【R18】四天の占星術士は、龍帝から不埒に愛される

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第2章 同居人との距離――咬――

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 壊れた屋根の隙間から日が差し込みはじめた。
 まぶしい光で眼裏が刺激され、蘭花らんふぁが目を覚ます。
 いつもはびゅーびゅーと隙間風が入ってきて寒くてたまらないというのに…。
 なんだか今日は、薄い布団の中がやけに暖かい。

(あれ? 私は……)

 蘭花は寝ぼけ眼を擦る。
 ぼんやりとした視界が徐々に清明になっていく。
 どうも、目の前に何かいるようだ。

「きゃああっ!」

 なぜか彼女が眠る布団の中に、紫がかかった黒髪を持った美青年――天狼てんろうが入り込んでいるではないか。
 彼女の心臓は、バクバクと音を立てて落ち着かない。

(小さいぼろ小屋住まいだし、小さな部屋ではあるけれど……)

「布団は端同士で、すごく離れた位置にしたのに……! なんで布団の中にいるのよ!?」

 蘭花が声を上ずらせた。
 それを聞きつけた天狼がぱちりと目を覚ます。
 同時に彼は彼女を腕の中に閉じ込めた。

「ちょっと、離しなさいよ!」

 だが、ますます天狼の腕の力は強くなる。
 そうして、彼は碧玉の瞳で彼女を覗いてきた。
 かと思えば、見たもの全てを虜にするような微笑みを浮かべてくるではないか。

(あ……)

 蘭花の心臓がドキンと跳ねる。
 それだけではない。

(どうしてだろう。昨日出会ったばかりのはずなのに、どうしてだか昔から知っている気がするのは……)
 

「おはよう、蘭花。今日も華もほころぶような麗しい憂い顔をしている」

「麗しい憂い顔?」

「そうだ。さすが我が花嫁といったところか」

 天狼は妙な言い回しをしながら、蘭花の漆黒の長い髪を撫で始めた。

「ひっ……! ちょっと、やめなさいよ! そもそも、あなたの言い回しを聞いていたら、なんだか鳥肌が立つのよ!」

「私の言葉だけで反応するとは、どうやら我が花嫁は初心で愛らしい存在のようだな」

 快か不快か、ぞわぞわとした感覚が彼女の身体の中を駆け回る。

(このまま天狼のペースに乗せられちゃダメよ!)

 蘭花は美しいと評判の眉をひそめ、大きく息を吸い込んだ。

「ねえ、天狼?」

「なんだい、花嫁よ。言いたいことがあるのなら、なんでも私に話してごらん?」

 微笑み続ける相手の態度に、湧き上がる怒りを抑えながら、努めて平静に蘭花は返した。

「どうして、わたしと天狼は同じ布団の中にいるのかしら? 昨日は布団の場所は離していたわよね?」

「そんなの決まっているだろう」

 天狼がキリリと眉をひそめた。
 真面目な表情を浮かべる彼は、それこそ妖の類いかと思うぐらい美しい。
 

「あ……そんな真剣な態度ってことは……もしかして、眠っているわたしを妖から守ってくれて、そのまま……だったり?」

 だが――。


「我が花嫁も、朝から私の麗しき顔を見れたら幸せだろうと思ってね」

「はい?」

 ……。

 ……。

 ……。

 しばらく沈黙が流れた。

 天狼は意に介さずに進める。

「私の発言によほど感激したと見える。そう、そうだろう。この私の誰よりも美しい顔を朝から見ることが出来たんだ。君のそういう反応を見たくて、寝たのを見計らって、布団に侵入して――そう、こんな風に君を花のように愛でながら――」

 彼の手が彼女の背をなで始めた。

 彼女の身体がわなわなと戦慄く。



「勝手に入ってきて、お触りしてるんじゃないわよ!!! この自惚れ屋の変態野郎!!!」



 蘭花の叫びを聞いた鳥たちが、朝のぼろ小屋からいっせいに飛び立ったのだった。


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