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第1章 出会い――彭候――
3※
しおりを挟む風呂から上がり、髭を剃り、紫がかった黒髪を整えて現れた青年・天狼の姿を見て、蘭花は目を見張る。
「ああ、驚いたかい? 素顔の私は、このように美しい姿だから、なかなか外を歩くことができない。仕方なく、山男のような身なりに徹していたのだよ」
(自分で自分のことを美しいだなんて、よっぽどの自信家だわ……それにしても……)
あまりにも人間離れした甘い顔立ちの青年に、蘭花は衝撃を隠せない。
弓なりの眉は凜々しく、角度によって碧玉にも翡翠にも見える鋭い瞳。
すっと通った鼻梁に薄い唇。
流線を描く長い、紫がかった黒髪は女性と見間違いかねないほどに美しい。
(それに彼の碧の瞳……)
宝石のような目に見つめられ、彼女自身が目を離せなくなってしまった。
(まずい、初対面の見ず知らずの男性をじっと見てしまうなんて……)
あげく、満月の夜も近いからか、蘭花の下腹部が疼くではないか――。
(呪いの類だろうとは言え……これじゃあ、盛りの犬と変わらないわ……)
悩まし気な表情を浮かべた蘭花は、青年から距離を取ろうと、外に出ようとした。
「待て、我が花嫁、蘭花よ――このような寒冷地の夜の外へとお前は何をしに行こうとしている――?」
彼の腕がすっと伸びてきた。
流れるような優美な所作に見とれてしまう。
気づけば、彼女の身体は、彼の腕に絡み取られていた。
「いつの間に、あなた――」
そうして、彼の碧の瞳が、彼女の黄金の瞳を覗く。
「あ……」
(どうしよう……何なのいったい……? 呪い……? この人の碧の瞳を見ていたら、身体が……おかしくなって……)
――この男に逆ってはいけない。
否、逆らえない。
本能的な勘が蘭花にそう告げてくる。
「運命の花嫁……私が欲しくてたまらないだろう――? 僕も同じだよ――さあ、私に身を委ねてごらん――」
(いや……こんな自己陶酔の激しい人の言うことなんて……)
聞きたくないのに――。
手慣れた手つきで、天狼は蘭花の裳の帯を解いてくる。
しゅるりと音を立て、ぼろ小屋の床に衣服が落ちていく。
生まれたままの姿にされた蘭花の唇の中に、天狼が舌を差し入れかき回し始める。
「んぅっ……は……あ……」
口の中を犯されただけなのに、だらしなく蜜が溢れてしみ、彼女の両脚と土間を汚していった。
「さて、君の疼きは、私にしか止められない。大切な私の花嫁――妙な輩に手を付けられる前に、はやく私の者にしてやろう」
いつ狼が牙を向くかは分からないのだから、やはり、見知らぬ男を小屋に招いてはいけない。
――肌を愛撫されながら、蘭花はそんなことを思ったのだった。
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