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しおりを挟む俯いたままの彼女の前に、懐かしくて大きな掌が差し出された。
思わず顔を上げる。
逆光で、彼の髪が透けて、黄金色に見えた。
彼の顔が昔の彼と重なって、椿はなんだか泣きそうになる。
「どうした?」
振り返った清一郎が、少しだけ不機嫌そうに眉を顰めている。
「ええっと……ごめん……なさい……」
「必要がない場面で謝るな――」
彼の機嫌を損ねてしまっただろうか――。
心配していると、バツが悪そうに、彼が大きなため息を吐いた。
「……今のは言い方が悪かった……」
相手の反応の意図がよく分からず、椿が手をこまねいていると――。
「何を呆けているんだ――ほら、行くぞ……」
「あ……」
彼に手を引かれ、前へと進む。
いつの間にか、彼の隣に立ってしまっていた。
掌から彼の体温が伝わってきて、心臓が心地よいリズムを刻みはじめる。
「ああ、繋がれたくなかったら、もう離してもらって良いから」
せっかく隣を歩けたのに、明後日の方向を向いている、彼の表情は伺い知れない。
だけれど――。
昔好きだった頃の彼を、今の彼の中に見つけた気がして……。
自分でも馬鹿で単純だと思ってしまうけれど……。
どれだけ傷付くような態度を取られたとしても、彼への想いはどうしても消えてはくれなくて……。
(ああ、私は……この人のことが今も……)
そうして――。
椿は彼の手をそっと握り返す。
清一郎がピクリと反応したかと思うと、先ほど以上に強く強く手を握られ直した。
しばらく恋人や夫婦になったような――。
そんな幸せな気持ちで、彼の隣を歩いた。
目的地に到着する。
連れてこられたのは――。
「ああ、着いたぞ――」
――思い出深い活動写真が流れる劇場だった。
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