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第2章 同居人との距離――咬――
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しおりを挟む蘭華は翻弄され、荒くなった呼吸を整える。
――突然降りてくる未来。
そのことで幼少期の蘭花は振り回されていた。
色んな相手に色んな未来を教えた。
あまりに膨大な数だ。
誰に何を告げたかまでは覚えていない。
「ごめんなさい、何も覚えていなくて……」
蘭花は首を横にふるふると振った。
天狼は碧の瞳を細めた。
少しだけ寂しそうな表情に見える。
「まあ、良いさ……」
「天狼?」
彼が改まって口を開いた。
蘭花はきゅっと唇を引き結んだ。
「……君のその体質は、私の花嫁であるがゆえに起こっている。そのままだと、妖に狙われ続けるだけ――だが一つだけ解決方法がある。しかしながら、君はどうやら乗り気ではないらしい」
「解決方法――? 私が乗り気ではない――?」
ふと、天狼が蘭花に先日告げた言葉を思い出す。
『そうか……だが、君は我が花嫁だ。どうしても、妖の類を魅了してしまう。早く私と契り、私の加護を受ける。それこそが、君のその悩みを解決する最速最善の道といえる』
彼の言葉の数々をかみ砕いていく。
「そんな……他に方法はないの……?」
「そんなに私には興味がないかな?」
「……それはいいのだけれど、満月が来るたびに、体の火照りが治まらないどころかどんどんひどくなっていて――貴方と契るのは嫌だけど、このままじゃ……」
盛りのついた動物のように、手当たり次第に男を襲いかねない位に、身体がおかしいのだ。
「まあ契らず、私がそばにいさえすれば、当面は問題ないだろう――契れば、加護が長くは続くが、いずれは消える」
「何よそれ!! じゃあ、結局あなたと契っても意味ないんじゃない!」
「継続すれば意味はあるだろう。とはいえ、私もずっと君と一緒に過ごせるわけじゃない」
「ますます、私の身体を弄びたいだけじゃない!!」
「まあ、落ち着け。仮に私がそばを離れたとしても、君が妖につけ狙われなくてすむ方法が一つだけある」
天狼の言葉に蘭花の瞳が輝き始める。
「何よ、あるんじゃない!! それをさっさと教えなさいよ!」
「――それは――」
蘭花はごくりと唾をのみ、天狼の言葉を待った。
ぼろ小屋には似つかわしくない高貴な雰囲気を漂わせた彼が、ゆっくりと告げた。
「――番たる私の子を宿すことだよ――我が花嫁、蘭花――」
「え――?」
少しだけ期待に胸が膨らんでいた蘭花は、一気に裏切られたような気分になり、天狼に喰ってかかった。
「それは、貴方にとって都合の良い妄言だわ――! だって、証拠も根拠も何もないもの!!」
身体が動かなくなってどれくらい経っているだろう。
蘭花は、天狼に向かって吠えるように叫んだ。
その時――。
「きゃっ――!」
彼女の視界が反転し、ぼろ小屋の煤けた天井と梁が目に入る。
「だったら――」
横たわる蘭花の身体の上に跨った天狼が、またしても彼女の唇を奪った。
「――あっ……! んっ、う……」
くちゅくちゅと水音がしばらく立った後、天狼が舌なめずりをして不敵に笑う。
「――論より証拠だ。君の体質が本当に変わるかどうか、一度、私と試してみようじゃないか」
「――なっ……!」
裳の中にしゅるりと天狼の長い指が伸び、蘭花の肌への愛撫を始めたのだった。
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