【R18】四天の占星術士は、龍帝から不埒に愛される

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第2章 同居人との距離――咬――

9※

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「何も叩かなくても良いではないか?」

 天狼は赤く腫らした頬を撫でさすりながら、蘭花に文句を告げた。
 彼の発言を聞いた彼女は、ぎろりと視線を向ける。

「何か言ったかしら?」

「ああ、我が花嫁は恐ろしいな――もう少し、未来の夫に優しくしてくれても良い気がするんだがなぁ……」

「だから、その、我が花嫁っていうのはやめてもらえるかしら? 鳥肌が立つから」

「なんだ、蘭花よ――それは君も私に興奮して――」

「いやあああっ! もう、そういう言い回しはやめて!!」

 蘭花の全身がぞぞぞと総毛だった。彼女は自身の身体を抱きかけるようして、腕をさすった。
 そうは言いつつも、準備していた椀を手に取ると天狼に分けてやる。

「ほら、北方では米は貴重なんだから……まあ、食べている人も少ないけれど、おいしいから。どうぞ」

「かたじけない。だが――」

「何よ? 文句あるの?」

「蘭花、君の分がないようだが?」

 彼女は図星をさされ、うっと言葉に詰まる。

「……気にしないでちょうだい。わたしはむぎで足りているわ」

 だが、そう言った瞬間――。

 ぐ――。

 彼女のお腹が盛大に鳴り響いた。

「――っ!!」

「おやおや、なかなかに素直な腹の虫だ」

「ちょっ……馬鹿にしないでちょうだい!!」

 天狼は、しばらく彼女の反応を見てカラカラと笑った後、微笑んだ。

「客人のために作ってくれた君の優しさごと、ちょうだいすることにするよ」

「別に……優しさなんかじゃ……ない……けれど……」

 蘭花はそれ以上は何も言えなくなった。
 天狼が箸を使って優美な仕草で飯を食す。
 その姿を、彼女は黙って見ていた。

(行き倒れとは思えないほど、えらく上品な男の人ね……)

 彼が食べ終わるのを見届けた後、彼女は本題に取り掛かることにした。

「――それで? その、天狼は、私がどうしてこういう体質なのかを知っているの?」

 体質――満月の夜になると身体が火照って仕方がなくなるのだ。
 犬猫の発情といっても差し支えはないぐらいに、体がおかしくなる。
 そうして、天狼曰く、蘭花は妖の類に好かれやすいとも――。
 蘭花が真剣な瞳を天狼に向けると、彼は優雅に微笑む。
 すると、ぴりっとした感覚とともに、彼女はまた、天狼の碧の瞳に囚われたように動けなくなった。

「な――」

「ほら、私の瞳を見ていると、身体が言うことをきいてくれないだろう? それこそが、我が花嫁たる証――」

 彼はそういうや否や、動けなくなった蘭花の顎に、長い指を添えた。
 口は動くので、彼女は彼に問いかける。

「何よ、それ――全然、答えになっていないじゃない――!」

「占術師である君が、そんなことを言うのかい?」

「それと、これとは話が別で――っ……!」

 すると、蘭花の唇へと天狼のそれが重なる。
 彼女の唇を割り入り、彼の舌が侵入したかと思うと、口腔内をかきまわしはじめた。

「は……はふ……は、んっ……」

 さらに、ちゅぷりちゅぷりと彼女の舌を、彼の唇が吸い上げる。
 粘膜を吸い上げられ、蘭花の全身が火照ってきた。

「ん……は……あ……」

 しばらく後に、やっとで彼女は彼から解放される。
 そうして得意げに天狼が蘭花に告げてきた。

「……ほら、逆らえないだろう――? 私と君は、天が定めた夫婦だ」

 確かに蘭花は天狼に逆らえない。
 だけど、それがどうして天が定めた夫婦たる証拠になるのだろうか。

「なあ蘭花……君が幼い頃に、天から降りたといい、とある少年に託宣をさずけた――覚えていないか?」

(幼い頃――?)

 
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