノールとは違って、今はバリトンの質の良い楽器のような声へと変貌を遂げていた。
「いたのなら、どうして返事をしない?」
生憎外は雨が降り始める。
閃光が煌めくたびに、彼の綺麗な顔を明滅させる。
窓には儚げな容貌の女性――レティシアの姿が映る。
白金色の流麗な髪に陶器のような白い肌の持ち主であり、愛らしい顔立ちだが、人形のように感情に乏しい表情をしている。
白金色の睫毛が震えると麗しき紫水晶の瞳に影を落とした。桜色の唇が金糸雀のような声を紡ぐ。
「……アルフォンス様。返事が遅くなってしまい申し訳ございません」
「いいや、時間に遅れた俺にも落ち度がある」
アルフォンスからは冷淡な返答があるだけだ。
(アルフォンス様が何を考えていらっしゃるのかが分からない)
レティシアは十五の時、当時二十歳を迎えたアルフォンスと――文字通りの愛のない政略結婚をした。
彼女の生家であるハノール公爵家と彼の生家であるゲーティア公爵家はずっと仲違いをしていたため、両家の仲を取り持つための結婚だった。
いがみ合っていた公爵家は赤ん坊の誕生を待ち望んでいたが……
二人とも肉体的に若かったけれども、レティシアが病弱なせいか、はたまた行為の回数が少ないからか、なかなか赤ん坊を宿すことができないでいた。
次第に彼の閨への足は遠のいていき、今では月に一度しか夫婦の営みはない。
――結果。
レティシアにとっては異母妹であるカノンを、アルフォンスの正妻にしてはどうかという話が上がっているそうだ。
カノンはレティシアよりも二歳年下で、賢くはないが健康で愛らしく、色んな人たちに好かれる令嬢だ。
(私は両家どちらにとっても役立たずの存在。噂通り、アルフォンス様はカノンと結婚してしまうのかしら?)
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