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第3章 身体だけの関係?
15-3
しおりを挟むましてや――身体が繋がりあって、ちょっとだけ距離が近づいたと思っていた相手だけに、冷たい態度を取られてしまって、想像以上に動揺している。
(恭司さんはそんな人じゃないって分かっているはずなのに……)
なんだか嫌な胸騒ぎがしている。
そもそも――自分が思っているよりも、恭司は自分に歩み寄ってきているつもりさえないかもしれないのだ。
(せっかく最近はだいぶ前向きになっていたんだけどな……)
美桜が前向きになれたキッカケをくれたのが恭司なのだ。
他人の反応に依存してはいけない。
頭では分かっている。
だけど……。
「おい、恭司!」
少しだけ先を歩いていた恭司のそばに男性が歩みよってきた。
長身で筋肉質な恭司よりも、さらにガッチリした雰囲気の男性だ。陽気な雰囲気を醸している。
(確か、難波副社長さん)
恭司のマンションに泊っていた時に、電話口で声だけ聴いていたので、ピンと来たのだ。
そうして、難波が恭司に向かって軽快な口調で告げる。
「どうしたんだよ、お前? 歩いて出勤するの、好きじゃないって、あれだけ愚痴ってたのに」
俯き加減だった美桜はパッと顔を上げた。
どうたら恭司が歩いて出勤するのは珍しいようだ。
すると、恭司の声が風に乗って届く。
「気が向いたんだよ」
「最近お前、熱でもあるのか? ああ、そういやあ、電話で……」
「難波、公私混同するな」
恭司が難波をぴしゃりと制した。
「悪い、恭司」
難波が両手を擦り合わせながら謝罪している。
恭司が淡々と答えた。
「いや、俺の言い方も悪かった。人間だから、完全に公私を切り分けることができないのは分かっている。現にお前も嫁と楽しそうな時は、仕事がはかどっているしな。だが、むやみやたらとプライベートの事情を仕事に持ち込むのは良くない。そうは思わないか?」
すると、難波が怯えた表情を浮かながら、小さな悲鳴を上げた。
「……どうした!? 恭司、お前がそんな誰かに優しい発言をするなんて……! 天変地異の前触れか……!?」
「仕事を増やすぞ」
「いや、それはやめてくれよ。ただ、かなり驚いただけだって。珍しいもの見たから、今日は良いことがあるかもなあ」
どうにも難波副社長は陽気で前向きな性格の人物のようだ。はた目から見ても、表情がくるくる変わって、恭司とは正反対な雰囲気を醸している。
そうして――恭司が一瞬だけ美桜のいる方へと振り返ると、すぐに前を向く。
「まあ、俺も朝から飼い猫の様子を見れたから安心したよ」
ドキン。
美桜の心臓が跳ねた。
(飼い猫? それって、もしかして……)
恭司と難波が玄関へと先に入って行った。
ミオも自動扉を潜り抜けながら、反省する。
(お仕事モードなんだ。確かに恭司さんの言う通り、公私混同は良くないよね)
美桜はクスリと笑った。
私生活だと、年上なのにイタズラをしかけてくる少年のような印象があるけれど……。
(すごく仕事ができる若手社長さん、カッコイイな)
それに……。
(さっきの恭司さんの話、ミオちゃんのことかもしれないけど……もしかしたら、私の様子を見たくて歩いてたのかもしれないし……自惚れかもしれないけど、そうだったら嬉しいな)
美桜はふんわりと笑った。
先ほどまで、少しだけ猫背ぎみな美桜だったが、背筋をまっすぐに伸ばして、会社の中へと足を踏み入れたのだった。
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