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第1章 出会い――彭候――
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しおりを挟む「なんて美味な湯なんだ……まるで春に咲く大輪の桃の花のように、私の心を彩っていくよ」
髭面の男が感嘆の声を上げる。
「いちいち詩的な表現を、どうもありがとうございます」
小屋の中で、羊肉を入れた湯を蘭花は男に振舞った。
北の帝国も近い寒冷地である農村特有の塩っぽい味付けの湯。その中に麺を入れているから美味しいはずだった。身体を温めるために、香辛料もふんだんに取り入れている料理だ。
その湯を、髭面の男は幸せそうに食べていた。
「私の奥さんになる人は、料理も作れるなんて……最高だな」
またもや「花嫁」だの「奥さん」だのと言われた蘭花は、白豚貴族の桂香を思い出して総毛だった。
「初対面の人に花嫁とか奥さんとか言われるのはちょっと……しかも、私はあなたの名前も存じ上げませんし……」
ぶるりと身を震わせる彼女に対して、髭の男はにこりと笑う。
「まあまあ、でも、もうそういう運命だからあきらめた方が良い。ちなみに、私の名前は天狼だよ。未来の夫の名前だから、覚えておくと良い」
「天狼……」
太陽の次に明るいとされる星と同じ名前。
「焼き焦がすもの」「輝くもの」と言った意味を持つ夜空に輝く星。
そんな星と、目の前の男とがどうしても頭の中で結びつかなかった。
「蘭花……君は気高い華の名の通り、とても美しい女性だ。一目見て、君が私の運命の花嫁だと分かったんだよ」
軽い口調で話す彼のことを蘭花は軽くあしらった。
「桂香と言い、貴方と言い……占術士のわたしに向かって運命だなんて、よっぽどの自信ですね」
「君の方こそ、占術士なのに、私が運命の人だって分からないのかい?」
青年の問いかけに、蘭花はむっとなった。
「仕方ないじゃないですか、予言は急に降りてくるんですもの――」
「急に……ね」
相手がにやにやと微笑んでいるようにもみえる。
天狼の含みのある言い方に対して、彼女はますます腹が立ってくる。
「言われてみれば、そうだったな」
伏し目がちに彼はつぶやいた。
長い睫毛が碧の瞳に陰を落とす。
髭に隠れた薄い唇がゆるりと弧を描いた。
(やたらと含みのある言い方をする男ね……髭を剃ったら美形だなんて……そんな都合の良い話があるわけはないか……)
「それよりも、私の体質について知っているなら、何か教えてほしいのですが――とは言え、貴方はすごく臭って、話になりません。不潔な人は嫌いです。もうすぐ夜になりますし……お風呂を沸かしていますから、入ってきてください」
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